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食品加工の研究は、タンパク質の変性をコントロールして狙い通りの食感とおいしさを実現できるから面白い!

2018年3月9日掲出

応用生物学部 阿部周司 助教

阿部周司 助教

 世界で初めて冷凍すり身の商業化に成功した方を曽祖父に持つ阿部先生。現在は、かまぼこの製造技術やその原料である冷凍すり身の科学的研究に取り組んでいます。今回は、現在、取り組んでいる研究について伺いました。

■先生のご研究について、お聞かせください。

 今、メインで取り組んでいるのは、かまぼこなどの水産練り製品の原料である、冷凍すり身の研究です。現在、冷凍すり身は、日本だけでなく世界各国で作られています。中でも東南アジアに工場が多く、日本はそうした海外の工場で作られたものを年間40万トンほど輸入して、かまぼこなどに使用しているのです。
 私は、その冷凍すり身が、例えば冷凍庫の故障や輸送中のトラブルなど、何らかの事情で一度解凍されて再び凍結された場合、その品質がどう変化するのか、それを使って作られるかまぼこにどう影響を与えるのかという研究を手がけてきました。
 かまぼこを作るときは、魚肉に塩を加えて攪拌して練り、それをそのまま加熱する場合と、20℃くらいで置いておく「坐り(すわり)」という工程を行う場合があります。この「坐り」を行うことで、かまぼこのプルプルとした弾力性のある食感を作ることができるのですが、再凍結された冷凍すり身は、この「坐り」に大きく影響することがわかりました。
 具体的には、再凍結された冷凍すり身を使って「坐り」を行うと、ゲルの弾力性、つまりプルプルした食感が形成されにくく、その後の加熱工程で製造されたかまぼこの食感もなかなか強くなりません。この「坐り」工程を行う代表的な製品には、板かまぼこがあります。ですから、板かまぼこには、再凍結された冷凍すり身が使いにくいということが言えます。一方、「坐り」を行わなければ、あまり変化がないこともわかりました。例えば、揚げかまぼこ、つみれ、さつま揚げといった練り製品は坐りを行うことが少ないので、そういった製品に対しては冷凍すり身の再凍結の影響が小さいということです。これまで再凍結された冷凍すり身は、廃棄されるか増量剤にしか使用されていなかったのですが、この研究結果から再凍結された冷凍すり身でも相応の製品が製造できる可能性が見出せたのではないかと思います。
 また、この研究ではスケトウダラの冷凍すり身を対象としたのですが、今後はそれ以外の魚種についても調べようと思っています。おそらく魚種の違いによって、全く結果が違ってくるだろうと予想しています。というのもスケトウダラは海水温の低い北の海に生息している魚のため、熱に弱いのです。一方、東南アジアのすり身工場では暖かい海の魚をすり身に使っています。そういう魚で製造した冷凍すり身が再凍結された場合、品質がどう変化するのか調べてみるつもりです。


■最近はAIを使った研究にも取り組んでおられるそうですが。

 コンピュータサイエンス学部の石畑宏明先生をはじめ、多くの先生方と一緒に、AIを使った鮭の雌雄判別の研究を始めています。私の地元・北海道網走市は鮭の水揚げ量が全国トップで、魚の加工工場では、何トンと仕入れた雄の鮭をフィレにする加工を行ったりしています。しかし、たまにその中に雌が混ざることがあります。現状、鮭の雄雌の判断は、すべて漁師さんが手作業で行っていて、一尾3~4キロはある鮭を一瞬で雌雄判別して、手でぽんぽんと投げ分けていくので、かなりの重労働になっています。また、見分け間違えて高価なイクラを持っている雌を雄として渡してしまえば、損も発生します。一方、加工工場からすると、雌が混ざると雄と分別しないといけないこともあるので、手間がかかります。そこでAIを使って雌雄を自動判別できないかと考えたわけです。

まず、漁師さんに鮭の雄雌を見分ける基準を伺ったところ、大きく3点ありました。一つはしっぽの角度。雄は少し角度がつき、雌はやや丸い形をしています。二つめは顔。雄は少し上あごが出ますが、雌はあまり出ていません。そして3つめが、あぶらびれという背びれと尾びれの間にあるひれのサイズ。雄は魚体に対して大きく、雌は魚体に対して小さくなっています。だいたいこの3点で、漁師さんは判断しています。しかし、中には判別が付きにくい形状の鮭もいますし、さらには雄に似た特徴を持つ雌や、その逆もいますから、やはり例外として間違うこともあるんですよね。その結果、ベテランの漁師さんでも雌雄を100%見分けることはなかなかできません。
 この研究で、私は実際に加工工場へ行って、AIに学習させるための鮭の写真を撮影してくるなどのデータ収集と、判別基準など生態的な部分の情報を担当しています。また、石畑先生をはじめとするコンピュータサイエンス学部の先生方には、そうしたデータを用いた専門的な解析を担っていただいています。現状、条件付きですが約99%の正答率まで持っていくことができました。残りの1%は先程お話しした例外のパターンです。もしAIで例外ケースまで判別できれば、すごく面白いと思いますが、この99%という数字は現場で求められている数字としては十分なものです。これからは、水揚げされる地域や時期が異なっても、同じくらいの正答率が得られるかが課題になってくると考えています。また、この研究の最終段階としては、例えば水揚げされた鮭を一尾ずつ滑らせてカメラで捉え、AIが雄雌判断をして仕分けるような自動判別機を安価で作ることができればと考えています。

■研究の面白さはどんなところにありますか?

 食品加工の醍醐味の一つとして、タンパク質をどう変性させいていくかということが挙げられます。それによって色々な食感を作ることができるのです。かまぼこの原料である魚肉を構成するタンパク質には、高校の生物で習う“ミオシン”や“アクチン”があります。それらは塩に溶け、それぞれが結合してアクトミオシンというタンパク質になって、粘りを出します。だから、かまぼこの製造工程では、魚肉に塩を入れて攪拌するわけです。そうした反応を理解して食感をコントロールすることが、私にとって一番楽しいところです。自分の狙った通りの食感で、本当においしいものが出来たときは、研究もうまくいき、食べてもおいしいので、達成感があります。また、私の研究成果を待っている実際の加工現場がありますから、研究を社会に還元できるという意味でも、この研究は楽しいですね。

■最後に受験生・高校生へのメッセージをお願いします。

 将来、やりたいことが決まっている人は、それに向かってどんどん突き進んでください。ですがもし、まだやりたいことが見つかっていないという人がいれば、大学に入ってから見つけるのも手だと思います。まずは自分の“好きなもの”を、深く知るところから始めてみましょう。また、ひとつのことを深く掘り下げていると、どうしても他のことが知りたくなってきます。大学は、自分の好きなことを軸に、そこから枝葉として伸びるさまざまな分野を学べるところです。中でも応用生物学部は、色々な研究に取り組んでいる先生方がいますから、興味の軸となるものを見つけられることはもちろん、枝葉の部分を学ぶにも事欠きません。例えば、私の専門である食品分野は、必ず環境問題や生態、化学が関係してきます。本学部ではそうした分野も学べるので、もし私が学生時代にここで学んでいたなら、今よりもっと自分の幅が広がったのではないかと思うくらいです。
 あとは、大学で良い先生と出会うことですね。そのためには、さまざまな先生とたくさん話をしてください。先生方は情熱を持って研究の話をしてくれると思うので、きっと研究の面白さが伝わってくるはずですよ。

・次回配信は5月を予定してます。