大学の学びはこんなに面白い

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研究・教育紹介

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「横断的に知識を身につけて、社会で活躍するクリエーターになろう!」

デザイン学部 山岡俊平 教授

デザイン学部 山岡俊平 教授

■2010年4月開設のデザイン学部で、先生はどのような教育をご担当されるのですか?

デザイン学部の教育の説明からしますと、1、2年生では“感性教育”が大きな柱になり、2、3年生では“スキル教育”がもう一つの柱になります。感性を育て、それを形にするためにスキルを学ぶという流れですね。この感性教育を本学部では「感性演習」と名づけ、「描く」「つくる」「伝える」「関係づける」という4つの学びで構成しています。私が担当するのは、その中でも「関係づける」という授業です。
ひとくちに“感性”といっても非常に幅広いのですが、私としては、社会をしっかり見ていくとか、人のための造形はどこにあるのかということを、いろいろな手法で学んでいければと考えています。具体的には、日本の伝統的生活文化や思想と現代のデザインを関係づけるということをしていきたいです。私はもともと“工芸”という日本の伝統的なもの、茶釜や花器などをつくる分野の出身です。金属を溶かして型に流して茶道具をつくるなど、金属工芸の“鋳金”という分野を学んだものですから、現代のデザインと日本の金属工芸との関連性に非常に興味を持っています。日本の伝統工芸がどのように今のデザインにいかされるかというところですね。今の若い人たちはその辺の部分に触れる機会が少ないと思うので、自分たちのルーツや文化の元をたどって学び、現在の、あるいは未来のデザインに活かすということに繋げていきたいと考えています。

デザイン学部:カリキュラム

■具体的に、授業ではどんな内容を扱おうとお考えですか?

例えば、食文化というテーマを設けて、それをしっかりと調査し、今の生活の中でそれらがどのように活かされているのかといった関係性を見るところから始めたいと考えています。そこから発展させて、新しい時代の食環境をどういうふうにつくっていくかという未来への提案づくりも行うつもりです。制作系の学部ですから、具体的には絵にしたり、実際に何かをつくってみたりということをしていきます。もちろんプレゼンテーションとして文章も書いてもらいます。他には「住まう」という文化の中で、日本人がどのような明かりの採り方をしてきたかという切り口でも見ていきたいですね。それを今のインテリア空間の中で、どう光を構成していくかということに繋げたいと思っています。

■学生に、どのような人になってほしいですか?

いわゆる手を動かして、色や形を決めていくデザイナー、もっと広く言えばクリエーターですね。それに加えて、物事をトータルで見ていくディレクターやプロデューサーになり得る人を育てるというのもデザイン学部の目標です。だからこそスキルだけでなく、感性教育というものが大切になってくるのです。感性教育というのは、デザイナーとして必要な素養の根っこの部分をつくっていくことになりますから。

■ディレクターやプロデューサーは、クリエーターとは違った素養が要求にされると思いますが、教育面ではどのような工夫があるのでしょうか?

3年次から専門教育が始まるのですが、その部分でも全教員が全分野に緩やかに関わりながら取り組んでいく体制をとることになっています。3年次からは「視覚と伝達」「映像と構成」「空間と演出」の3コースを設定します。ただ、かっちりと決められたコースではなく、この3つの領域を横断的に学ぶことができるようにしているのです。学生は3コースをひととおり勉強してから、自分の最終的な方向を決めることができます。こういう横断的な教育を受けることで、幅広い知識を得ることができます。デザインの世界は、実は横の広がりをきちんと理解していないとできない分野ですからね。例えば、視覚伝達のデザイナーは、ウェブのことはもちろん映像のことだって理解していなければなりません。そうした専門性と総合的な視点を養える教育が、ディレクターやプロデューサーの素養を育てることに繋がっているのです。また、このような横のつながりを重視したカリキュラムは、他の美術系大学にはない、本学ならではの特長でもあります。

■先生の作品についてもお聞かせいただけますか?

写真は「Circle Construction」と題して取り組んでいる作品です。くすのきを輪切りにして中心部分をくり抜き、輪をつくります。それをいくつか組み合わせて連続させていくと、空洞の中の空気が見えてきます。輪をつくっているんですけど、逆に空洞の部分をつくっているような意識、空間をつくっているという意識の作品です。木の中にあるねじれやゆがみ、コンパスで描いた円ではない植物の持っている表情そのものを置くことで、空間が動くような、伸びていくようなものを意識してつくっています。
“輪”は、大学の卒業制作から取り組んできたものです。そのときは鉄の大きな輪をつくりました。輪にたどりついたのは、東京国立博物館で古い鐙(あぶみ)を見たことにあります。鐙というのは、馬に乗ったときに足をかける輪の部分のことです。その錆びて朽ちかけている様を見たときにブルブルっと震えて、すっかり魅せられまして(笑)。また、鐙という小さな輪の中に空間性みたいなものも感じたんですよね。それ以来、とり憑かれたようにいろいろな輪をつくっています。

「Circle Construction」 山岡俊平 教授

■先生ご自身は、どのようなきっかけで芸術の道に進まれたのですか?

実は、よくわからないんです(笑)。気づいたら、それにしか関心がなかったという状態で。それ以外できないと言った方が正しいのかもしれませんね(笑)。大学では染織や陶芸、鋳金や鍛金、彫金など、さまざまな分野から成る工芸科に入って、3年生のときに鋳金を選びました。入学当初は陶芸をしたいと思っていたのですが、いろいろなものに触れているうちに、金属に惹かれていったんです。きっと私の中に金属の頑強さみたいなものがなくて、逆に憧れがあったのだと思います。自分をはねつける強さみたいなものを感じて。それで鋳金を選んだのですが、多くがブロンズ(青銅)を素材として扱う中、私はそれに反発して、錆びていく鉄の方に興味を持っていきました。金属の重厚さや確かさ、頑強さではなく、錆びて滅んで、朽ちていく不確かさ、儚さみたいなところに魅力を感じたんですね。
ですからデザイン学部に入学する学生にも4年間かけて、ぜひ自分のアンテナと一番ぴったり合うものを見つけてほしいと思います。そして、卒業後もその価値観を持って、直接的に活かせるか間接的に活かせるかはわかりませんが、長く社会で活躍できる人になってくれれば良いなと願っています。
[2009年10月取材]

・次回は12月11日に配信予定です。

2009年11月13日掲出