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見る人に新しい視点や発見を与えることのできる、映像表現を生み出したい。

2012年8月8日掲出

デザイン学部 竹本 正壽 教授

デザイン学部 竹本 正壽 教授

CMディレクターとして活躍してきた竹本先生。キヤノンT70「未来都市」や住建産業「小さな森」、カンヌ国際広告祭銅賞を受賞した日清カップヌードル「ビルボード」など、これまでに多数のヒットCMを手がけてこられました。今回は、広告・CMの話や授業での取り組みについて伺いました。

CM制作

■先生のご研究について、お聞かせください。

これまでCMディレクターとしてCM制作に携わってきました。学生に教える立場となってからは、CMや広告の役割というものを振り返って、分析的に考えるようになっています。
現在は今までやってきたことを生かして「コミュニケーションするための映像表現」について考えています。
CMや広告が何かの役に立っていると思う人は、あまりいないかもしれませんが、私自身は、広告は生活の中の潤滑剤、人がより良く暮らしていくとか楽しく生きていくために、とても重要なものではないかと思っています。そして今はまだ文化という認識はないかもしれませんが、後世に残っていけば何かしら文化になるものだろうと思っています。例えば、江戸時代の庶民が気軽に楽しんでいたものも、今では文化として認められていますよね。それと同じで、今は広告やCMを特別なものとする意識がない状況でも、いずれは文化と呼べるようになるといいなと考えています。
また時々、広告やCMは営利主義的なものとして批判されることがあります。しかしCMで言えば、私たちCMディレクターは映像を使って人に何かしら情報を伝える、しかも感動を与えたり人の心に訴えかけたりするものを作ろうと、心がけています。見る人にコミュニケーションをはかろうとすることが広告では大切だと思います。企業は、その商品やCMが社会にどう影響を与えるかということまで考えなければならない社会的責任を負ったうえで、世に出しているわけですから。企業にしてもCMの作り手にしても、非常に誠実にCM制作に取り組んでいるのだということは、多くの方に伝えたいことのひとつです。また、CMディレクターやデザイナーは、「この企業の、このサービスや商品はどのようなことを目指して作られたか?」ということをしっかり理解し、その商品やサービスの価値や魅力を人に伝えるために工夫を凝らして形にしていくことが仕事です。学生には、授業で具体的なCMの作り方をスキルとして教えてはいますが、実はそれよりも今話したような物事を誠実に捉えて工夫を凝らしていく姿勢や考え方を第一に理解してもらいたいと思っています。

■先生が手がけたCMで、特に印象に残っているものはありますか?

いくつかあるのですが、心に残っている仕事という意味では、一人前のCMディレクターとして初めて任せられたキューピーマヨネーズの東北版CMがあります。それまでは尊敬するディレクターのアシスタントとして制作に携わっていたのが、今度はすべて自分で決断しなくてはならない立場になって。アシスタントの頃は、師匠の仕事を見て「自分にもできる」なんて自信を持って思っていたのですが(笑)、実際に演出する立場になると、想像と180度違うということを思い知りました。言われたことをやるのと、自分の考えで決断していくことは全然ちがったということです。例えば、撮影のセットの雰囲気はどうするかとか、そこに置く小道具、衣装ひとつとっても、どういうものにするのか選択して決断しなければなりません。下手に自分の趣味性で選んでは絶対にダメですが、クリエイティブというものを突き詰めれば、自分の感性を通して判断したものでなければ確信を持って演出できませんから、その狭間で決断することの難しさを痛感したんです。結局、私が行き着いた結論は、このCM制作に携わる人たちの知恵を借りる事と、仕事を依頼してくれた企業の方がこのCMで何を伝えたいのかという部分を一生懸命考えて、それを基準に決断していこうということでした。自分がではなくその企画がどうあればいいかということを考える。そうするとその企画を映像化する上での必要な事が具体的にイメージできるようになりました。
こういう話は学生にもしますが、自身が体験の中で養わないといけない事ですから、たくさんの課題の中から苦しみながら、それぞれが自分の方法をつかんでもらいたいと思います。

ピンホール写真 スキル演習紹介ビデオ制作

■先生ご自身は、どういうきっかけで映像やCMに携わるようになったのですか?

最初は映画作家になりたいと思って、大学に入学したんです。きっかけは高校時代に、たまたまテレビで『突然炎のごとく』というフランス映画を観たことでした。何だかわからないけど、とにかく惹きつけられて。調べてみると、その映画の監督は、フランソワ・トリュフォーという人で、ヌーヴェルヴァーグという映画運動を代表する映画作家でした。ヌーヴェルヴァーグとは、1950年代後半のフランスで始まった若手映画作家による自由な映画作りの運動で、彼らはそれまであった映画監督になるには映画制作会社に入って監督の下で修業を積むというプロセスを踏まずに、自分たちで好きに映画を撮って作品にしていったんです。それで私は「修行しなくても映画は撮れるんだ!」と愚かにも思ってしまい(笑)、大学に入ったわけです。そこからCMの方向へと切り替わったのも、あるきっかけからでした。またしても、たまたまテレビでサントリーオールドというウィスキーのCMを観たんです。そのCMは、日本で初めて中国を舞台に撮影されたCMだったのですが、とにかくすごく感動しました。映画に感動はつきものですが、CMが感動を呼び起こすというのは思いもよらなくて。それを機に、映画もCMも同じ映像だと思うようになって、そのCMを制作した会社の門を叩いたのです。

多摩川にて授業のためのロケハン

■では、授業での取り組みについてもお聞かせください。

社会人として現場で体験しないとわからないことも多いですが、授業では、それよりももっと前段にある“考えることの面白さ"や“心構え"が身に付くように教えています。例えば、3年生前期の「映像と構成 専門演習I」では、映像を使って思いを込めて情報を伝えるということをしてもらいます。ここでの“情報"の意味は、一般に語られる情報よりもう少し広い意味で捉えていて、人の気持ちなども含みます。「愛しています」というのも受け手にとっては気持ちのこもった情報ですよね? ですから、映像を使って自分の気持ちを伝えると言い換えられるかもしれません。なぜこういう課題を学生に与えるかというと、今、映像を使って人に何かを伝えるということがお約束事的な表現や技術ばかりになっているのかなと感じるからです。世の中は映像で溢れているけれど、その中に作り手の思いが形になっている映像や、感動を与えてくれる映像がいくつあるだろうかと思うわけです。学生には、課題を通してそういう部分を意識してほしいと思っています。
例えば、今、学生が取り組んでいるのは、多摩川の魅力を人に伝える30秒の映像作品を作るという課題です。観る側の立場からみた魅力とは何かを考えながら映像制作に取り組むことを経験してもらいます。また、もうひとつの課題として、何かができ上がっていったり、作り方の過程をアニメーション映像で紹介するプロセスムービーの制作もあります。学生の中には「サバの味噌煮の作り方を外国人に教える」という切り口で、面白いアニメーション映像を作ったグループがありました。サバを切る包丁が日本刀だったり、忍者が出てきてサバの味噌煮を盗んでいったりと、“外国人に教える"と設定することで色々なアイデアが盛り込めるわけです。このような課題は、アニメーションであっても“人に伝える"というデザインの視点を軸にしたものですから、デザイン学部の特長が出ている思います。伝えることの工夫を徹底して身に付けてもらいたいですね。

学生たちとの制作風景

■最後に今後の展望をお聞かせください。

3年生の後期第4クォーターから始まる「映像と構成 専門演習II」や4年生の専門研究、卒業研究では、さっきお話ししたような、3年の前期までに学ぶ“映像で情報を伝える"ということをベースに、まったく新しい表現を探っていくことをしようと思っています。広告という枠を離れて、人に感動を与えられるもの、発想力や企画力をベースにしたデザイン表現や映像表現を作ってほしいんです。それはつまり観る人の価値観や視点を、ガラッと変えてしまうようなものかもしれません。そういう映像を作ることができたら、面白いんじゃないかと思っています。例えば、その映像を観た人が、まったく関係ないけれど、なぜか自分のおばあさんの懐かしい記憶を思い出すとか。つまり思い出すきっかけになる映像表現ですね。さらに言えば、最終的に見せるものは映像でなくてもいいのかもしれません。ある空間がぽんとあって、それが人の頭の中にある映像やイメージを呼び起こすということかもしれない。そういう部分で、面白いことを考えて形にしていこうと思っています。

■デザイン学部 竹本 正壽 教授個人ページ
https://www.teu.ac.jp/info/lab/teacher/ds/?id=6

・次回は9月14日に配信予定です。