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AIを使って正確に未来を予想し、社会のさまざまなことに役立てたい!

2020年1月10日掲出

コンピュータサイエンス学部 瀬之口 潤輔教授

瀬之口 潤輔 教授

 証券会社などで活躍されてきた金融のエキスパートである瀬之口先生。会社員時代、AIによる株価の騰落予測をする統計モデルの開発を試み、現在は実際にAIファンドとして採用され、運用されています。今回は先生のご研究の詳細や本学で取り組みたいことなどをお聞きしました。

■先生はどのような研究に取り組んでいるのですか?

 私は簡単に言えば、AIで未来を予想するという研究に取り組んでいます。そもそもは証券会社に勤めていた2002年頃に、AIで株価を予想しようと統計モデルをつくったことに始まります。当時はまだAIの技術もコンピュータの性能も今ほど高くなかったので、AIといっても従来の統計モデルに毛が生えたくらいの原始的なものでした。ですから、株価予想の結果も良くなかったです。しかし、年々コンピュータの性能が良くなり、2013年頃にはいわゆるディープラーニングという手法が登場し、第三次AIブームの波が来て、その手法も発達してきました。そういう新しいものを取り入れてからは、株価予想の結果も随分と良くなり、8~9割の的中率を誇っています。
 そこで2017年から投資信託を行う会社で、私が開発したAIを取り入れたAIファンドの運用が始まったのです。株価や為替レート、金利、商品価格など100種類ほどの公開データをAIに分析させて株を運用させるというもので、現在も運用成績を伸ばしています。株価予想にAIやビッグデータを使うメリットは、一時期だけの騰落を当てるのではなく、今までと同じような運用成績を継続できるという点です。たくさんのデータをAIに分析させて運用すると、今、当てはまることは何かを抽出して当てはめていくので、常に結果を残してくれます。
 とはいえ、同じモデルで成果を上げ続けるのは、3年が限度だろうと考えていました。というのもAIファンドは他にもありますし、成績が良ければ誰かに真似され、みんなが使うようになると良い結果が得られなくなるからです。しかし3年が経過しようとする今も先ほどの私が開発したAIファンドの運用は順調です。というのも私の開発したAIは、それほど世の中で話題になることもなく、真似する人もいないからです。この真似する人がいないという点には実は理由があり、私の研究の主要テーマでもあります。

■どんな理由があるのでしょうか?

 株や為替を予想するということは未来予想です。未来というものは、株でも人の行動でも政治でも経済でもどんなものでも不確実ですから、どうなるかは実際には誰にもわかりません。いくらAIを使ったとしても、未来を事細かに当てることは現時点では難しいのです。しかし、重要な事柄だけを抽出して、それらが今後どうなるかというように特定のものに絞っていけば、ある程度の確率で当てることはできます。つまり、過去起きたことを細かく分析して、その延長線上に将来があると考えるのではなく、過去に色々なことが起こっているけれど、将来につながるとても重要なことは何か、それをいくつか絞り込んでいく。そうしてとてもシンプルな形にして、何らかの法則が成り立つのであれば、将来はこうなりますよと予想できる。つまり過去のデータから重要と思われる中心部分だけを探っていくわけです。逆に細かい枝葉やノイズは予想できないので、排除していきます。
 こうした方法は、実は今のAIの発展方向と真逆です。今、AIは発達して色々と複雑なモデルができるようになっています。それを使うと、今までに起こった出来事や手元にあるデータがどういうものかを細かく整理できますが、それが必ずしも未来という不確実なものを予想することにはつながらないのです。例えばAIの顔認証では、どんなそっくりな人でも見分けることができます。それくらい顔の特徴や違いを細かく分析して、認識するからです。それはそれですごく役に立ちますし、色々なところで利用されているとは思います。ですが顔のように大きく変わらないものではなく、社会や経済、人の行動などは予測不能であり変化するものです。過去のパターンと類似する状況になったからといって、必ず同じことが繰り返されるわけではありません。そういうものを予想するには、複雑なデータをどこまで重要なものだけに絞り込めるか、シンプルにできるかということが大切になってきます。そういうAIの複雑化という流れと逆行した研究に取り組んでいるので、今のところ真似されずに済んでいるのです(笑)。

■今後、この研究にはどういう課題があるのですか?

 やはり説明能力ですね。AI全般に言えることですが、AIが何か判断したとき、なぜそういう判断をしたのかという計算過程はブラックボックスなのです。たくさんの複雑な繰り返し計算をしているので、なぜそうなったかは説明できません。ですからなぜそういう結果になったのか、重要な要因として何が抽出されたのか。また、その要因からシンプルなルールをつくって未来を予想しているわけですが、そのルールとはどういうものかということがわかるように、モデルの可視化をしていかなければならないと思っています。
 研究室が始動するのは来年9月からですが、学生たちには、未来を予想するような機械をつくったり、なぜAIがそういう予想になったのかを明らかにしたり、そこから導き出された予想を元に今、何をするべきかという行動につなげられるようなものをつくってもらえたらと思っています。当初は、これまで私が対象としてきた株価や為替といった経済予想をするAIの研究を進めていくつもりですが、いずれは対象を広げて、人間の行動や社会の予想につなげていきたいと思っています。それがこの研究室の大きな目的です。

■最後に受験生・高校生へのメッセージをお願いします。

 未来を知る試みというのは、非常にワクワクすることです。また、この研究は答え合わせが明確にできるので、目標を持ちやすく、打ち込みやすいテーマだとも思います。予想する精度が少し上がるだけでも楽しくなりますからね。
 それと同時に未来の出来事がわかる情報というのは、何よりも価値のあるものだと思います。そういう価値ある情報を取得しようという研究を行っているところは、実はそれほど多くありません。本学のコンピュータサイエンス学部はそういう研究ができる数少ない学部のひとつです。AIを使った未来予想に関心のある人はぜひ一緒に研究して、正確な未来予想を実現しましょう!

■コンピュータサイエンス学部:
https://www.teu.ac.jp/gakubu/cs/index.html

・次回は1月24日に配信予定です