学長コラム第5回「読書のすすめ①――心に残っている本」
みなさん、こんにちは。学長の大山です。夏休みも終わりに近づき、受験勉強も本格化してきた頃だろうと思います。そこで今回は、一息つけるようなトピックスとして、本との出合いについてお話ししようと思います。
私自身は理系でモノづくりが好きだったこともあり、学生時代にそれほどたくさん読書をしていたわけではありません。とはいえSFや推理小説は好きで、受験生のときもよく読んでいました。みなさんの中にも同じような人がいるかも知れませんが、勉強で忙しくなると、そういう本を読みたくなっていましたね(笑)。
そんな私にも思い返すと、心に残っている本がいくつかあります。ひとつは高校時代、倫理の授業で課題図書として読んだ、トマス・モアの『ユートピア』です。これは15世紀頃に出版された古い本で、理想的な社会について書かれたものです。これを読んだときに考えたのは、率直に「理想的な社会とは何だろう?」ということでした。また、特に印象的だったのは、世の中の生産力が高く、資源やモノがふんだんにあれば、争いは起きないと書かれていたことです。高校生ながら、生産性が大切なのだと思ったことを覚えています。一方、この話の舞台として描かれる架空の国ユートピアは、行動が制限され、1日何時間は労働しなければならないと決められた、非常に不自由な社会でした。そういう規制された社会と自由との関係について、考えるきっかけにもなりましたね。
もう1冊は、本学が2003年にバイオニクス学部を設立し、私がロボットコースで教えることになったとき、改めて“ロボット”という言葉とは何だろうと思って読んだのが、チェコの作家カレル・チャペックの『R.U.R』です。この本はロボットという言葉を生み出したことで有名な小説ですが、それまで読んだことがなかったので、読んでみました。この本には、人間の単純作業はロボットのような人造人間が代替してくれるので、人間は何もしなくてよいという社会が描かれていました。結局はロボットが反乱を起こして人間を滅ぼすといったストーリーだったと思います。今、AIについて色々と議論されていますが、それと似たところがありますね。この本を読んで、ロボットはどういう役割のものなのか、どうあるべきものなのかを考えるきっかけになりました。
また、私の研究分野のひとつであるロボット工学分野には、ロボット工学三原則という言葉があります。これは科学者でSF作家のアイザック・アシモフが小説『われはロボット』の中で提唱したもので、人間への安全性、命令への服従、自己防衛を目的とする3つの原則として知られ、ロボット研究の倫理観の指標のようになっています。このアシモフのロボット3原則から、私もロボットはあくまでも人間のためにあるべきもので、人間に危害を与えてはいけない、そういう仕組みをつくらなければならないということを感じました。
今回は私の思い出の中の本をいくつか紹介しました。次回は、私の進路に関係した本について取り上げたいと思います。