大山学長のホッとブレイク

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学長コラム第5回「メタバースがもたらす未来への期待と課題」

2022年8月26日掲出

 みなさん、こんにちは。学長の大山です。今回は私が今、関心を持っていることのひとつ“メタバース(Metaverse)”について、取り上げましょう。

 最近、ニュースでもよく聞く言葉になってきましたね。昨年のことですが、フェイスブックが社名を「メタ(Meta)」に変えました。詳しくはわかりませんが、メタバースのイメージを強調するためだと言われています。そもそもメタバースとは、英語の「超越(meta)」と、「宇宙(universe)」を組み合わせた造語で、インターネット上の仮想空間のことを言います。
 このメタバースの発展により、世の中はどう変わるのでしょうか。明確な答えはまだありませんが、大きく技術面と社会面の2つに変化が生じるだろうと考えられます。技術面では、Zoomのようなオンライン会議ツールがより進化して、二次元的なものから三次元的なものへと拡張する技術が出てくると予想されます。例えば、ヘッドマウントディスプレイのようなものを装着して、三次元のバーチャル世界を眺めるようになるかもしれません。そうすると、パソコンやスマホの画面を通じて話しているときよりも、もっと三次元的、つまり話している相手がすぐ隣や眼前にいるような感覚で話せるようになり、実際に会って話しているように感じられるのではないかと想像できます。
 今のオンライン会議ツールは、一方的な会話形式で、誰か一人が話しているのをみんなで聞くという形ですが、三次元的な技術が発展すれば、自分の近くにいる人とは小声で話し、遠くの方では誰かが別の話をしているというリアルな雰囲気ができるかもしれません。そのとき、三次元のバーチャル空間で実際の人が動いているのか、アバターと言われる自分の分身が動いているのかはわかりませんが、そういうことが違和感なくできるようになれば、テクノロジー的には非常に面白いでしょう。
 また、メタバースは教育に利用できるのではないかと期待しています。1995年頃、私はJICA(国際協力機構)のプロジェクトとして、インドネシアで制御工学を教えたことがあります。ロボットのような機械は実際に動かして、触って、データを取り、勉強することが大切ですが、当時のインドネシアではなかなかロボットの部品が手に入らず、環境も整っていませんでした。そこで日本でロボットを動かし、その様子をカメラで映してインターネットを介して、インドネシアから見られるようにしたのです。メタバースでは、そういうものがさらに発展し、本当にその場で装置が動いているように見えるなど、別の場所にいながらも臨場感ある体験ができるようになる可能性があります。その技術が一般化すれば、ひとつの教育ツールになるかもしれません。

 他方、メタバースの社会的な側面も気になるところです。メタバースの空間では、SNSなどと同様、仲間が集まって会話する、つまり同じような思考を持った、付き合いやすい人たちが集まる、居心地の良い仮想世界をつくることになります。それは極端な言い方をすれば現実逃避した世界をつくることだとも言えます。人気ゲームにも似たようなものがありますよね。ゲームの中の世界でキャラクターがぼんやりと過ごしたり交流したりと生活を送る。あれもゲーム内という現実とは異なる仮想空間で行うという点では、メタバースの一種です。そういう仮想の世界でモノを売り買いしたり財産をつくったり、色々な取引がなされていて、著作権の問題やNFT(唯一無二のコピーされないデータ)の技術なども併せて話題になっています。仮想空間の中でも現実と同じように生活するための技術が必要になるため、それに関連する技術も発展することでしょう。
 ただ、それ自体が良いことなのかどうかは、まだ判断がつきません。今のコンピュータ技術であれば、何千、何万という人が同じ空間に入ることが可能です。それだけの人たちが仮想世界の生活を楽しむ一方で、現実の生活がおろそかになったり、そこから逃避するようなことになったりしないかと心配ではあります。よくある表現ですが、コンピュータやゲームは、うまくいかないとリセットすれば初期状態に戻してやり直せます。メタバースもある意味では、簡単にやり直しがきくのかもしれません。しかし、リアルの世界では、そう簡単にやり直しはききませんよね。やり直すために、自分なりに色々と手だてを考え、違う道を模索する必要があります。
 メタバースには気がかりな面もありますが、やはり技術的には非常に楽しみです。リアリティある仮想空間を教育分野に活かせるならば、オンライン学習も大きく変化するでしょう。そういうメリットに期待しつつ、これからどう発展し、どういう使われ方をするのか、興味を持って注視していきたいと思っています。