片柳コンピュータ科学賞

The Katayanagi Prizes in Computer Science

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2009年度片柳コンピュータ科学賞

クヌース名誉教授・クラインバーグ教授

片柳コンピュータ科学賞は、カーネギーメロン大学と東京工科大学(TUT)の共同で毎年、コンピュータ科学における世界的に卓越した学者・研究者に贈呈される。同賞は、過去60年の間に東京工科大学等の技術教育機関を設立した熱心な教育家であり、起業家でもある片柳鴻氏の資金提供により授与されるものである。
スタンフォード大学名誉教授クヌース氏は、すでに持続的に優れた業績を有すると認められた、実績のある研究者に贈られる片柳優秀研究賞(賞金 1万ドル)を受賞する。コーネル大学コンピュータ・サイエンス学部ティッシュ大学教授クラインバーグ氏は、新進の卓越した研究者に贈られる片柳新進リーダーシップ賞(賞金 5千ドル)を受賞する。
カーネギーメロン大学コンピュータ・サイエンス学部ランドール・E・ブライアント(Randal E. Bryant)学部長は、「ドナルド・クヌース氏は伝説的な存在です」と称賛している。「氏の著書は、数多くのコンピュータ科学者に、数学的手法を応用してアルゴリズムの効率が評価できることを示しました。氏が開発した TeX タイプセッティング・システムは、技術分野の記事や書籍を刊行する際のバイブルとなっています。」 ブライアント学部長はさらにクラインバーグ氏について、「社会規模ネットワークの分析における大きな潮流をリードしてきました。たとえば、個々のウェブページがどのように相互リンクされるか、また、ソーシャル・メディア・サイトで誰と誰とが友達になるか、といった社会的現象を巧みに説明することです。氏は、コンピュータ科学と社会科学とを結ぶ全く新しい道を開拓したのです」と評している。
東京工科大学コンピュータ・サイエンス学部星徹学部長は、「クヌース博士は、プログラミング・アルゴリズム分野における偉大な科学者であるとともに、TeX の設計者としても広く知られています。クラインバーグ氏は、ウェブ・ネットワークの HITS アルゴリズムの開発者として有名であるとともに、スモール・ワールド現象の解析でも知られています」とのコメントを寄せている。さらに、「今回このお二方が受賞されたことで、片柳賞の価値と権威も増し、今後のコンピュータ科学・技術の学術的かつ産業的活動に大きな刺激をもたらすものと確信しております」と付言している。
両受賞者は、カーネギーメロン大学ゲーツおよびヒルマン・センターのラシッド講堂にて賞を授与された後、受賞講演を行う。クラインバーグ氏は、1月21日(木)午後4時から、“Meme-tracking, Scheduling, and the Flow of On-Line Information”(「ミーム・トラッキング、スケジューリング およびオンライン情報の流れ」)と題し講演し、クヌース氏は、5月5日に講演する予定である。
クヌース氏は、コンピュータ・プログラミングを包括的に扱った最良の書と世界的に評価されている “The Art of Computer Programming” の著者である。当初は単一巻の書籍として構想されていたものの、1968年、1969年、1973年に順次第一巻から第三巻が出版され、本年後半には第四巻が刊行される予定である。現在、ライフワークとしての著作活動に専念しているクヌース氏は、スタンフォード大学で「コンピュータ・プログラミング技法名誉教授」という、他に類をみない称号を授けられている。
さらに氏は、アルゴリズムの徹底的な解析ならびに、TeX タイプセッティング・システムおよびメタフォント・デザイン・システムの開発でも著名である。また、さり気なく発するウィットでも伝説的な存在である。あるとき、「このソフトウェアのバグに要注意。正しいことは証明済ですが、実地検証はまだです」とユーザに伝えた、というエピソードの持ち主である。氏は、コンピュータ科学のノーベル賞とも言われるACM(Association for Computing Machinery、計算機学会)テューリング賞を始め、ACM グレース・マレー・ホッパー賞(第一回)、米国科学賞(National Medal of Science)、フォン・ノイマン賞および京都賞を授与されている。
クラインバーグ氏は、ネットワーク、特にウェブ等オンライン・メディアを支えるソーシャル・ネットワークおよび情報ネットワークと情報とを結ぶインタフェースの問題に焦点をあてて研究を進めている。ハブおよび権威(authorities)を用いた氏のウェブ・リンクの解析手法は、最新のインターネット検索エンジンの基礎を構築するのに貢献している。氏の研究成果はまた、40年前に社会心理学者スタンリー・ミルグラムが探求した「六次の隔たり」(six degrees of separation) 現象にもヒントを与えている。結合の地理的関係が、コンピュータ・ネットワークにおいても、検索過程に影響を与えることを発見したのである。この発見は、ピア・トゥ・ピアのファイル共有ネットワークの設計に有用であることが判明したが、その中で、中央管理の索引が存在しないネットワークにおいて効率的に短距離パスが見つけられる条件が解明されている。
クラインバーグ氏は、米国工学院(National Academy of Engineering)および米国芸術科学院(American Academy of Arts and Sciences)の会員であり、マッカーサー、パッカードおよびスローン財団特別奨学金給費生でもある。氏はさらに、ネヴァンリンナ賞、ACM インフォシス財団賞および米国科学院研究主導賞を受賞している。 詳細については、片柳賞ウェブサイト(http://www.cs.cmu.edu/~katayanagi/)を参照されたい。

■カーネギーメロン大学について
カーネギーメロン大学(www.cmu.edu)は、科学、技術、ビジネス、政策、人文科学および芸術等の分野をカバーする、世界的評価の高い私立研究大学である。7つの学部から構成され、1万1千人の学生を擁する。学生/教員比率が低く、実社会の問題に解決を見出しかつそれを実現することに重点を置き、学際協力および革新を教育のモットーとしている。本部を米国ペンシルヴァニア州ピッツバーグに置くカーネギーメロンは、カリフォルニア州シリコン・バレーおよびカタールにも分校を有し、アジア、オーストラリアおよびヨーロッパにも教育プログラムを提供する地球規模の大学である。現在、資金体力の強化、教員・学生および革新的研究の支援、ならびに設備改善によるキャンパスの物理的拡充を目指し、“Inspire Innovation: The Campaign for Carnegie Mellon University”(革新に魂を:カーネギーメロン大学キャンペーン)と称する10億ドル資金調達活動を展開中。

■東京工科大学について
東京工科大学は1986年、東京都八王子市に工学部のみの単科大学として設立された。その後、日本初のメディア学部開設、世界に先駆けたバイオニクス学部のスタートなど、社会ニーズに即応する先進的な大学の姿を追及し、高等教育分野での新しい教育の場を創出し続けている。2010年からは、東京都大田区に20階建ての校舎を建設し、医療保健学部(School of Health Science)とデザイン学部(School of Design)を新たに加え、より幅の広い総合大学に向けて歩みだした。2009年時点では、約6000名の学生が学ぶ。八王子市にある36ヘクタールの緑溢れるキャンパスと、羽田国際空港に近い最新設備を整えた蒲田新キャンパスは、「理想的な教育は理想的な環境から」という創設者片柳鴻の設立理念を反映している。

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2010年1月29日掲出