都市河川における「薬剤耐性菌」の存在実態を、多摩川の現地調査で明らかに
東京工科大学(東京都八王子市片倉町、学長:軽部征夫)応用生物学部の浦瀬太郎教授らの研究チームは、抗生物質や合成抗菌剤が効かない「薬剤耐性細菌※1(以下、耐性菌)」が、都市河川においても多く存在することを、多摩川での現地調査などから明らかにしました。この研究成果は、2013年11月に開催される土木学会「環境工学研究フォーラム」において発表予定です。
本研究は、文部科学省科学研究費補助金(基盤研究(C) 課題番号23560652)による補助を受けて行われました。
背景と目的
抗生物質は、感染症治療に大きな効果を有してきましたが、抗生物質の過度の使用は耐性菌の問題を生じることがわかっています。こうした薬剤耐性の問題は、院内感染の問題として考えられてきましたが、院内感染とは無縁のはずの外来患者から基質特異性拡張型β-ラクタマーゼ(ESBL)産生菌などが検出される例が近年増加しています。この原因として、自然環境が“薬剤耐性化"しているとの指摘があります。今回の調査対象の大腸菌は、大半が無害な菌ですが、薬剤耐性が「プラスミド」に乗って容易に他の細菌に移っていく性質があり、治療の困難な感染症に発展する可能性もあります。
成果
現在感染症治療の主力となっている抗生物質に対する耐性菌を、2011年から2012年にかけて代表的な都市河川である多摩川をフィールドとして調査。得られた3452株の大腸菌のうち75株が第三世代セファロスポリン系の抗生物質が効かない細菌(ESBL産生菌と大きく重なるグループ)でした。秋川や高尾山、水道水源としても使用される小河内ダム放流水にはほとんどこのタイプの耐性菌は存在しませんでしたが、中流以降では多く存在している実態がわかりました(上図参照)。さらに、75株のうち25%がフルオロキノロン系の多剤耐性大腸菌で、病原化した場合には治療に手間のかかる性質のものです。
社会的・学術的なポイント
水環境中の耐性菌問題は、医療面、下水処理などのインフラ面、河川環境管理など、複雑な問題が絡んでおり、解決は容易ではありませんが、たとえば、抗生物質の中でも切り札的な抗生物質については、使用用途を限定するなど、耐性菌の発生を抑制し、その抗生物質の有効性を温存することに社会が取り組む必要があることを、本研究は提起しています。
※1 薬剤耐性菌:抗生物質や合成抗菌剤などが効きにくい細菌のこと。感染症の治療においては、複数の抗生物質に対して耐性を持っている多剤耐性菌が特に問題となっている。
研究内容の詳細などこの件に関しての報道機関からのお問い合わせ先
■東京工科大学 応用生物学部教授 浦瀬太郎
Tel.042-637-2458 / E-mail. urase(at)stf.teu.ac.jp
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