東京工科大学応用生物学部の西野智彦准教授らの研究チームが乳酸菌を用いて、「浅漬け」による食中毒を防ぐ手法を発見
東京工科大学(東京都八王子市片倉町、学長:軽部征夫)応用生物学部の西野智彦准教授らの研究チームは、ある種の乳酸菌を用いることで「浅漬け」による食中毒を防ぐ効果があることを発見しました。この研究成果は9月に開催される日本防菌防黴学会第41回年次大会などで紹介する予定です。
背景と目的
浅漬けは短期間の漬け込みで手軽に製造する漬物であり、古漬けと分類される一般の漬け物と比較して微生物による発酵の関与は少ないとされています。また、塩分濃度が2.0~2.5%と低塩分であることから、近年の減塩志向も手伝って高塩分条件で製造される古漬けに比べ好まれて食されています。しかし、その低塩分が原因となって漬物では珍しい食中毒事例が報告されており、現在、日本の漬物の衛生規範では塩素消毒が推奨されています。
本研究では、浅漬けの漬け込み時に乳酸菌を加えて増殖させることで、食中毒を起こす可能性のある雑菌の増殖を防ぐ効果について検証を行いました。
図1 分離した乳酸菌の大腸菌増殖抑制効果
成果
発酵させる際に使用する乳酸菌として、食経験があるとされる植物性乳酸菌の基準株を菌株保存施設から得て検討しまたが、大腸菌増殖抑制効果は芳しいものではありませんでした。そこで、市販漬物から浅漬け製造に適した乳酸菌を選び出したところ、大根キムチから大腸菌増殖抑制効果が高い菌株が分離されました(図1)。この菌株は16SrRNA遺伝子の塩基配列解析により、ロイコノストック・シトレウム(Leuconostoc citreum)である可能性が高いことが分かりました。この大腸菌増殖抑制効果は、乳酸菌の酸生成速度が速いことにより、漬け物が短期間で低pHになることが主な原因と考えられます。また、浅漬け中の本乳酸菌株はヒトの消化管ストレスを模倣した人工胃液・胆汁連続処理に耐えられたことから、ヒトの大腸に生きた状態で届くと予想され、プロバイオティクス(※1)としても有用であると考えられます。官能評価を行った結果、乳酸菌が増殖しても浅漬けの風味を劣化させないことも分かりました。
これらの結果から、これまで微生物の関与が薄いとされてきた浅漬け製造において乳酸菌発酵を行なわせることで、より安全性の高い浅漬けを製造できる可能性を示すことができました。
社会的・学術的なポイント
今回得られた菌株を凍結乾燥などにより粉末化して、家庭で浅漬けを作るときに加えることで、浅漬けをより安全に製造できると期待されます。今後、商品化に向けて検討を行う予定です。
本研究成果は9月に開催される日本防菌防黴学会第41回年次大会などで紹介予定です。
※1 腸内フローラ(腸内菌叢)のバランスを改善することにより、人に有益な作用をもたらす生きた微生物
本件に関する問い合わせ先
■東京工科大学 応用生物学部 准教授 西野智彦
Tel.042-637-2918 / E-mail. nishino(at)stf.teu.ac.jp
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