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ビタミンCによるがん転移の抑制メカニズムに新発見 還元型と酸化型で生理作用に違い

2018年6月28日掲出

佐藤拓己教授

 東京工科大学(東京都八王子市片倉町、学長:軽部征夫)応用生物学部の佐藤拓己教授らの研究チームは、高濃度ビタミンC(VC)による、がん転移抑制メカニズムに関する新たな知見を発見しました。本研究成果は、米国の薬理学専門誌「Reactive Oxygen Species (ROS)」2018年6月25日号に掲載されました。(注1)


【背景】
 VCは、高濃度で投与することで、がん治療に効果があることが近年報告されており、副作用のない治療法として注目されています。外科手術や放射線療法、化学療法などの補助として用いられる「高濃度ビタミンC点滴」(注2)は、がん転移を抑制できる可能性が示唆されていますが、その生理機能などの詳しいメカニズムについては明らかになっていません。ビタミンCの生理作用は、還元型ビタミンC(RVC)と酸化型ビタミンC(DVC)の合算の効果であると考えられ、作用がどちらに由来するのかを明らかにする目的で、本実験を行いました。

【目的】
 RVCについて知られている抗酸化作用と、がん細胞への毒性という2つの特性について、その作用機序を解明するため、還元型ビタミンC(RVC)と酸化型ビタミンC(DVC)を比較しつつ研究を進めました。体内に取り込まれたRVCの一部はDVCに酸化され、特異的な輸送体を通じて細胞内に取りこまれ、さらに酵素によって還元されてRVCを生成します。つまり、化学的には還元型のRVCが細胞を保護する実体であり、酸化型のDVCは生理作用がないものと考えられてきました。そこで、がん細胞に対してはRVC、脳虚血などの細胞の変性に対してはDVCが有効であると推察し、検証を行いました。

【成果】
 蛍光色素などで細胞内の活性酸素を定量すると、RVCとDVCはともに活性酸素のレベルを有意に低下させました。DVCは有意な保護作用がありましたが、RVCには有意な保護作用はありませんでした(図1)。さらに、RVCは基質に定着する前の細胞に対して有意に強い選択毒性があったのに対して、DVCにはこのような選択毒性は殆どありませんでした(図2)。この実験結果は、転移能のあるがん細胞に対して選択毒性を発揮する可能性を示すものです(図3)。この毒性作用は、カタラーゼ(注3)によって抑制されたことから、過酸化水素の産生に起因していると考えられます。
 これらにより、1)RVCは、血液を循環する転移がん細胞に対して強い抑制作用があること 2)還元型(RVC)はがん細胞に対して毒性のみを有する一方、酸化型(DVC)はこの作用は少なく、細胞を保護する作用があることが明らかとなりました。

図1:細胞内の活性酸素レベル
図1:RVCとDVCの保護作用
図2:がん細胞に対する?ビタミンCの選択毒性
図2:RVCとDVCの未定着細胞への選択毒性


【社会的・学術的なポイント】
 本研究により、RVCは、がん転移の段階(1.原発巣の発達 2.細胞の遊走 3.転移巣の発現)において、細胞の遊走すなわち転移がん細胞に有効であることが示されました(図3)。高濃度VC(RVC)による治療は、ステージの進行したがんにも効果がある可能性が示唆されていますが、本研究はこのメカニズムのひとつを説明するものと言えます。
 また、酸化型(DVC)は、細胞死を抑制する作用が確認されたことから、例えば神経細胞の変性を主徴とする脳虚血の治療などに応用できる可能性も示唆されました。

図3:ビタミンCは遊走するがん細胞に強い毒性
図3:ビタミンCは遊走するガン細胞に強い毒性

【用語解説】
(注1) 論文名「Protective effects by dehydroascorbic acid through an anti-oxidative pathway and toxic effects by ascorbic acid through a hydrogen peroxide-dependent pathway and on tumor cell lines」
研究チーム:佐藤敦士、小島直也、井口拓也、河合紘希、小林凌太、蓮池大樹、濱田健三 (いずれも応用生物学部4年生)

(注2)食品としてVCを摂取しても、腸管を介した吸収は数グラムが限界だが、「高濃度ビタミンC点滴」では、数十グラム以上の還元型のVCを血液に直接投入することができる。

(注3)カタラーゼは、過酸化水素(H2O2) を水と酸素に分解する酵素で、細胞質にあるペルオキシゾームに存在し、活性酸素に対する防御機構のひとつである。

■東京工科大学応用生物学部 アンチエイジングフード(佐藤拓己)研究室
遺伝子のスイッチに着目し、がんの簡易診断方法や医薬品開発に向けた研究を行っている。食を通じて体の内側からアンチエイジングを目指す研究を行っています。アンチエイジングフード研究室は、高機能性をもった食品に含まれる物質を探索しています。具体的には、画期的なメカニズムを持つハーブ・ローズマリー由来のカルノシン酸や褐藻類・シワヤハズ由来のゾナロールのアンチエイジング効果に注目しています。また基礎研究ではビタミンCのアンチエイジング効果にも焦点を当てている。
[主な研究テーマ]
1.ローズマリー由来のカルノシン酸の抗認知症作用の研究
2.褐藻類由来のゾナロールの抗潰瘍性大腸炎作用の研究
3.ビタミンCの抗ガン作用の解析 https://www.teu.ac.jp/info/lab/project/bio/dep.html?id=34

【研究内容に関しての報道機関からのお問い合わせ先】
■東京工科大学 応用生物学部 教授 佐藤拓己