ヒトゲノム中の「四重鎖構造」複数形成領域を約1万箇所同定 これらを標的とした抗がん剤開発へ
東京工科大学(東京都八王子市片倉町、学長:軽部征夫)応用生物学部の吉田亘講師、軽部征夫教授らの研究グループは、ヒトゲノム配列中からグアニン四重鎖構造(注1)を複数形成する領域(以下、グアニン四重鎖クラスター)を9,651箇所同定し、このうち3,766箇所が遺伝子の発現を制御している領域であることを解明しました。これらの遺伝子のうち95個が、がん遺伝子であり、それらは新たな抗がん剤開発のための標的になることが示唆されました。
本研究成果は、東京農工大学長澤和夫教授、同池袋一典教授、千葉大学飯田圭介助教、国立成育医療研究センター秦健一郎部長との共同研究によるもので、2018年2月15日に英国Nature Publishing Groupの科学誌『Scientific Reports』に掲載されました(注2)。
【背景】
ヒトゲノムDNAは、通常二重らせん構造を形成しますが、近年の研究で部分的に「四重鎖」と呼ばれる特殊な構造を形成し、遺伝子の発現制御に関連していることが明らかになっています。また、ヒトゲノム中にはグアニン四重鎖形成配列が約70万箇所存在することが報告されていますが、複数のグアニン四重鎖が協働して遺伝子発現を制御している報告はありませんでした。そこで、本研究では複数のグアニン四重鎖が協働して遺伝子発現制御を行う領域を実験的に同定することを目的としました。
図1:ヒトゲノムDNA中のグアニン四重鎖クラスター同定方法
【成果】
ヒトゲノムDNAにグアニン四重鎖に結合する化合物(7OTD)を加えると、「グアニン四重鎖クラスター」の領域のみ試験管内で複製されないことを発見しました。この複製されなかった領域を明らかにするため、次世代シークエンサー(注3)を用いて、実際に同領域をすべて解析した結果、9,651箇所の「グアニン四重鎖クラスター」を同定することに成功しました(図1)。さらに、詳細な解析を行った結果、このうちの3,766領域が遺伝子の発現を制御している領域であることが明らかになりました。つまり、これらの遺伝子は「グアニン四重鎖クラスター」によって、その機能が制御されていることが示唆されました。
【社会的・学術的なポイント】
本研究により、3,766個の遺伝子の発現が「グアニン四重鎖クラスター」によって制御されていることが示唆され、そのうち95個が、がん遺伝子であることが明らかになりました。今後、これらを標的とした抗がん剤などの開発が期待されます。
【用語解説】
(注1)グアニン四重鎖とは、4つのグアニンにより形成する平面構造が重なり合ってできる核酸の特殊構造です。グアニン四重鎖クラスター(G-quadruplex clusters)は、ヒトゲノムDNAにおいて、このグアニン四重鎖形成配列が複数個含まれる領域です。
(注2) 論文名「Identification of G-quadruplex clusters by high-throughput sequencing of whole genome amplified products with G-quadruplex ligand」, Scientific Reports, (2018) 8, 3116, DOI: 10.1038/s41598-018-21514-7, https://www.nature.com/articles/s41598-018-21514-7
(注3)次世代シークエンサーとは、ヒトゲノムDNAの塩基配列を一度にすべて解析できる装置です。
■東京工科大学応用生物学部 吉田亘研究室(エピジェネティック工学)
遺伝子のスイッチに着目し、がんの簡易診断方法や医薬品開発に向けた研究を行っている。
[主な研究テーマ]
1.がん遺伝子特異的DNAメチル化レベル測定法の開発
2.人工発光タンパク質を利用したゲノムDNAメチル化レベル測定法の開発
3.ヒトゲノムDNA中で形成される四重鎖構造の網羅的同定
4.DNA四重鎖構造の機能解析
https://yoshida-lab.bs.teu.ac.jp/
【研究内容に関しての報道機関からのお問い合わせ先】
■東京工科大学 応用生物学部 講師 吉田亘
Tel 042-637-4517(研究室直通)
E-mail yoshidawtr(at)stf.teu.ac.jp
※atをアットマークに置き換えてください。