がん幹細胞を識別するAI技術を開発
医薬品評価や病理組織診断など応用へ期待
東京工科大学(東京都八王子市片倉町、学長:大山恭弘)応用生物学部の杉山友康教授とコンピュータサイエンス学部の亀田弘之教授ら研究グループは、がん幹細胞と非がん幹細胞を識別する人工知能(AI)技術を開発しました。これは、培養細胞またはがん組織の位相差顕微鏡画像に写るがん幹細胞の細胞形態をAIが識別して、がん幹細胞を明示することができるもので、がん幹細胞の存在を指標にした医薬品評価や病理組織診断などへの応用が期待されます。
本研究成果は、本学が全学的に取り組んでいるプロジェクト「AI研究会」によるもので、オープンアクセス学術誌「Biomolecules」2020年6月19日に掲載されました。
【背景】
腫瘍はがん幹細胞と呼ばれる非常に少数の細胞群によって維持されており、これを標的とした治療法が注目されています。その研究ツールとして各種がん幹細胞の培養細胞の利用が始まっています。幹細胞が特徴的な細胞形態を呈することは、一部の研究者らの間では知見がありますが、幹細胞性を簡単に評価する方法はありませんでした。一方、近年のAIによる画像生成技術「Conditional Generative Adversarial Networks」(以下、CGAN)では、対応する2つの画像をマッピングすることで、学習済みAIが元画像を変換し実画像に近い画像を生成することができます。本研究では、このCGANを応用し、がん幹細胞を識別して画像を生成するAIの作製を検討しました。
【成果】
位相差画像を用いて細胞・組織を撮影し、その画像に含まれるがん幹細胞の形態をAIで深層学習しました。がん幹細胞の教師用画像には、幹細胞の性質を維持した細胞だけが蛍光を発するNanog-GFPレポーターの蛍光画像を使用しました。その結果、培養皿で培養したがん幹細胞を深層学習したAIは、実画像と比較して類似性と感度が平均して約40%、特異度が97%の精度で位相差画像に含まれるがん幹細胞を識別して、その画像を生成しました(図1)。腫瘍組織のがん幹細胞を深層学習したAIは、培養皿のがん幹細胞の学習よりは精度が劣りました。しかし、腫瘍組織に存在するがん幹細胞と非がん幹細胞を組織診断することにおいて、AIが作成した画像は判断材料としての有用性を示しました。
【社会的・学術的なポイント】
特別な標識をしていないがん幹細胞をAIが検出したことは、将来の医生物学的医療の新しい可能性を示しました。各種がん幹細胞の細胞形態を学習したAIを細胞ごとに用意することで、「培養したがん幹細胞の幹細胞性評価」や「腫瘍組織のがん幹細胞診断」といった新しい測定技術に応用されることが期待されます。また、生命科学や医学分野の画像解析において、未同定の形態の解析にAIを使った本研究手法が応用されることが期待されます。
図1:位相差画像に含まれるがん幹細胞をAIが識別して画像を生成した例
■東京工科大学 人工知能研究会
東京工科大学では、理念にもある「先端的研究を介した教育とその研究成果の社会還元」にも合致する画期的な取り組みとして、2017年に全学部が参加する「人工知能(AI)研究会」(委員長:石畑宏明教授)を起ち上げました。この研究会では各学部に分科会を設け、それぞれの特色を生かした研究を教育に生かしていきます。たとえば医療保健学部では診断や治療へのAI応用を考えたり、メディア学部ではゲームや広告にAIを活用する方法を探るなど、各学部に魅力的な研究テーマが用意されます。
【本件のお問い合わせ先】
東京工科大学 応用生物学部 教授 杉山友康
Tel 042-637-2104(研究室直通)
E-mail tsugiyama(at)stf.teu.ac.jp
※(at)は@に置き換えてください
■応用生物学部WEB:
https://www.teu.ac.jp/gakubu/bionics/index.html