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ゲノムDNA中の各種修飾塩基を測定する発光タンパク質構築法を開発

2023年2月8日掲出

〜がんなどの簡易診断への応用に期待〜

東京工科大学(東京都八王子市、学長:大山恭弘)応用生物学部の吉田亘准教授、東京農工大学大学院工学研究院の浅野竜太郎教授らの研究グループは、がんなどのバイオマーカーとしての利用が期待される、ゲノムDNA中の種々の修飾塩基を簡便に検出できる発光タンパク質の構築法を開発しました。

本研究成果は、2023年2月7日(現地時間)にアメリカ化学会の学会誌「Analytical Chemistry」オンライン版に掲載されるとともに、同学会による「ACS Editor’s choice」(注1)に選出されました。

【ポイント】
●室温で静置するだけで自発的にタンパク質間を連結できる方法を採用
●修飾塩基の認識タンパク質と発光タンパク質を任意の組合せで連結し、種々の修飾塩基を測定
●がんや中枢神経疾患などの疾病診断への応用に期待

【研究背景】

 ヒトゲノムDNAはアデニン(A)、チミン(T)、グアニン(G)、シトシン(C)の4塩基で構成されており、これら塩基は遺伝子の発現など種々の生命現象を制御するために種々の修飾を受けることが知られています。ヒトゲノムDNA中で最も多く含まれる修飾塩基は5-メチルシトシンであり、CとGの連続配列中のCがメチル化されることにより生じます(メチルCpG)。さらに、5-メチルシトシンが連続的に酸化されることにより、5-ヒドロキシメチルシトシン、5-ホルミルシトシン、5-カルボキシシトシンが生成されます。これら修飾状態は組織、細胞特異的に形成され、それら組織、細胞の機能を維持するために必須です。がんや中枢神経疾患などの疾患細胞においては、これら修飾塩基の状態が異常になっているため、種々の疾病のバイオマーカーとして利用可能です。 本研究グループでは、修飾塩基に特異的に結合するタンパク質にホタルの発光タンパク質を融合させ、これにゲノムDNAを混合するだけで標的修飾塩基を測定する方法(注2)や、ホタルとは発光色の異なるタンパク質を用いて、同時に2種類の修飾塩基を測定する方法(注3)をこれまでに開発しています。これらの成果をもとに、本研究では室温で静置するだけで自発的にタンパク質間を連結することができる方法を用いて、修飾塩基を認識するタンパク質と発光タンパク質を任意の組合せで連結させ、種々の修飾塩基を測定できる方法を開発することを目的としました。

【研究内容】

 本研究では、室温で混合するだけで自発的に連結されるタンパク質である「SnoopTag(SnT)」と「SnoopCatcher(SnC)」(注4)を利用しました。まず、メチルCpG結合タンパク質(MBD)にSnT(MBD-SnT)、非メチルCpG結合タンパク質(CXXC)にSnT(CXXC-SnT)、SnCに発光タンパク質(SnC-Luc)を融合した各種タンパク質を組換え生産しました。これらをそれぞれ混合して室温で1時間静置したところ、自発的に連結されることが確認されました。次に、これら連結産物を用いて、ヒトゲノムDNA中のメチルCpGと非メチルCpGを測定できるかを検討しました。発光タンパク質の発光で励起されるDNAインターカレーターを結合させたゲノムDNAに、MBD-SnT-SnC-LucまたはCXXC-SnT-SnC-Lucを添加し、さらに光タンパク質の発光基質を添加しました。その結果、MBD-SnT-SnC-LucはヒトゲノムDNA中のメチルCpG部位で、CXXC-SnT-SnC-Lucは非メチルCpG部位で発光し、近傍のDNAインターカレーターを励起することが示されました。つまり、これら蛍光強度を測定することで、メチルCpGと非メチルCpGを測定できることが示されました(図1)。

タンパク質連結法を利用した修飾塩基認識タンパク質融合発光タンパク質の構築法と修飾塩基検出方法
[図1] タンパク質連結法を利用した修飾塩基認識タンパク質融合発光タンパク質の構築法と修飾塩基検出方法

【社会的・学術的なポイント】

 修飾塩基を認識するタンパク質にSnTを、発光タンパク質にSnCを融合させたタンパク質を調製すれば、それらを混合するだけで、任意の組合せの修飾塩基を認識する融合発光タンパク質を構築できることが示されました。このタンパク質を用いることにより、ヒトゲノムDNA中の標的修飾塩基を簡便に測定することが可能になり、これら修飾塩基状態が異常になる疾病の簡易診断が可能になると期待されます。

【論文情報】

論文名: Universal design of luciferase fusion proteins for epigenetic modifications detection based on bioluminescence resonance energy transfer
著者名:Takamichi Miyata, Hazuki Shimamura, Ryutaro Asano and Wataru Yoshida
URL:https://pubs.acs.org/doi/10.1021/acs.analchem.2c05066

【研究支援】

本研究は、公益財団法人中谷医工計測技術振興財団からの助成を受けたものです。

【用語解説】

(注1)ACS Editor’s choice:アメリカ化学会が発行する64種類以上の科学誌に掲載される論文の中から、エディターが1日につき1報の優れた論文を選出する制度
(注2)(1) Anal. Chem., 2016, 88, 9264; (2) Anal. Chim. Acta, 2017, 990, 168; (3) Anal. Lett., 2019, 52, 754; (4) Anal. Lett., 2019, 52, 1258; (5) Anal. Chem., 2022, 94, 8618
(注3)Anal. Bioanal. Chem. (2019) 411, 4765
(注4)SnoopTag(SnT)/SnoopCatcher(SnC): 肺炎球菌の細胞接着に関連するタンパク質RrgAのD4ドメインを分割することで構築されたタンパク質

■東京工科大学応用生物学部 吉田亘(エピジェネティック工学)研究室
ゲノムDNAやRNA中の修飾(エピジェネィック修飾)や四重鎖構造などの核酸の特殊高次構造に着目し、それらの生体機能の解析や検出方法の開発を行っています。
[主な研究テーマ]
1.疾患関連遺伝子のエピジェネィック修飾塩基測定法の開発
2.人工発光タンパク質を利用したゲノムDNA全体のエピジェネティック修飾塩基測定法の開発
3.ヒトゲノムDNA中で形成される四重鎖構造の網羅的同定
4.四重鎖構造の機能解析
[研究室ウェブサイトURL] https://yoshida-lab.bs.teu.ac.jp/