2022年メディア学部長メッセージ
「広く学び、深く学ぶ」 大淵康成
1999年に日本ではじめてメディア学部を作ったとき、私たちは、「メディア学とは、人から人へいろんなものを伝えるための学問である」と考えました。そして、何を伝えるのか、どうやって伝えるのか、伝えたものをどう活用するのかの3つが重要であるとの考えから、コンテンツ(何を)、技術(どうやって)、社会(どう活用する)の3つのコースを軸にしたカリキュラムを作りました。
それから二十数年、私たちが大事にしてきたことがもう一つあります。それは、上に挙げた三つのうち、どれか一つだけではなく、三つとも学ぶことが重要だということです。昨今の大学受験では、文系・理系といった区分の意識が強く、メディア学部を受ける人の中でも、文系だから社会コース、理系だから技術コース、芸術系だからコンテンツコースと思っている人が少なくありません。しかし、AI全盛の今の世の中で、こうした分類の意義はどんどん薄れてきています。文系を自称する人であっても、技術のコアを理解していないと、AIがやっていることの意味が理解できません。理系を自称する人であっても、数式をいじるだけしかできなければ、AIに職を奪われてしまいます。そして、芸術系を自称する人こそがICT技術を学んで最先端の作品を生み出していかなければならないのと同時に、文系・理系の人も、芸術や教養の素地があってこそAIには作れない価値を生み出すことができるのです。
T型人材という言葉があります。グラフ上にTの字が書かれている様子を思い浮かべて下さい。横軸は様々な分野を、縦軸はそれぞれの分野での知識や技能の深さを表しています。T型人材というのは、Tの字の横棒のように幅広い分野で一定の知識や技能を持ちつつ、Tの字の縦棒のように特定の分野で深い知識や技能を持つ人のことです。古くから一部の人たちに使われていた表現ですが、2000年代になって、IDEOという有名なデザインファームのCEOであるティム・ブラウンが提唱したことで広く知られるようになりました。
メディア学部の教育は、まさにこのT型人材を育てることを目指しています。1~2年次の教養科目や専門基礎科目の多くでは、Tの字の横棒にあたる、幅広い知識や教養を身に付けることを目標とします。自分の進みたいコースが決まっていても、他のコースに関連する科目も学ぶことで、知識や教養の幅を広げていくことが求められます。一方、入学直後からTの字の縦棒にあたる深い専門知識を得たい場合には、プロジェクト演習という選択科目があり、自分で選んだテーマについてじっくり学ぶことができます。また、1年後期から始まる先端メディア学も、同じく深い専門知識を身に付けるための科目です。そして、3~4年次に進んでいくにつれ、専門的な内容が増え、カリキュラム全体がTの字の縦棒に集約していくようなイメージを持ってもらえば、4年間の学修の様子が把握できるのではないかと思います。
メディア学部が扱うテーマは、ゲームや音楽、アニメ、プログラミング、ネットワーク、SNS、広告、教育など多岐に渡っています。そうした分野をきっかけにメディア学に興味を持ってもらうのも良いでしょう。でも、そうしたテーマ単体を学ぶのではなく、それをメディア学という枠組みの中で捉えて、どんなコンテンツを、どのような技術を使って伝え、そして社会の中でどんなふうに役立てていくのか、そのような考え方ができる人間として卒業していってほしいと私たちは思っています。そのような考えに共鳴してくれる皆さんと、東京工科大学のキャンパスで共に学ぶことができる日を楽しみにしています。