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研究・教育紹介

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「化学の知識を生命科学に活かせる研究を」

応用生物学部 加藤 輝 准教授

応用生物学部 加藤 輝 准教授

■先生のご研究について教えてください。

今、取り組んでいる研究は、大きく分けて二つあります。ひとつは、遺伝子の配列の違いや遺伝子の特徴を調べる方法を開発すること。もうひとつは、遺伝子の本体であるDNAを材料として、新しい機能を持ったDNAをつくるという研究です。
遺伝子の配列の違いを調べる研究で取り組んでいることのひとつに、一塩基多型(SNPs)を確実に検出する方法の開発があります。遺伝子の本体であるDNAは、A(アデニン)、T(チミン)、G(グアニン)、C(シトシン)という塩基と呼ばれる4つの物質が鎖のように繋がることで形づくられています。ですから遺伝子の配列は、この4つの物質の頭文字で書き表すことができ、それがどういう順番で並んでいるかが遺伝情報の本質だといえるのです。人の場合、この配列はほとんど共通していて、その全長は約30億文字あることがわかっています。ただ、1000文字に1文字くらいの割合で、その配列に個人差があらわれます。この配列の個人差こそが、その人の個性の元になっているといえるのです。もちろん個性は、生い立ちや育った環境、生活習慣によって変わりますから、遺伝子の配列の微妙な違いだけで決まるものではありません。ただ、例えばお酒に強いかどうかといった体質の個人差は、遺伝子の配列の1文字の違いで決まる割合が大きいということです。この遺伝子の配列の1文字の違いを一塩基多型、英語の略称でSNPs(スニップ)と呼びます。
現在は、SNPsを調べることで、その人が将来どういう病気になりやすいかとか、ある薬を飲んだときに効くのか、逆に効かずに副作用が出るのかを、ある程度予測することができるとわかってきています。SNPsを把握できれば、患者ひとりひとりに合わせた「オーダーメイド医療」の実現も可能になります。また、砂漠で砂金を見つけるほど確率の低い新薬の開発においても活用できると考えられます。というのも、これまで副作用などの問題から実用化寸前で捨てられていた薬が山ほどあるのです。そこでSNPsによって患者の体質を把握できれば、副作用が出ない体質の人に対してのみ薬を使用できる可能性も出てくるのです。ですからSNPsを検出する技術は、今後、とても重要になってくると考えられます。  

■では、もうひとつのテーマである「DNAを材料に、新しい機能を持ったDNAをつくる研究」とは、どのようなものでしょうか?

まず、DNAと同じくらい重要な生体分子であるタンパク質の話からしましょう。タンパク質は約20種類のアミノ酸が鎖のようにつながり、立体構造を形成しています。そしてそのアミノ酸の配列の違いで、タンパク質の機能が変わってくるのです。この“似たような種類の物質が並び、その並び順の違いによって機能が違ってくる”という特徴は、先に述べたDNAと共通していますよね。また、タンパク質にはさまざまな種類があり、その中には免疫に関係する「抗体」と呼ばれるものがあります。人の体内に毒素や病原菌が入ってきたとき、免疫という仕組みが働いてそれらは解毒され、体は正常な状態に戻されます。そのとき抗体は、体内のさまざまな物質の中から、毒素や病原菌だけを選んで結合するという重要な役割を担っています。そこで20年ほど前に、アメリカの研究者がタンパク質と似たつくりのDNAから、抗体のようにある物質に選択的に結合できるもの(DNAアプタマー)を人工的につくれないかということを言い出したのです。この研究に私は大変興味を持ち、十数年前から取り組むようになりました。具体的には、非常に重要な生体分子のひとつである胆汁酸だけに結合できるDNAアプタマーをつくりだすということに挑んできたのです。そして実際に、それをつくりだすことに成功しました。

DNAアプタマーを利用したSNPs検出法

■二つの研究は、まったく別々の研究として取り組まれているのでしょうか?

実はこれらの研究は、リンクしています。はじめにDNAはATGCの4つの塩基が鎖のようにつながってできているとお伝えしました。もう少し正確にいうと、その鎖は二本あって、それぞれが螺旋(らせん)階段のようにねじれた二重螺旋構造をしています。またその二重螺旋の間は梯子の足場のようになっていて、その横棒の部分は、AとT、GとCのペアとなって結合することで出来上がっています。このペアを塩基対といいます。例えば、先に述べた胆汁酸と結合するDNAアプタマーの一箇所でも塩基対になっていないところがあると、胆汁酸とは結合することはできません。この塩基対の性質を上手く利用すると、もうひとつの研究テーマであるSNPsの検出に、DNAアプタマーを使うことができるのです。ですから二つの研究は実はつながっているのです。  

■では、研究の面白さとは何でしょうか?

思わぬことから新たな展開をしはじめるところに、研究の面白さがあると思います。というのも、もともと私は胆汁酸と結合するDNAアプタマーをつくる研究をしていました。当初は胆汁酸を検出するためのものとして、研究を進めていたのです。ところが、実際にDNAアプタマーを見つけると、胆汁酸の検出以外に何か面白いことができないかと考えはじめたのです。そこで試行錯誤を繰り返した結果、当初の目的からは考えもつかない、SNPsの検出に用いることを思いつきました。研究では、このように思わぬ展開が起こることがあります。もちろん思い通りに研究が進むときも面白いですが、思わぬところに着地できると、それ以上に喜びがあります。DNAアプタマーを抗体のように使おうと考えた研究者は他にもたくさんいますが、SNPsの検出という使い方をした人はいません。予想外の展開が起こった研究の方が、オリジナリティのある、面白いものになるのだと思います。  

■最後に今後の展望をお聞かせください。

私はもともと化学に興味があり、研究の世界に足を踏み入れました。ですから大きな展望としては、化学の知識をいかに生命科学の分野で役立てられるかということを考えて、研究していきたいですね。また、今はSNPsの検出に関する研究を次のステップへと進める段階に来ています。例えば、対立遺伝子の問題。実はSNPsを含め、遺伝子の個人差を詳細に調べるには問題があるのです。人は父親と母親からひとつずつ遺伝子をもらうため、必ず遺伝子を2つ持っています。父親と母親からまったく同じ配列の遺伝子をもらっていれば問題ないのですが、父親のものと母親のものとで配列が違っている場合があり、これを対立遺伝子といいます。そういう場合を想定すると、SNPsを詳細に調べるには、まず父親と母親の遺伝子を分けて、それぞれのSNPsを調べなければ完全に遺伝子という複雑なものを解明することはできないのです。ですから、対立遺伝子を簡単に分ける方法を開発していこうと思っています。
また、今後はDNAのメチル化を簡単に検出する方法についても研究していくつもりです。メチル基とは遺伝子についている目印のようなもので、その目印がついているかいないか、あるいはどこについているかで、その遺伝子が働くか否かが決まります。いわばスイッチによるオンとオフみたいな役割ですね。そのオン・オフのせいで、例えば細胞がガン化するのを抑制する役割の遺伝子が働かず、ガンになってしまうなんてことがあるわけです。ですから、このメチル基の目印があるか、ないかを簡単に調べる方法を開発したいと考えています。

■生体機能化学(加藤輝)研究室
https://www.teu.ac.jp/info/lab/project/bio_spc/79.html

・次回は6月12日に配信予定です。