大学の学びはこんなに面白い

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「平面も立体も時間も表現できるアニメーションで、目的や意味を持たない作品をつくってみたい」

デザイン学部 中島健太 講師

デザイン学部 中島健太 講師

緻密な平面アニメーションやパペットを使った立体アニメーションの作品を発表している中島先生。今回は、これまでに制作した作品やアニメーションの魅力、育成したい学生像などを語っていただきました。

■まずは、先生の作品について教えてください。

私の作品は、映像関係になります。例えば、邦楽の演奏会の舞台装置として機能するアニメーション。本学部の田村吾郎先生がディレクションされている“和楽の美”という東京藝術大学奏楽堂で行われる演奏会があるのですが、その舞台の背景に映し出すアニメーションを手がけています。

和楽の美

また、茨城県にある取手競輪場で開催された「取手けいりんサイクルアートフェスティバル2008」でも作品を制作しています。このときは、場内の大型モニターや館内にたくさんある小さなモニターを使って、学生たちによる自主制作アニメーションの上映会を行うというプログラムがあって。その上映される作品と作品の合間に、取手競輪を広告する10秒ほどのショートムービーをつくって流そうということで、私も作品を制作しました。このショートムービーは、場内放送だけでなく「水戸黄門賞(GⅢ)」というレースの、中継の間にも流されています。

取手けいりん

■そのショートムービーは、どういうものだったのですか?

滝や木を描いた和風の背景とキャラクターを組み合わせたアニメーションです。最初にお話しした“和楽の美”という邦楽の舞台は、舞台上で生演奏が行われますから、その背景になる映像は、キャラクターなどが動かない、あくまでも舞台美術として機能する表現に取り組んだものでした。その経験から、舞台美術的な背景の手前にキャラクターを配置して何かできないかということを考えついて、取手けいりんのショートムービーを制作しました。ですから取手けいりんのショートムービーも、背景は“和楽の美”とほぼ同じ手法を使っていて、その手前に動くものをもってくるという形にしています。また「水戸黄門賞」で流されるということもあったので、“和楽の美”と同じく和風のイメージにという考えも多少はありました。キャラクターは、競輪場というとおじさんが多い印象があるので、おじさんが好みそうな、うさぎ耳の女性というかなり主観的な発想でつくっています(笑)。

■作品は、どのように制作するのですか?

私は、パソコンだけで生成されたものに対して、ちょっと納得いかない部分が多いので、素材だけは手でつくろうと思って取り組んでいます。鉛筆で描いていって、それをスキャナーでパソコンに取り込みます。それからパソコン上で色をつけたり、他の素材を取り込んで合成したりということをしていきます。

■アニメーションをつくるとき、ストーリーを考えて組み立てていくのですか?

正直なところ、ノープランです(笑)。それが良いのではないかと思っています。私は、基本的に自己表現として映像をつくってきた人間なんですね。自己表現で培ってきた表現力をデザインの仕事に応用するという形で今に至っています。きっとデザインという仕事をしてきた人間ではないから、ノープランなんてことが言えるんだとは思いますが。もちろん考えに考えたもののほうが、面白くなる場合もあるとは思いますが、私の場合はコンセプトやストーリーみたいなものを考えずに、ある意味“適当”につくったほうが、先が見えない分、面白いものができるのではないかと思っています。ですからアニメーションといえども、感覚的に何かをする、ドローイングに近いイメージがありますね。
もっと言うと、アニメーションは、動きが一番メインの要素なので、動いていれば面白いという仮説があります。どう動くかということも、面白ければ良いという部分があるんです。もちろん、辻褄は制作しながら合わせていきますけど。無目的に増殖を続けるとか、何かわからないけど動き続けているとか、そこに別に意味はないという映像って、実はあまりないのではないかなと思います。そういう無意味な映像を観ると、人は「どんな意味があるのかな?」と考えてくれるかもしれません。そういうところが面白いと思って、制作しています。

■先生がアニメーションに惹かれた理由とは?

私は感動、つまり心を揺さぶられることに、すごく価値があると思っています。それで自分が心を揺さぶられたものって何だろうと考えると、基本的には“時間軸がある表現”、小説や漫画、テレビなど、時間が止まっていないものだったんですね。また、進学した美術大学で立体と平面の両方を学んだのですが、そのどちらも面白いと感じて。なおかつ時間軸のあるものと考えると、それらを満たすのがアニメーションだったわけです。手描きも立体もできて、時間の表現もありますから。また、自分ひとりで制作できるというところも私にとっては重要でした。作品を制作するうえでは、自分の思い通りになるまで人をつき合わせるわけにはいかない部分があるのですが、アニメーションは自分自身ですべてを手がけることができます。そういう点もアニメーションに惹かれた一因だと思います。

■では、これから学生をどんなふうに育てたいと思いますか?

教員の立場としては、「きちんと食べていける人」になってほしいと思っています。また、そうなるためにも自分に何ができるのかを考えられる人になってほしいですね。そのうえで、文化に貢献するとか、誰かの役に立つようなことにつながれば素晴らしいと思います。 また、私個人の立場としては、自由に好きなものをつくって、それで生活することできれば良いのではないかとも思います。当然、そうなるには、そうとう努力する必要がありますし、道は険しいです。私が学生の頃は、「働くということに、生きるか死ぬかがかかっているのだ」なんて聞いてもピンときませんでしたが、卒業したとたんに、それがどういうことかよくわかりました(笑)。ですから、そこのところは、学生に早く理解してもらいたいです。自分の好きなことを仕事にして、あるいはそういう職業を見つけて、糧を得られるようになってくれれば何よりです。

■最後に今後の展望をお聞かせください。

延々と意味のないものをつくっていくということをしてみたいと思っています。私にとっては意味があって、すべて順を追って説明しているつもりでも、自分以外の人が観ると、全然そうは思わない、まるで意味がないと思うような作品というか…。単に動きが面白いというものでも良いのですが、そういう方向性で尺の長いアニメーションをつくってみたいと思っています。長いといっても、2,3分です。それでも私にとっては、劇的に長いんですよ(笑)。
[2010年7月取材]

・次回は11月12日に配信予定です。

2010年10月8日掲出