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ICTとビジネスの両方を理解し、その橋渡し役として活躍できる人になろう!

2013年9月13日掲出

コンピュータサイエンス学部 山口 淳 講師

コンピュータサイエンス学部 山口 淳 講師

13年間、東京ガスに勤務した後、研究者となられた山口先生。現在は、生産やサービスの現場において、一連のプロセスの効率化を図る“オペレーション・マネジメント”について研究されています。今回は具体的な研究内容や教育への思いなどを伺いました。

■まずは、先生のご研究についてお聞かせください。

 オペレーション・マネジメントといわれる、経営学の一分野の研究をしています。簡単に言うと、どうすれば仕事を効率的にできるか、あるいは効率的な仕事であり続けるには、どうマネジメントしていけばよいかがテーマです。例えば、コンビニエンスストアを例にとると、ある作業にいつも手間がかかってお客さんを待たせてしまうとか、ミスをしがちな作業がありお客さまからのクレームにつながってしまうというような問題点があると思います。そういった現場の問題点を集めて、なぜそういうことが起こるのかを分析し、よりよい作業にするにはどうすればよいかを考えることが私の研究であり、この秋から始まる研究室でも学生と一緒に取り組んでいくテーマになります。また、現場で起きている問題の原因を探ると、その作業だけの問題ではなく、店舗としてのマネジメントやコンビニチェーン全体のマネジメントが原因であることも考えられます。つまり、店舗内の業務の分担方法や、本部と店舗の望む方向性がずれていること、高度化するサービス内容に人材育成が追い付いてないことなどが、根本的な原因となり現場の作業の問題を引き起こしている場合も多くみられます。そのため、研究室では、フィールドワークで企業の現場から出てくる様々な問題を集め分析することを通じて、会社全体のマネジメントにある大きな問題にまで辿り着けるような研究に取り組んでいこうと考えています。

■コンピュータサイエンス学部の学びの中心にあるICTは、どういう形で研究と関係するのでしょうか?

 仕事や作業を効率的に、かつ間違いなく行なうためには、ICTはとても役立つ手段となりますが、反面、現場の多くの問題が、CTによって引き起こされているという事例も残念ながらあります。というのも、情報システムはある前提のもとで業務が効率的に流れるように構築されているわけですが、経営環境やその会社の戦略が変化する中では、当初に置いた前提が成り立たなくなることも多いのです。そのような場合、情報システムを変更するためには時間もお金もかかるため、現場では、情報システムとは異なる流れで、業務が行なわれることがあり、その際には情報システム内の情報と、現場のリアルな状況がズレてしまいます。すると、そのズレを手間をかけながら管理したり、情報システムのデータをリアルな状況に合わせてどう修正するかを関係者が頭を悩ませたり…という手間がかかり非効率な状況が起こります。そうした問題を起こさないためには、システム構築時に、経営環境や戦略がどのように変化しうるかを考え、その変化の中で現場の業務はどう変わるのかを見抜くことが重要になってきます。そのようなICTと経営と現場の3つの状況をつなげて理解できる人材は、今すでに求められていますし、今後その重要性はさらに増すと考えられます。コンピュータサイエンス学部(以下CS学部)の学生は、ICTの知識の基盤を持っていますから、現状の業務と経営の方向性を踏まえた課題を認識することにより、長い目で見て効率のよいシステムのあり方を提案する力を持っています。ですから、研究室でも、受け入れ先企業の許可を得られればですが、学生数人のチームと私とで現地調査へ赴き、1年くらいかけて、何がその企業の問題になっていて、ICTを含むどんな解決策があるのかを実際に示していきたいと思っています。実現すれば、かなり実践的で面白い研究になると思いますね。

■では、授業ではどういうことを教えているのですか?

 「ファイナンス」と「金融ビジネス論」という授業を担当しています。「ファイナンス」では、その会社のビジネスにどんな特徴があるか財務諸表から読み解く方法、そしてその会社が生み出している価値を算定する方法を教えています。財務諸表のある部分の数字の大きさ・小ささから、その企業が収益を生み出していく仕組みを読み取り、その価値の大きさを捉えていくという内容です。このように、ファイナンスは財務会計の知識が基礎となっていますが、実は、その財務会計にもICTの知識が絡んできます。というのも、多くの企業で導入されている様々な業務システムは、財務会計とは切っても切り離せないところがあるからです。また、会社のICT戦略は、多くの場合、企業価値の向上を目的の一つとしています。そういう意味では、ICTの知識があり、会計やファイナンスにも詳しい人は強力なバックボーンを持っていることになります。この授業では大まかに財務会計や企業価値算定とはどういうものかを学ぶ程度ですが、それでも社会に出た時に、話の論点を理解する土台になると思います。
 「金融ビジネス論」は、主に金融の仕組みや資金調達のニーズについて基礎的に学ぶ授業です。例えば、なぜ住宅ローン金利は多目的ローン金利より低いのかということを考えたり、自分がカフェを開業するとしたら、何にどのくらいお金が必要で、そのためにはどこからどのような種類のお金を調達するのがよいのかということを考えたりしていきます。カフェ開業の例では、ビジネスを立ち上げた当初は、基本的に資金の不足幅が膨らみます。最初に結構、初期投資をしますし、運転資金も必要なので、かなり余裕を持った資金繰りを考えないと、ビジネスとして成り立ちにくいわけです。それを考えると、株主に多額の出資してもらうことが望ましいのですが、出資者の立場からすると、リスクも高い分多くのリターンを必要とする、という悩ましい面もあるということを確認していきます。CS学部の学生は、将来、ICT業界へ進もうと考えている人も多いと思います。そこでは、得意先が銀行や証券会社などの金融機関である場合も多いので、こうした基本的な金融の仕組みや金融に求められるニーズについて知っておくことは強みになるはずです。

■授業をするうえで、工夫されていることや心がけていることを教えてください。

 学生にとって“財務”や“金融”は、なかなかピンと来るものではないと思います。ですから、とにかく身近な例を取り上げて、自分自身で考える時間やグループで話し合う時間を設けるようにしています。5-6人のグループに分かれて、問題に対してそれぞれ感想ベースでも構わないので意見を出し合ってもらうのです。学生の意見を集めてみると、意外と本質を突いていたり、思わぬ着眼点でこちらが勉強になったりすることが多々あります。ですから単に私が話して、学生が聞くというスタイルの授業ではなく、みんなで話し合いながら意見を出し、その中から解を見つけるという形を積極的に取り入れています。そうすると、自分がわからないところをわかっている人から教えてもらうこともできます。また、わかっている人はわからない人に教えることで、さらに自分の知識の不確かなところや新たな疑問に気づくことができ、より深く理解できるようになります。このような経験を通じて学生にビジネスへの関心や知識を深めてもらい、例えば普段行くお店で、「このビジネスだと設備投資が結構かかっているな」とか「この店はどのように利益を出しているのだろうか」と自然に考えるようになるなど、日常生活の中でのビジネスに関するアンテナの感度を高めてもらえれば、とても嬉しいことです。

■CS学部でビジネスを学ぶ意義とは何なのでしょうか?

 今の日本の企業では、ビジネスに関しては豊富な知識があるのにICTに関しては敬遠している人が多く、逆にICTの世界にもビジネスを理解している人が少ないという現状があります。ですからビジネス上のニーズを理解した上で、「このICT技術をこのように使えば解決できます」と提案できたり、ICTのスペシャリストにわかるようにビジネス上のニーズをICTの用語を使いながら正確に伝えられたりというような橋渡しができる人が必要です。このようなビジネスとICTの両方を理解できる人材を育てることが、CS学部のサービス・ビジネスコースの目的の一つです。そして、日本のビジネス界では、まだICTの活用がそれほど進んでいるわけではないので、若い人が活躍する余地はたくさんあるはずです。CS学部の学生には、そういうところでも力を発揮してほしいですね。

■先生が現在の研究を始めたきっかけとは?

 企業に勤めていた頃、社内の会計システム導入プロジェクトに携わったことが大きなきっかけでした。そのプロジェクトは、まさにICTの知識と深く関わる内容で、会計システムの構築と経理業務の効率化を図ろうという目的で行われたものです。システム構築の部分をSEの方たちと一緒に仕事を進めていくと同時に、新しくシステムを構築するのに合わせ、今までやりにくかったりミスしやすかったりする業務の改善を進めました。業務改善を進めるにあたっては、経理業務をしている人たちに日々の業務の中で手間がかかっていることについて話を聴くことから始めました。その中で、ある伝票の項目のデータを報告するための情報収集にすごく労力を要しており、それが何に使われているのかわからないが、とりあえず頑張って報告しているという話が出てきました。また別の業務担当からは、他業務でもその項目に類似した報告をしており、それで代替できるのでは、というアイデアも上がってきました。そこでさらに調査を進めたところ、確かに本社の一部署でそのデータは活用しているものの、他業務で報告されているデータでも代替はできるということが判明しました。そのため、経理業務ではその項目の報告自体をなくすことができ、業務のやりやすさや効率化につなげることができました。このように、日々の業務を担う人たちが、業務の中で強く感じている問題を吸い上げ、解決のアイデアももらいながら、システム構築に反映させていくことをプロジェクトで進めていきました。その一方で、なぜこれほどの問題意識や知恵を持っている人たちが、業務を日常的に改善してこられなかったのだろうかという疑問を持つようになりました。この経験から、どうすれば現場の知恵を普段から取り入れられる会社にできるのかということに興味を持ち始め、主に製造業の分野で、改善活動を長く続けている会社の取り組みについて研究し始めたのです。

■最後に今後の展望をお聞かせください。

 私は研究の一環で、企業の経営幹部やマネジメント層の方たちと話をすることが多く、時にはその方たちにレクチャーをすることもあります。つまり学生に教えるのと同じ内容を話すわけですが、そのときに感じるのは、理論の理解力に関しては、CS学部の学生は第一線で活躍する経営幹部の方たちと遜色がないということです。そのくらい学生たちにはポテンシャルを感じています。一方で、足りないものもあります。京セラの創業者でJALの再建をリードした稲盛和夫さんは、「人生・仕事の結果=考え方×熱意×能力」の掛け算であるとおっしゃっています。その言葉を借りると、本学の学生の場合、能力は持っていて、今後必要になるのは、熱意や考え方の部分なのです。このうち、考え方とは周りに対してよい影響を与えようという心持ちや、一見望ましくない状況においてもその中で自分の力を発揮していこうとする人生に向かう姿勢みたいなものです。いくら熱意や能力があっても、考え方がマイナスでは、むしろ大きなマイナスを生み出しかねません。ですから私としては、学生たちが熱意や考え方を伸ばすきっかけとなるような教育をしたいと考えています。そのために必要なことは、何事も学生自身で考えて、自分なりの答えを出し、少しでも行動してみることではないでしょうか。答えが正解か否かより、まず自分で一歩踏み出し、その中で学んでいくこと。そういう経験を大学で重ねて、社会に出るまでに、あるいは社会に出てからも熱意と考え方を育んでいくことが大切だと思っています。
 また、研究では、一見、利益を上げていないように見える、あるいは数字に表れにくい現場の知恵やノウハウが、実は改善活動を進展させ、イノベーションを生み出し、長期的な利益の基盤につながっているということを、体系的に示したいと考えています。そうすることで、例えば知恵やノウハウを生む職場の和といった無形の経営資源が持つ価値を明確に見出せる枠組みを、研究を通じて示していきたいと考えています。

■コンピュータサイエンス学部WEB
https://www.teu.ac.jp/gakubu/cs/index.html

・次回は10月11日に配信予定です。