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屋外イベントのネット中継や本格的なコンサートの制作に挑戦することで、現場の最新技術を実践的に学んでいます。

2014年9月12日掲出

メディア学部 佐々木 和郎 教授

メディア学部 佐々木 和郎 教授

ユーミンこと松任谷由実さんのライブコンサートの映像配信や、Eテレで放送されたクレイアニメーションの制作など、学外のさまざまなプロジェクトに、学生とともに参加している佐々木先生。プロの現場を通して映像コンテンツ制作やその配信に関する研究に取り組んでいます。今回は、現在、力を入れて取り組んでいるいくつかのプロジェクトについてお話を伺いました。

過去の掲載はこちらから→
https://www.teu.ac.jp/topics/2012/021941.html

■今、どのような研究プロジェクトに取り組んでいるのですか?

今年のUTMFスタート/フィニッシュ地点
今年のUTMFスタート/フィニッシュ地点
 前回の取材以降、また学外から要請をいただいた、とても有意義な活動が2つありましたので、そのお話をしたいと思います。まず、ここ二年間の間に新たに取り組んでいる、スポーツイベントのライブ映像配信についてお話いたします。2012年から始まった「ウルトラトレイル・マウントフジ(以下UTMF)」というアウトドアイベント映像中継です。UTMFとは、山梨県の河口湖から出発して、富士山の周りを一周して戻ってくるというトレイルランニングです。昨年から二年続けて、そのイベントのスタート・フィニッシュ地点のネット中継に参加しました。現地では、メディア学部の学生が運営するインターネット放送局「intebro」のメンバーが中心となって、カメラ撮影とスィッチング、映像のライブ配信を行いました。そのご縁もあって、6月には「柴又100K」や「サロマ湖100kmウルトラマラソン」に関わるなど、今年のスタートは、屋外でのスポーツイベントが中心となりました。

柴又100Kマラソンで撮影する学生
柴又100Kマラソンで撮影する学生
 こうした屋外イベントの中継に、積極的に関わるようになった背景には、中継機材の技術的な向上ということがあります。かつてマラソン中継というと、非常に大がかりな機材や技術が必要だったため、大きな放送局にしかできないことでした。それが今や携帯電話やスマートフォンの電波を使って、それと同じようなことを実現できるようになったのです。たとえばスマートフォン1台では、You Tubeを見るくらいしかできませんが、これを3回線まとめて使えば、映像をライブで配信することが可能です。実際の中継現場では、複数の電話回線をリュックに入れて背負い、小型カメラを持つだけで、山中でも一人で中継できるようになっています。「UTMF」でもそういう形で中継がなされていて、学生もゴール・スタート地点のネット中継以外に、それらの機材を借りて、会場内の様子を映像で伝えるという経験をさせてもらいました。このように、現在の放送分野で起きている新しい変化を学生に体験してもらおうと、屋外イベントの中継プロジェクトに参加しているのです。

■このプロジェクトを通して、苦労した点や収穫したこととは何でしょう?

 初めて参加した2013年の「UTMF」では、屋外での作業が思いのほか厳しくて、正直なところ「来年はもうやめよう」と思うほどでした(笑)。このイベントは富士山麓での開催でしたから、寒暖差の激しい過酷な屋外環境の中で、ずっと作業を続けなければならない大変さがあったのです。また、「UTMF」は168kmのコースを46時間という制限時間内に走るので、その間、中継がずっと続きますし、休息をとる場所を確保するのも一苦労でした。そういう環境面のことが初参加のときは把握できていなくて、大変な厳しい事態になりましたね。

 また、現場では技術面でも予想外なことがたくさん起こりました。今、映像の世界では、フイルムやテープから、SDカードやデジタルレコーダーなどのデジタルメディアへの移行が急速に進んでいます。SDカードならば、撮影後、カメラから取り出してパソコンに入れるだけで、簡単にデータを取り込めるので大変便利です。ところがこれには大きな落とし穴があるのです。 ひとつは、映像フォーマットの違いによって起こる問題。たとえば、ソニーのカメラで撮った映像をアップルコンピュータで編集しようと思うと、ものすごく変換に時間がかかったりします。そういうメーカーによる規格の違いなどから生じる問題があるということを、「UTMF」の現場で身をもって経験することになりました。というのも2013年のときは、参加したカメラマンもみんな手探りで、いろいろなタイプのデジタルカメラを持ってきて撮影していたのです。私たちはネット中継以外に、編集や素材整理の手伝いもしていたのですが、カメラマンから預かったデータはバラバラで、その整理は大変苦労しました。もうひとつの問題は、なんと、SDカードが小さいため、すぐに失くしてしまうんです!これは笑いごとのようで笑いごとではなく、実際にテレビ局でも起きている問題です。現在のように配信技術や記録技術、編集技術が激変していく過渡期にあって、どのようにスムーズにテープレスにするかということは、プロダクションや放送局でも問題になっているんです。そういうリアルな問題に、私たちも「UTMF」の現場で直面せざるを得なかったというわけです。

 ただ、この苦い経験は、「intebro」のメンバーやそれ以外のメディア学部の学生が、毎年お手伝いさせていただいている「Yuming Surf & Snow in Naeba」の現場でも活かすことができました。「Yuming Surf & Snow in Naeba」は、毎年スキーシーズンに新潟県の苗場で開催される、ユーミンこと松任谷由実さんのコンサートです。今年2月に開催された、このコンサートでも撮影はテープに加えて、いくつかのデジタルベースのカメラが使われていました。そこで「UTMF」での経験を活かして、事前にデジタルフォーマットの統一やどういう形で進めるかということをすべて解決したうえで、機材を揃えておくことにしたのです。そのおかげで、苗場では何の問題なくスムーズに撮影することができました。

■では、取り組んでいるもうひとつのプロジェクトとはどういうものですか?

松任谷由実 コンサートツアー POP CLASSICOより
松任谷由実 コンサートツアー POP CLASSICOより
 ユーミンの苗場でのネット・コンテンツ制作に関わらせていただくようになったことをきっかけに、コンサートツアーの映像制作も、少しずつお手伝いさせていただくようになりました。東京工科大学・客員教授でいらっしゃる、松任谷正隆先生が進める演出プランのもとで、私たちは新しい技術を用いた映像制作に参加させていただいております。昨年11月20日から今年7月18日までの8カ月間で66公演が行われた「コンサートツアー2013-2014 POP CLASSICO」でも、学生と一緒にステージ映像をつくらせていただきました。基本的には、ステージ上のセットにプロジェクションマッピングのような形で投影するものです。曲のイメージや舞台転換を考えながら、松任谷先生とともにイメージを作り上げていくのですが、その手法はコンピュータ・グラフィックスを使ったものから、アナログな撮影まで、実にさまざまな手法を使いました。ステージ上にあらわれた巨大な柱が、一瞬で崩れる演出などは、3DCGを用いたのですが、それとは逆に、ユーミン自身の「影」を使った演出にも挑戦しました。この演出は、事前にスタジオで撮影したユーミンの「影」の映像を、実際のステージにプロジェクターで投影するという仕組みで、本物の影では不可能な仕掛けが現れるのです。映像である「影」と、実際のユーミンのステージ・アクションのタイミングなどがぴったり合った瞬間、とても新鮮で意外性のある映像演出となりました。こうした映像演出は、今後、よりインタラクティブなものになっていくだろうと考えています。今回のように事前に撮影して、それに動きを合わせるというものではなく、その場その場の動きに対応した演出ができるようになっていくことと思います。

東京多摩国体むけアプリ画面
東京多摩国体むけアプリ画面
 そういう未来のために、私の研究室でも、最近はプログラミングによって映像に関わるものを開発する試みを始めています。たとえば、昨年9月に開催された東京多摩国体(スポーツ祭東京2013)では、いくつかの競技が八王子市内で実施され、本学の体育館も会場のひとつとして使用されました。それに連動して、私の研究室ではスポーツをテーマにしたスマートフォン用のアプリやゲームを開発するということに取り組んだのです。また、小さなセンサで手話などの手の動きを捉え、言語を使わないジェスチャーコミュニケーションにつなげる研究やプロジェクションマッピングをインタラクティブなものにするための研究に取り組んでいる学生もいます。

 これまで私の研究室では、映像を撮影・編集して作品にすることを研究の主軸としてきたため、ある意味、プログラミングとは遠い位置にありました。今後も研究の主軸に変わりはありませんが、時代の流れとともに、やはり最新の映像技術を自分たちのものにしていくには、高度なプログラミングを理解しておく必要があると感じています。新しい技術を表現に使用するには、プログラミングの知識が不可欠な時代になりつつあるのです。特にインタラクティブな演出を実現するには、ツールが開発されることをただ待っているのではなく、自分たちでプログラムを組んで形にしていかなければなりません。そういう観点から、プログラミングを使うような挑戦を始めているのです。

■最後に今後の展望をお聞かせください。

 私の研究室では、さまざまな学外プロジェクトに参加し、学生自身がプロの活躍するメディアの世界を経験することで、映像制作や配信技術を学ぶということに取り組んできました。今後も放送や配信に関わる最新技術や現場を、学生が身をもって体験できるように、この挑戦を続けていくつもりです。また、最近ではこうした実践的な取り組みの成果が、学生の就職にも表れてきています。プロジェクトを通して厳しいプロの現場を経験した学生が、大手広告代理店やテレビ局への就職を成し遂げているのです。やはり過酷でプレッシャーの大きい、社会人が働く現場に自ら手を挙げてチャレンジしていく学生は、その分、力を付けることができるので、結果として良いところに就職ができるんでしょうね。

モーションキャプチャの手話への応用
モーションキャプチャの手話への応用
 また、今日はエンタテインメント分野での取り組みを中心にお話ししましたが、この研究室では、バリアフリーコミュニケーションの研究にも取り組んでいます。先ほど話した手話の動きをセンサで捉える研究もそうですし、視覚障害のある方でも健常者と一緒に遊べるバリアフリーカードゲームの研究にも取り組んでいます。

 エンタテインメントとバリアフリーは、別々の世界ではありますが、今はスマートフォンやネット、センサ技術が非常に進歩していて、それらを安価で簡単に手に入れることができる時代ですから、その技術を両方の世界に活かすことはできるはずです。そういう手の届くところにある機械や技術を映像演出に利用したり、社会的なコミュニケーションのバリアフリーの実現に活かしたりできればと考えています。そのためにも、最新技術をどんどん取り入れて、その組み合わせの中でできる映像表現にチャレンジしていきたいですね。

・次回は10月10日に配信予定です。