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グリーンエネルギーの大量導入を実現するため、山積する課題を一緒に解決していこう!

2015年5月8日掲出

工学部 電気電子工学科 新海 健 教授

長年、企業で電力用遮断器の研究開発に携わってきた新海先生。若手育成にやりがいを感じ、電気電子分野に興味を持つ学生を一人でも多く増やせればと、本学に赴任されました。そんな先生の研究内容や研究の面白さについてお話しいただきました。

■先生のご研究について教えてください。

 私は、電力系統の安定化に関する研究をしています。電力系統とは、発電に始まり変電、送電、配電に至るまでの一連のシステムのことです。
みなさんは、いつでもごく当たり前に電気を使うことができていますよね。ですが世界的に見ると、それは特殊なことです。日本の年間停電時間(平均)は、わずか15分程度ですが、ドイツはその2倍、アメリカは3〜10倍、その他、何10倍以上の地域がたくさんあります。それだけ日本の電力供給システムは、非常に信頼性が高いのです。

 そんな優れた電力供給システムを支えているもののひとつに、電力系統で用いるガス遮断器という装置があります。私は企業在籍時代から、長らくこの装置の研究開発に注力してきました。ガス遮断器は、50万ボルトといった高電圧の電力系統が落雷などによって故障した際に、系統全体を保護し、停電を最小限に抑えるために6万アンペアといった大電流を遮断する一種のスイッチのことで、電力系統の安定化を図る要となる装置です。では、それほど大きな電流をガス遮断器はどのように遮断するのかというと、ガス中に放電プラズマというものを発生させ、交流電流がゼロになる瞬間を狙ってプラズマを冷却し消滅させることでスイッチングを行います。ご存知のように電流には交流と直流がありますが、一般に発電所から変電所を経て各家庭に供給されているのは交流です。交流では、電流が一定の周期でプラス、ゼロ、マイナスと変化するので、そのゼロとなる瞬間を狙って電流を切るわけです。


交流と直流の電流遮断(スイッチング)

 こうしたガス遮断器は、伝統的な技術分野ではありますが、電力系統の変化によって次々に新しい原理のものが求められ、日進月歩しています。日本では、東日本大震災以降、原子力発電所が停止したことで、電力系統における電気の流れは随分と変わりました。これまで東京電力は、福島県と新潟県の大型原発から首都圏へと、大動脈のような送電ルートを使って電気を送っていました。それらが停止している現在は、その代替として稼働させている火力発電所が立ち並ぶ東京湾岸地帯に、たくさん電源がある状態になっています。その分、湾岸地帯に電流が集中して、電力系統が過酷になるという変化が起きているんですね。そうした変化への対応や電力需要の増加により電力系統に流す電力の増加が進むことで、今後は今以上に強力な性能の遮断器が必要になってきます。電圧が高く、電流が大きくなればなるほど、それを遮断することは難しくなりますから、新しい原理を取り込んで遮断器の性能を高めていかなければならないのです。また、ガス遮断器は、ミクロからマクロまでさまざまな現象が関わり、非常に学際的で複雑な技術を要します。そんなガス遮断器におけるスイッチング現象の物理メカニズムを明らかにしていきたいと取り組んでいます。


550kV 63kAガス遮断器 (東京電力提供)

■グリーンエネルギー(再生可能エネルギー)に関する研究もされているそうですが?

 もうひとつの大きな研究テーマですね。具体的には、グリーンエネルギーの大量導入をどうすれば実現できるかということについて考えています。日本はエネルギー自給率がわずか4%と非常に少ない国ですし、震災以降は特に化石燃料への依存が際立っています。ですからエネルギー自給率の向上や環境負荷を低減するためにも、グリーンエネルギーを増やすことは非常に重要な課題です。実際、震災後は太陽光発電など、色々なグリーンエネルギーの設備が増えましたよね。しかし、国内のエネルギー自給率を上げるほどの普及は、まだしていません。その原因のひとつには、電力ネットワークの送電容量が足りないということが挙げられます。グリーンエネルギーの大型発電所、つまりメガソーラーや風力発電所が設置されているところは、地方の電力ネットワークが脆弱な地域に集中立地しつつあるからです。例えば、携帯電話やスマートフォンをみんなが一斉に使うと、基地局や回線がパンクしますよね。それと同様のことが、電力でも起きるのです。ですから発電所の建設だけでなく、その電力を送る電力ネットワークの強化も求められています。
 
 また、グリーンエネルギーは気象条件によって発電量が変動する変動電源であるという点も問題のひとつです。電気には同時同量という原理があり、瞬時の電力供給量と需要量が一致していないと、うまく電力を送ることができません。供給量が足りない場合だけでなく、供給量が多すぎても系統が不安定になるのです。つまりグリーンエネルギーのような変動電源は、電力系統全体の安定に悪影響を与えてしまうのです。

 このような事態を避けるために、グリーンエネルギーの発電量が変動すると、火力発電などで供給量を調整したり、蓄電池や電力系統の広域連携を強化することで変動を吸収したり、需要側で調整したりということが考えられています。さらに、もっと根本的な解決策として、私は直流送電に注目しています。直流は、交流のように周波数の変動や電圧の変動に関係する無効電力の問題がありません。ですから、とても安定しているんですね。一方で、周波数がないということは、電流がゼロになる瞬間がないため、遮断することが難しいわけです。そこで私は、直流でも遮断できる直流送電用の遮断器を開発しようと研究に取り組んでいます。

 交流送電用の遮断器では、ガス中で放電プラズマを発生させたのに対して、直流送電用のそれでは液体中でプラズマを発生させ、より高密度・高圧力の状態を作り出してプラズマを強力に制御して、直流を遮断できないかと考えています。現在は交流で発電して送電・配電していますが、家庭で使用する家電のほとんどは直流で動くため、再び直流に変換して使用しているのが現状です。この変換によりエネルギーロスが発生していることから考えても、将来的には直流で発電し、そのまま送電して使う形が電力システムの一形態として増加するだろうと予想されます。そういう意味でも、直流送電の研究は重要なのです。

 また、現在は“スマートグリッドシミュレータ”と呼んでいる、電力系統の小型実験装置を製作しています。これを使って、電力ネットワークに複数台の小型発電機を接続したり、グリーンエネルギーや電力変換装置を接続して安定性の実験をしたり、直流と交流のハイブリッドネットワークの実験をしたりするなど、基幹系統となる大規模な電力ネットワークのシミュレーションを研究室でできるようにしようと考えています。これまで、巨大な電力システムの解析は、コンピュータを使ったシミュレーションで行われることが主流でした。しかし、グリーンエネルギーなど、さまざまな新しい要素が電力ネットワークに入り込むことが増えてくる今後は、こうした実験装置も有効な研究ツールになるだろうと思います。


将来の電力系統イメージ

■先生が現在の研究テーマに興味を持ったきっかけや研究の面白さについて教えてください。

 高校生の頃、授業でエネルギー資源や原発の話を聞いて、新エネルギーに興味を持ったことから、大学ではエネルギーに関係する電気電子分野を専攻しました。電力系統のガス遮断器と出合ったのは、就職してからです。この装置は、落雷などで電力系統に故障が発生したときに動くものですから、通常はほとんど作動することがありません。10年に一度しか動かないこともあり得るのです。しかし、いざネットワークが故障したというときには、数10ミリセカンドで動作しなければなりません。ですから完全なコンディションで、いつ来るとも分からない瞬間を待ち続けている装置なんです。それはハードウェアとして、非常に難しいことです。ハードウェアは動かし続ける、もしくは定期的に動かす方が扱いやすいですから。そういうストイックな世界のものだと言えます。

 そんな遮断器の研究の何が面白いのかといえば、ひとつは過渡現象が挙げられます。過渡現象とは、定常状態から次の定常状態に変化するとき、瞬間的に起きる色々な現象のことです。ガス遮断器では機械現象や、放電プラズマや電力系統内で起きる電気現象など、マイクロセカンドやミリセカンドの単位で、多層的に色々なことが一気に起きて、一瞬で勝負が決まります。私自身は、そういうところに面白さを見出しました。

 また、世の中の役に立つものを研究しているということもありますね。それが研究に向かう、大きなモチベーションになります。電気は当たり前にあるものと思われがちですが、実際はさまざまな技術研究や努力がそれを下支えしているわけですから。

■最後に今後の展望をお聞かせください。

 ひとつは、電気電子工学科の先生方みんなで取り組めるような共同研究をしたいと思っています。サステイナブル工学とは、個別のことだけでなくトータルで考えていかなければならないものです。本学科には、電力系統からシステム、デバイス、センサ、情報ネットワークまで、さまざま研究分野のエキスパートが揃っているので、それぞれの研究によってひとつの形にできるものがあるはずです。

 また、これから国内でグリーンエネルギーを増やしていくには、非常に多くの課題があります。今日、お話ししたように発電所の建設だけでなく、電力ネットワークの強化や高度な制御も必要ですし、新しい蓄電池や低損失の半導体、夜間でも太陽光の電力が得られるような技術、太陽電池のリサイクルなど、幅広い技術躍進が求められています。つまり、しなければならないことが山積しているわけです。ですから若い皆さんに、ぜひ挑戦してもらいたいですし、手伝ってもらいたい。私も夢を持って、研究に取り組んでいきます。

 教員としては、私が22年間、企業での製品開発における研究で学んできたことを、学生に少しでも伝えることができたらと思っています。研究は失敗ばかりで、そう簡単にうまくいくものではありませんね。苦しいときは「あわてない、あせらない、あきらめない」と唱えていました(笑)。本学の学生にも大学の4年間で、“苦労→達成→面白い”という研究のプロセスを経験してもらいたいと思います。また、工学者やエンジニアには、社会や顧客はもちろん同僚に対するボランティア精神とサービス精神がとても重要であるということも知ってもらいたいですね。

 電気電子工学は、非常に裾野が広い分野です。さまざまな分野の根幹に関わる縁の下の力持ち的な技術でもあります。言い換えれば、あらゆる科学技術の成立に必要不可欠な技術なのです。そんな電気電子の世界に、皆さんが飛び込んできてくれることを楽しみにしています。

・次回は6月12日に配信予定です。