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感性演習「関係づける」で、デザインをつくる側の視点や発想力を身につけよう!

2015年9月11日掲出

デザイン学部 宮元三恵 准教授

デザイン学部の特徴的な授業である感性演習の「関係づける」を担当している宮元先生。学部における感性演習の位置づけや、授業での具体的な取り組みについてお話しいただきました。

過去の掲載はこちら→https://www.teu.ac.jp/interesting/019362.html

■デザイン学部の特徴的なカリキュラム「感性演習」についてお聞かせください。

 感性演習というのは、デザイン学部の中でデザインの基礎教育に位置づけられている科目です。入学する学生の多くは、美術予備校などに通って技術的なことを学んでいないため、本学部では「感性演習」によってイチから教えることを行ってきました。それ自体は変わりありませんが、カリキュラムとしては昨年度から少し変わっています。それまでの感性演習は、1年生で「描く」「つくる」「伝える」「関係づける」という4つをそれぞれ「Ⅰ」として一通り学び、2年生では「Ⅱ」として、その応用を学んでいました。それを昨年度からは1年生で「描くⅠ・Ⅱ」「つくるⅠ・Ⅱ」を、2年生で「伝えるⅠ・Ⅱ」「関係づけるⅠ・Ⅱ」を学ぶ形に変えたんです。というのも「描く」「つくる」「伝える」「関係づける」のうち「描く」と「つくる」は、どちらかというと表現の基礎に当たり、「伝える」「関係づける」は、デザインの基礎に当たるからです。そういう理由から、1年生の段階で、まずは学生の表現力を「描く」と「つくる」で集中的に磨いていき、2年生でよりデザイン的な「伝える」「関係づける」を学ぶ形になりました。

 私は、今年から「関係づける」の担当になったので、それ以前と今を比べての意見は言えませんが、以前から感性演習を担当されている先生方に伺うと、途中で途切れることなく、半期で集中して「描く」「つくる」の基礎と応用をそれぞれ学ぶことで、学生の理解度が深くなったうえ、担当の先生と半期間じっくりつきあえることで、学生も先生もなじみやすくなり、お互いにとって良い手ごたえが感じられているようです。

■では、先生が担当されている感性演習「関係づける」では、どのようなことに取り組んでいるのですか?

 「関係づける」という言葉が少し漠然としているので補足しますと、デザインというものは単にものをつくるだけでなく、あくまでも対象になる人や場所、目的があって初めて成立するものだと思います。つまりものをつくろうと考える時に、“ものと人”の関係、それがどこに置かれるのかという“ものと場”の関係、あるいはどういう時に使うかという“ものと時間”の関係に目を向けることが欠かせません。つまり、ものをデザインすることは、周りとの関係性を理解して提案することが大事になってくると思うんですね。ですから「関係づける」の授業では、特にものにまつわる周辺環境に対して学生に考えてもらい、その関係性を適切に繋いでいくような思考を促す演習課題を設定しています。例えば、対象となる場や状況をどう分析するか、観察するか、そこからどういう問題を導き出すか、それに対してどういうデザイン的な解決策を提案するかというプロセス全体をシミュレーションしながら学んでいくわけです。

 具体的には、「関係づけるⅠ・Ⅱ」を通して、大きく3つの課題に取り組んでもらいます。一つ目の課題では、日常生活の中のデザインということで、学生に模型づくりをしてもらいます。まず、自分の全身写真を好きなポーズで撮影し、それを50分の1サイズの縮尺、だいたい3cmくらいの大きさの模型にします。その模型を自分たちが普段生活しているところに置いて写真を撮ります。例えば、普段使っている椅子の上に置いて撮影してみる。自分にとっては単なる椅子であっても、小さな縮尺の人間の写真をそこに置くと、椅子とはまた違ったものに見えてくると思います。そんなふうに視点を変えることで、ものの見方や発想力を刺激してもらおうという試みです。次に、その撮影した写真がどんなふうに見えるかを学生なりに分析してもらい、仮にそれが実在するとすれば、どういう空間になるのかを想像して、写真で撮った空間を模型にしていきます。

 例えば、ある学生は、紙紐が束になって結ってある中に自分の縮小模型を置いて、写真を撮影しました。その写真を学生なりに分析して、曲線で組まれた格子状の空間を模型にしています。また、別の学生は、タオルの上に自分の縮小模型を置いて写真を撮り、その写真から、タオルの柄を見下ろすような形で、普段の生活の中にない洞窟みたいな三次元空間を模型にしていました。その他、草木の中に自分の縮小模型を置いた学生は、植物を棒に平面が刺さったような状態として模型で表現したり、ガスコンロの五徳から塔のようなものをイメージして模型化したりした学生もいました。

 この課題では、自分の中になかった発想力を得る経験をしてもらったり、潜在的に自分が興味を持っているものを、課題に取り組む過程で掘り起こしたりしていくことを狙いとしています。また学生は、これまでユーザー視点でしかものを見てきていないわけですが、デザインを学ぶということはユーザーから作り手にシフトしていくことですから、今までとは違った角度からものを見る経験をして、発想力を得ることは大切だと思います。

■2つ目の課題では、どんなことをするのですか?


 次の課題では、「纏う(まとう)」というテーマのもと、グループで作品づくりに挑んでもらいます。自分の体に一番近い空間について考えてみましょうという課題で、簡単に言えば服のことになるのですが、あえて服とは言わず、体に纏う空間という言い方にして、それについて考えてもらいました。ちなみに「関係づける」の授業では、デザインの現場だけでなく社会生活を送る上でも重要になってくるチームワークを身につけてもらうことも大事にしているので、グループワークも積極的に取り入れています。

 実際にどんなことをするのかというと、まず各グループでテーマとなる場所を決めて、その場所の特性を調べ、そこから得たヒントをもとに、その場所にふさわしい人をデザインするということに取り組んでもらいます。 学生の作品例を挙げると、例えばテーマとなる場所を公園に設定し、公園を散策するための特別なコスチュームというアイデアから、光る人間みたいなものを紙で表現した作品があります。また、別のグループは神社をテーマに、日常と非日常の境目という視点から、自分の存在を消すようなコスチュームという発想を得て、自分自身が環境を映しだすミラーを使ったコスチュームをつくっています。また、特に美しかったのは、光がきれいな場所を選んだグループの作品です。彼らは「光を纏いたい」ということで、帽子から光が透けて、服に映ったところをデザインしました。


 私の意図としては、「洋服=着飾るもの」ではなく、新しい空間として捉えてみることで、今までとは違ったものの見方をしてほしいとの思いから、この課題を設定しています。グループ作業だったので、学生たちもかなり盛り上がって取り組んでいましたね。

 そして最後の課題では、「都市の隠れ家」という大きなテーマを与えています。最初の2つの課題は割と体験型でしたが、最後の課題は応用編である「関係づけるⅡ」に当てはまるので、実際に存在する場所に、あるクライアントを想定して、何かデザインツールを提案するという実践的な課題に取り組んでもらいます。具体的に設定した都市は、本学のある蒲田周辺です。想定するクライアントは、私の方でクライアントシートという詳しい履歴書をつくって設定し、もし蒲田にそういう人がいたら、どういうものを欲しいと思うかということを学生に考えてもらい、提案してもらいます。

 この課題は3段階に分かれていて、まずはフィールドワークとして学生に蒲田の街へ出てもらい、蒲田の面白いところや特徴、改善したらよいと思うことなどを調査してきてもらいます。その際、言葉ではなくビジュアルで見せたり説明したりできるよう、必ず写真を撮影してきてもらいます。ちなみに今回の課題では、100枚以上の写真を撮影してくることを条件にしていました。

次の段階としては、グループに分かれて、各人が持ち寄った蒲田の街の写真や意見をあわせて、学生たちが見つけてきた蒲田の特徴を地図に抽出していきました。例えば、蒲田の駅前は繁華街ですが、あるところを境に住宅街に変わっていくことから、その境界線を調べて地図化したグループがあったり、猫が多い地域だけど、昼間よりも夜によく見かけるという発見から、同じ場所でも昼と夜では街の性格が違うということで、蒲田の1日の変化を地図にしたチームもあったりしましたね。

 そして3段階目では、地図に抽出した特徴を持つ蒲田に、私が最初に設定したクライアントが来たとき、どんなことがその人に必要になるかを、「都市の隠れ家」をテーマに学生一人ひとりに考えてもらいます。“隠れ家”と聞くと、最初に発想するのは場所だと思いますが、必ずしもそうとは限りません。例えば、今や携帯電話やスマートフォンは生活に欠かせないものですが、どこに行っても繋がる分、逆にそれから隠れられないと考えることもできます。そうすると街の中で電波のつながらない環境は、その人にとって隠れ家のひとつとなり得ますよね。ですから場所に限定せず、設定したクライアントが欲する環境や空間を成立させるための道具を考えましょうということで、進めていきました。

 学生の作品としては、例えば蒲田駅の西口広場の下にシェルターのようなリラックスできる隠れた空間を提案したものがありました。また戦後、焼け野原の中から街が形成されてきた蒲田には、計画的に整備されていない、いわば街の余白みたいな場所がいまだに多く残されていることを発見した学生は、それをかくれんぼができる空間として捉え、街路の新しいデザインパターンを提案しました。それから面白い提案としては、蒲田の街は色が雑多で、街の景観として色づかいまではデザインされていないという発見から、視界を遮ることで雑多な蒲田から隠れるウェアラブルの装置をつくった学生がいました。水の中をイメージさせるものということで、視覚的には水中の光のようなきれいな色が目の前に広がるように見え、耳は音がこもって水中みたいに感じられるヘッドパーツのようなものになっています。身につけるものとして提案したところがユニークでしたね。

 また、最後は学生に自身の作品についてプレゼンテーションをしてもらうのですが、これが想像以上に盛り上がり、みんな持ち時間を越えて発言するほど積極的で驚かされました。さらに、自分以外の学生の作品に対する批評もなかなか鋭く、自分なりの意見を言えるようになっていたので、この半年間で大きく成長した姿が見受けられて嬉しかったですね。

■最後に、今後の展望をお聞かせください。

 私自身の研究は、“直感的な空間づくり”ということで、小学生や幼稚園生と一緒に作品をつくり続けています。この秋からの新しい取り組みで言えば、横浜にある横浜山手中華学校の小学5年生の生徒たちと2年をかけて、みんなが実現したい学校の中の空間をつくっていくこうと計画しています。

 また、今、一番してみたいことは、本学部の学生と一緒にプロジェクトを立ち上げることです。デザイン学部は創設5年目を迎え、私自身、ようやく学生と一緒に研究を進める準備が整ってきたように感じています。ですから授業の課題を通した付き合いだけでなく、大学の外に飛び出して、一緒に学外の活動に取り組んでいくことで、今以上に学生との関係を広げていけたらと考えています。私の学生時代の経験としても、課題を通しての学びと、先生の実際の仕事に参加することで学んだこととでは、得るものに大きな違いがあったように思うので、学生にもそういう経験をしてもらいたいんです。ですから今度の横浜山手中華学校のプロジェクトが、そのひとつになれば良いなと思っています。

・次回は10月9日に配信予定です。