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ナノ材料集積化技術による高性能ニオイセンサをスマートフォンに搭載して、病気の早期発見を実現したい!

2015年2月13日掲出

工学部 電気電子工学科 木村 康男 教授

 子どもの頃からものづくりが好きで、小学生時代から一石ラジオやインターフォンをつくるなど、電気電子工学分野に興味を持っていたという木村先生。現在は、有機材料やナノ材料を使った新しいデバイス開発を中心に研究されています。今回は、具体的な研究内容についてお話しいただきました。

■先生は、どのような研究に取り組んでいるのですか?


ニオイセンサ搭載スマートフォンで日常健康診断

 簡単に言うと、ナノ材料や有機材料、あるいはそれらを混ぜた複合材料で新しい材料を開発して、新規機能を持つ電子デバイスを開発しようと研究しています。そのなかでも特に力を入れて研究しているのが、「ニオイセンサ」です。今、みなさんがお使いのスマートフォンの中には、いろいろな機能が入っていますよね。電話の機能はもちろん、音楽プレイヤー、ゲーム、テレビも入っています。では、さらに何か機能を足せるのであれば、どんな機能を入れたいと思いますか?現時点で必要だと思う機能は、ある程度入っているので、なかなか思いつかないかもしれませんね。

 私はというと、「犬の機能」があれば良いのではないかと思っています。犬の嗅覚は非常に優れていて、人の1億倍もあると言われます。実際、その能力を活かして、警察犬や麻薬探知犬などが活躍していますよね。また、もっと身近なところでは、飼い主のニオイの変化がわかる犬もいるそうです。飼い主本人は、病気に気づいていないのだけど、妙に犬が吠えるので、病院に行ってみると癌だったという話もあるようです。これは単なる偶然だったのかもしれませんが、犬くらいの嗅覚があれば、病気によるニオイがわかるのかもしれません。実際に人が病気の時、どういうガスが発生しているかは、近年、明らかになりつつあります。たとえば糖尿病の人は、口臭にアセトンというガスが多く含まれているということがわかっています。

 私は、そうした体調や病気によるニオイの変化がわかる高感度のセンサをナノ材料でつくって、スマートフォンの機能に加えたいと考えているんです。常に持ち歩くスマートフォンなら、持ち主のニオイをずっとモニタリングできますし、何か変化があって病気の可能性があるニオイが出始めたときに教えてくれたら、自分ではわからなかった体調の微妙な変化に気づくことができます。それがもし癌のような生死にかかわる病気であれば、早期発見にも繋がるはずです。


実際の作製したマイクロガスセンサの写真
(見えませんが、中心部分に7つあります)

■具体的に「ニオイセンサ」の開発には、どんな課題があるのですか?

 課題はたくさんあります。まず、スマートフォンにセンサを入れるには、それ自体を非常に小さくしなければなりません。今、ガス警報器などで実用化されているガスセンサはミリメートル、センチメートルサイズと電気電子分野からすれば、大きいものです。また、呼気に含まれるさまざまなガス成分を検知するには、複数のセンサが必要になるので、一つ一つのセンサを小さくなければ、スマートフォンには入りません。ですから小さくて高感度でいて、それぞれ種類の異なるセンサをつくるにはどうすればよいかという課題があるわけです。それを解決しようと、この研究室では多孔質材料という穴がボコボコあいている材料とフォトリソグラフィという半導体加工技術を用いて、1枚のチップに複数のセンサをのせたワンチップニオイセンサの開発に取り組んでいます。ワンチップ化することで、センサの消費電力を抑制することもできるのです。現状、数ミクロンという髪の毛の太さの十分の1程度のセンサの開発に成功していて、今はガスの成分を正しく検知できているかどうかを評価しているところです。

■他には、どういった研究をされていますか?

 ひとつは、有機材料の太陽電池への応用に取り組んでいます。有機材料は、製造コストが低く、高機能という利点があるのですが、電子の輸送効率が低いので、有機材料による高効率な太陽電池を実現することは困難とされています。そこで有機材料と無機材料をうまく組み合わせた“ハイブリッドナノ構造体”を開発し、それによって高効率なハイブリッド太陽電池をつくろうと取り組んでいるところです。また、たくさん電流が流せる有機トランジスタの開発研究も行っています。

 そのほか、半導体加工技術を創薬に活用しようと、他大学の医工学分野の先生方と共同で取り組んでいる研究もあります。細胞には、カリウムイオンやナトリウムイオンなどのイオンを出し入れする専用チャネルが存在します。その中に、ハーグ(hERG)チャネルというカリウムイオンチャネルがあります。それが機能しなくなると、心臓は止まってしまいます。そのため、新薬を開発するときは、そのハーグチャネルに副作用を及ぼさないことを確認することが安全性薬理試験ガイドラインで義務づけられているのです。そのチェックを効率的に行う技術として半導体加工技術を活かせるということで、技術提供をしています。

■研究の面白さとは、どのようなところにあると思われますか?

 “新しい”ことに挑戦しているということですね。研究は、それまで誰もしていない、まだ何もないところを進むわけです。もちろん関連する研究例はありますが、自分が研究テーマにする部分は、まだ誰も手をつけていない、誰も知らないことです。ですから面白くもあり、辛くもあります。それは研究だけに限らず、企業などでも同じでしょう。前例として似たような技術や商品があっても、新しいものは切り口が違うはずです。また工学は、既存の技術と技術を合わせて、新しい技術を生み出すことができる分野です。その“合わせる”という部分からして、新しい技術になります。そういうところが、工学分野の研究の面白さだと思いますね。

■では教員として、電気電子工学科の学生をどんなふうに育てたいとお考えですか?

 自分で問題を発見でき、それを解決できる力を伸ばせるように指導していきたいと思っています。受験勉強には、答えがあったし、言ってしまえば、すべて暗記できるものでした。ですが大学の学びは、そうではありません。高校までは、すでに明らかになっていることを学ぶという感じですが、大学の工学部では、その知識をどう使って新しいものを創り出すかということ考えていきます。たとえば、「○ボルトの電池をつないで、△くらいの抵抗があったら、電流はどのくらい流れていますか?」というのが受験で問われることならば、大学では「電流をこのくらい流したいのだけど、どうしたら実現できるか」という考え方をします。先に実現したいことがある、つまり問題を自分でつくって、それを自分で解決していかなければならないのです。実は、多くの場合、問題発見で問題解決のほとんどは終わっています。この能力は、受験の成績とは関係ありません。ですから大学で、一からスタートを切るつもりで学び方や問題発見・解決能力を磨いていってほしいと思います。それが本学の掲げる“実学”ですからね。

 また、これからの電気電子工学や工学全般の分野は、学問分野にとらわれない、ジャンルを越えた研究がどんどん進められていきます。大学は、一応、学部や学科で区切られていますが、自分は機械工学科だから電気はいらないとか、電気電子工学科に進んだから生物はいらないという時代では、もはやありません。ひとつの分野の中で収まる技術は、すでに十分に発達していて、そのような技術でできるものは世界中どこでもつくれるようになっています。ですから、日本はもっと違う新しいことに挑戦していかなければならないのです。たとえば、全く異なる技術と技術を混ぜ合わせたり、違う分野同士を組み合わせたり。そういうことは非常に難しいことですが、そこを日本が担っていくべきですし、そこに新しさや面白さがあるのだと思います。

 そういう意味では、大学の中には何かしら新しいことに取り組んでいる研究がたくさんありますから、学生はそれとの出合いを楽しみにしてほしいですね。

■最後に今後の展望をお聞かせください。

 先ほど、半導体加工技術を創薬に活かす共同研究の話をしましたが、これは、エレクトロニクスの技術を生物分野に提供している形の研究だと言えます。私としては、それを逆にしてみたい。つまり生物の何か、それは行動でも生体でも何でもよいのですが、生物側の何かをデバイスの材料としてエレクトロニクスの分野に応用したいと考えています。今のところ、まだエレクトロニクス分野から生物分野への一方通行ですが、両方の技術が行き来し合うことが叶えば、どちらの分野もより発展するのではないかと思います。

 また、本学の工学部は“サステイナブル工学”を軸に据えているわけですが、私が考えるサステイナブルとは、おじいさん、おばあさん、お父さん、お母さん、子ども、ペット、この3世代の家族写真をずっと撮り続けられることだと思っています。そのためには、エネルギーも必要ですし、医療も必要、心安らかに暮らせることも大切です。そういうものに関わる技術を、今後も研究していきたいと思っています。

 そもそも工学は人類を幸せにし、“ものづくり”を通して社会に貢献する学問です。そういうことを学びや研究を通して、学生に伝えていきたいですね。

・次回は3月8日に配信予定です。