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コンピュータをもっともっと「楽しいこと」のために使っていきたい!

2016年11月11日掲出

メディア学部 羽田久一 准教授

メディア学部 羽田久一 准教授

コンピュータのプログラムと自然の偶発性を組み合わせた新しい表現方法の創出にチャレンジしている羽田先生。研究室で学生たちと一緒に行っているプロジェクトのお話を中心に、新しい形のメディアアートとその可能性についてお聞きしました。

■先生の研究室ではどのような研究をされているのでしょう。

 一般的にメディアアートというとコンピュータを使って表現をし、そこですべてが完結するものでした。そのため複製が可能で、何回やっても、誰がやっても同じ体験ができる。これを再現性といい、メディアアートの大きな魅力であり特徴です。一方で人間が描いた絵は、仮にそれを完璧に模写したとしても本物とまったく同一のものにはなりません。人間は機械ではないので、そこに偶発的な要素が関わってくるからです。
 ではコンピュータに自然の偶発性を組み合わせるとどうなるでしょうか。我々の研究室の大きなテーマのひとつが、このように自然のふるまいをデジタル技術で強化することによる新しい表現方法の創造です。
 たとえばコンピュータにプログラミングをして決まった形の図形を描かせれば、何度でも同じ絵が再現できます。ところがそれと同じプログラムでロウソクを動かして、その煤で絵を描いてみると、炎の揺れが影響して毎回微妙に違う絵が描きあがるのです。本来、100回やれば同じ結果が出るはずなのに、絶対同じにならず、連番で番号をふることができる。それは悪く言えばズレですが、反対にそのズレによって作品性が強化されているともいえます。そしてなによりそこに面白さがあります。我々が行ったこのプロジェクト「Sootoid」は、人間の作った機械と自然の偶然を足したもの。そういう仕掛けのある作品です。
 また、別のプロジェクト「FlowLight」は、2本の糸で操作する競技用の凧にLED ライトを取り付けて揚げ、その光を長時間露光で撮影するというもの。ドローンなどと違って凧なので、動きは風の流れに左右されます。いわば人と風の操作の融合ですね。その動きによって、さまざまな光の軌跡が描き出されるのです。これは1年ほど前に横浜のスマートイルミネーションというイベントに出して、撮影を行いました。

■これらは純粋に「アート作品」として作っているのでしょうか?

 最終的には、そのシステムをどう作っていくかということが大切です。ロウソクを動かすための装置や、光る凧をうまく撮影する装置もすべて自分たちで作っています。アイデア自体もできあがった作品も面白いのですが、なによりそれを動かすための仕掛けやプログラムを自分たちで作り上げて、学会やイベントなどで発表できたということが重要です。
 たとえば今は凧につけたLEDを地上からスマホなどで色を変化させるための仕組み作りに取り組んでいますが、それによってさらに写真の作品性があがるかもしれません。あるいはもっと凧揚げが上手い人と組んでなにかができれば、もっと面白い写真が撮れるでしょう。また、こうしたスポーツカイトの競技会では、決められた図形をなぞって飛ばす規定競技や音楽に合わせて技を披露するバレエなどの競技があります。そこで、ディスプレイを見ながら凧が飛ばせるようにすれば、軌道をはっきり見ながら動きを調整できて、練習に使えるかもしれません。
 また新しいプロジェクトとして、あやとりの糸に蛍光塗料を塗り、紫外線だけを出す青いLEDで照らして糸を光らせるというパフォーマンスをまもなく学会で展示する予定です。これはLEDの側に加速度センサーをつけて、手が止まったときだけ糸を光らせるという工夫がしてあります。そうすると暗闇にぱっ、ぱっと形ができたものが浮かび上がるわけですね。これもパフォーマンス自体より、それを上手く見せられるシステム作りが大切です。
 このように、我々の本来の目的は新しい表現を可能にするツールを作ること。いってみれば絵を描いているのではなく、新しい画材を作っているようなものなのです。

■先生はどうしてこの分野に興味を持たれたのですか?

 大学院で研究室を選ぶ際、最初はオペレーティングシステムを研究しようと思っていたのですが、たまたまその先生が来年までいないと言われ、次に興味を持ったのがインターネットの研究室でした。それが93年で、当時はインターネット黎明期。そこで先輩に「これからWebっていうのが流行り出しそうだからやってみないか」と誘われ、その年のクリスマスに研究室のWebサイトを公開したのですが、当時まだ日本にWebサイトは少ししかなく、私たちのサイトが日本で10番目くらい、西日本では初のサイトだったのです。あの頃は日本中のWebサイトを1日1時間あればすべて見ることができました。毎朝、大学へ行くとまず日本中のサイトをチェックして、NTTは変わったかな、早稲田はどうかなというように更新パトロールしていましたね。それが30分ほどでできてしまった時代です。
 その後、インターネットのシステムを作る人はたくさん出てきましたが、私はむしろインターネットを「どう使うか」を考える方に興味がありました。そもそも使う人がいなければネットワークって作っても仕方ない。そして使い方が新しくなると、ネットワークも大きく変化します。そこで「インターネットをどう使えばいいのか」ということを研究するようになり、学位論文をまとめる頃に私がテーマにしていたのは「画面の外のインターネット」。当時はまだGPSの精度が悪かったため、インターネットを使って高い精度で位置を確認するための研究や、電子図書館のシステム作りなどに取り組んでいました。その後、Auto-IDラボという研究組織の日本支部で、電子タグなどの自動認識技術の研究開発を手がけてきました。いまでいうIoTの元になるような研究を20年くらいやってきたというわけです。
 研究室では学生のやりたいことや興味のあることを聞いているうちに研究内容も変わってきましたが、先ほどの「FlowLight」などもある意味IoTといえるでしょう。そういう意味では、今後、とても面白い方向へ進んでいくと思います。

■今後の展望についてお聞かせください。

 最近、いろんな人と話をしていてわかってきたのが、今は「楽しいことがお金になる時代」だということです。たとえば『君の名は。』という映画1本で百何十億円も稼げる。楽しいというだけで、それだけお金が回るわけです。面白いだけでも産業になる。だとすれば、コンピュータももっと「楽しい」ことのために使っていければいいのではないか。そしてメディア学部というのは、そういうところをもっと追求していける学部なのではないかと思っています。
 30年ほど前のゲーム業界は小さいものでしたが、いまはもう世界的な一大産業です。それを考えると、これからもまだまだ「エンターテインメントとコンピュータ」という分野は広がっていくでしょう。音楽業界でCDは売れないと言われていますが、全国各地で開催されている音楽フェスにはすごく人が集まりますよね。何万人もの人が何万円も払って参加している。そういう場でのステージ上のパフォーマンスをコンピュータがサポートして、もっと面白くすることができるかもしれない。そういう分野は今後ますます広がっていくと思います。メディア学部で学べるCGや、我々がやっているメディアアートなどと実社会、あるいは産業そのものが少しずつ結びつきつつある。それがメディア学部の一番面白いところだと思いますし、学生たちにはそういう意識をもっと持って欲しいですね。

■最後に学生へのメッセージをお願いします。

 私が常々、高校と大学で教える順番が逆ならばいいのにと思っているのが、行列計算とCGの話です。現在のCGというのは3Dで描くわけですが、そこでキャラクターや物がリアルに動くためには行列の計算とベクトルの計算ができないといけません。だから、行列ってなんのためにあるの?ということがCGを学び始めるとよくわかるようになるんです。
 ところが高校の数学って、純粋に数字として行列計算を教えてしまうんですよね。本当は、行列計算は何のためにするのかを先に教えたほうがいい。CGのキャラクターを自然に動かすためには様々な動きを計算しなければいけなくて、それをひとつひとつ計算していると大変だから、全部まとめて楽に計算するために行列計算がある。行列は計算を面倒臭くするためにあるんじゃなくて、簡単にするためにあるんだよと、そういうことをまず伝えてから勉強しないと、自分が何をやっているのかわからないですよね。ちなみに最初に紹介したロウソクの絵も、あれは単純な三角関数です。ですから高校では、一見、実生活で使うことのなさそうな計算式にもちゃんと使い道がある、ということをまず伝えて欲しい。そして高校生の皆さんには、今、つまらないなとか、何のためにしているのかなと思っている勉強にも、後で役に立つことはたくさんあるんですよということを覚えておいて欲しいです。

■メディア学部WEB:
https://www.teu.ac.jp/gakubu/media/index.html

・次回は12月9日に配信予定です。