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ICTやデジタルコンテンツを活用した、21世紀型の新たな教育システムを開拓したい!

2016年2月12日掲出

メディア学部 飯沼瑞穂 准教授

ここ数年の「知識社会におけるテクノロジーを活用した学習と教授法」に関する研究成果をまとめた英文の書籍“Learning and Teaching with Technology in the Knowledge Society: New Literacy, Collaboration and Digital Content”を、ドイツに本社を置く国際学術出版社であるシュプリンガー社から出版することになった飯沼先生。今回は本書の内容と出版の経緯、そして本にも収められている本学での授業内容などについてお話をうかがいました。

■まずは簡単に本の内容を教えてください。

 私の専門分野は「教育工学」と「国際教育開発」という2つの分野にまたがっていますが、その両方の分野において、ICT(Information and Communication Technology)の発展と普及による影響はとても大きなものです。グローバル化する教育のなかでICTの教育現場への導入は進み、ユネスコが「世界のどの国で生まれた子どもたちも情報リテラシーを身につけることができる教育制度を整えるべきである」と唱えるなど、「教育工学」の分野においてICTを教育現場でいかに活用するかということは今後の大きなテーマです。

 一方、「国際教育開発」においても、ICTとそれに関わる新たなリテラシーの持つ意味を考えることは、とても重要な課題です。初等教育の普及が整っていない国や第三国といわれる貧しい国では、今でもきちんと学校へ通えず読み書きができないまま大人になってしまう子どもが多くいます。そしてICTが教育に導入されたことによって、彼らは文字の読み書きに加えてコンピュータの操作や情報をどう読み取るかという能力においても遅れをとってしまうのです。そこではリテラシーというものが、これまで以上に拡張された意味を持つようになり、さまざまな国でこれまで以上に教育の格差が大きくなっているのです。

 こうした背景をふまえ、本書ではリテラシーに関連する歴史的な変遷や知識社会において重要視されている学習理論について、さまざまな実践結果や事例を基に論じています。また、講義ビデオ録画システム、反転授業、ICTを活用した協調学習や3Dを活用した教育など、実際にメディア学部で行った教育事例や実験結果もとりあげています。

 本書のサブタイトルが「新しいリテラシー、コラボレーションとデジタルコンテンツ」とあるように、新しいリテラシーというものがなんなのか。また新しいリテラシーを使った協調学習(コラボラティブラーニング)にはどのようなことができるのか。さらに知識社会での識字教育のなかでは何らかの形で必要となってくるデジタルコンテンツにおけるリテラシーの意味などに関しても触れています。今後、コンピュータを使った教育の重要性はますます高まっていくでしょう。しかし現在の日本において、たとえば小学校などでは先生の側がまだコンピュータを使いこなせていなかったり、単に教材をデジタル化しただけという状況も多いようです。ICTをどのように教育に活かしていくのかはまだまだ大きな課題だと思います。本書にはデジタルコンテンツをどのように従来のリテラシーとあわせて使っていけばいいかということや、協調学習をするときにICTをどのように活かせばよりよい学習結果につながるのか、というような先生方に対するレコメンデーションも書いてあります。

■どのような経緯で出版に至ったのでしょうか。

 私は教育学が専門ですが、メディア学部の工学系の先生方と一緒にいろいろな実験をさせていただき、その結果を国際学会や査読論文として発表していました。そうした学会のひとつで、ICEM(International Council of Educational Media)という教育メディアをどのように活用するかをテーマにした組織が2013年9月にシンガポールで国際学会を開催。私もそこで論文を発表することになっていたのですが、その前にシュプリンガー社の編集者から私に直接メールが入り、「いままで発表してきた論文をまとめて本として出版しませんか?」という打診があったんです。そこでシンガポールでの学会発表の際に、その編集の方に過去の論文を見てもらって、出版の話がまとまりました。

 私もこういう国際的な書籍をまとめる経験は初めてだったのですが、実は出版に至る前に審査が入るんです。まずはプロポーザルという企画書のようなものと、本の一章分を書いて提出し、それを3人の専門家が読んで3人中2人がOKだったら本になるというシステム。私は2人からOKをもらったのでギリギリだったんですが(笑)。ともあれ、そこでいろいろなフィードバックをもらい、それに沿って新しい事例を調べて、いままで発表してきた論文にそれらを付け加えて本としてまとめて出版したという形です。

■本学で行われた授業の例としては、どのようなものが紹介されているのでしょう?

 たとえば3年前期の専門科目「ソーシャル・コンテンツ・デザイン」という3Dを活用した授業です。とても人気の授業で400人近くが受講しているのですが、マイクロソフト・シェアポイントというウェブブラウザをベースにしてコラボレーションやドキュメント管理が行えるアプリケーションを活用し、400人を5人ずつのグループに分けてグループワークをしています。内容としては、グループごとに好きな世界遺産を選び、それに関してネット上でいろいろな情報を収集して実際にその世界遺産の3D映像とWebページに載せられるような情報を資料としてまとめるというもの。google earth上にはいろいろな情報が載っていますし、さらにインターネットサーチで詳細な写真や建築物でしたら設計図などが見つけられます。そうしたデータを元に簡単な3D映像を作り、同時にその世界遺産に関する情報もまとめて、最終的には「3D映像」「画像」「その遺産のデータを含む紹介文」などが載っているWebページのようなものをグループでつくり上げてもらいます。

 授業を通して3D映像の作り方だけではなく、情報の集め方、グループワークの進め方、データを文章にどのように取り入れるのか、そして最終的にひとつのコンテンツを作りあげる手法といったものを同時に学ぶ。いわば「新たなリテラシーが身につく授業」であり、世界中を見てもこれだけ大きな規模でやっているところはまだないと思います。

 他には、大学院の授業における講義録画システムを使った反転授業なども紹介しています。反転授業(Flipped Classroom)というのは授業の前に各自が事前学習をしておき、実際の授業では講義ではなくすでに理解した内容に関してディスカッションを行う授業方法のことです。たとえば英語の論文を読む授業では、通常は講義の中で専門用語の解説やどこに気をつけて読むべきかという説明を行います。しかし事前にその講義内容を教材として録画し、学生にはそれを見ながら事前学習として論文を読んできてもらう。そうすると講義の時間にはかなり深いディスカッションを行うことができます。また、いきなり英語の論文を読んできなさいといわれると難しいですが、教員が実際に論文に線を引いたりしながらポイントを説明する映像を見てから読むと、かなりとっつきやすいようで、この授業は学生たちにも好評です。映像なので繰り返し見ることもできますし、スマートフォンで通学中などのすきま時間に見られるのも効果のある点です。

 メディア学部で私と共同研究してくださっている千代倉教授が本学で開発した講義録画システムPVCTを使うと、講義をしている教員の映像と解説用にPCに出力された資料が瞬時に合成されて、そのままコンテンツが作成できます。これは日本で一番シェアが高い講義録画システムとして商品化もされていますが、現在ではさらにバージョンアップしていてスマートフォンでも録画できるのです。これまでは教材用の映像を作ること自体がとても面倒だったんですが、これによって格段に楽になりました。これもまたテクノロジーの進化が教育に与える影響の一例ですね。

■最後に今後の展望をお聞かせください。

 高校生の皆さんに知ってほしいのは、研究者というのは机上でいろいろな理論を組み立てて、そこで終わりであるべきではないということです。私は、研究者というのは最終的に研究したことを社会に還元していくことこそが重要だと思います。特に教育のような分野では、まずは実践し、そこからフィードバックをもらって研究をよりよい内容にしていくという実証実験が大切です。

 我々もメディア学部において、新しいリテラシーとはなんなのか。ICTと協調学習との関係性はどうなっていくのか。また、デジタルコンテンツをどのように使えばより新しい教育ができるのか。そうした21世紀型の新たな教育にあたっての「HOW」の部分を、過去数年にわたって実践、実証実験してきました。「ICTを使った学生中心のアクティブ・ラーニングを推し進める」というのは本学の理念でもありますが、メディア学部では実際に最先端の実証実験に基づいて開発されたカリキュラムが取り入れられていますので、学生の皆さんにはぜひ、それを自分で体験してみてほしいと思っています。

■メディア学部WEB:
https://www.teu.ac.jp/gakubu/media/index.html

・次回は3月11日に配信予定です。