トピックス

Topics

東京工科大学 HOME> トピックス> 2013年のトピックス> “美人”の基準を変えるかもしれない「シンデレラ・テクノロジー」が面白い!

“美人”の基準を変えるかもしれない「シンデレラ・テクノロジー」が面白い!

2013年2月8日掲出

メディア学部 久保 友香 講師

メディア学部 久保 友香 講師

浮世絵や美人画に描かれた美人たちのデフォルメされた表現を数値解析するなど、日本の伝統文化を工学的な切り口で研究してきた久保先生。現在は、日本における若い女性たちの“美”とテクノロジーの関係について研究されています。今回は、その研究の詳細についてお話しいただきました。

■先生は、どのような研究に取り組んでいるのですか?

 女性には誰しも、かわいくなりたいという希望があって、できることなら多くの人から注目されるスターになりたいという願望が、少なからずあるのではないかと思います。そういう美しくなりたい女性の願いや夢を叶えるテクノロジーを「シンデレラ・テクノロジー」と名付けて、研究しています。童話のシンデレラは、魔法で美しくなる夢を叶えましたよね?今の日本では、それを「魔法」でなく「技術」で叶えようとする動きが盛んです。私としては、そういう“技術”が、美人の基準を変えるのではないかというところに興味を持って、研究しています。
 例えば、今、女子高生を中心とした若い女の子たちの間では、プリントシール機(以下プリクラ)などに搭載された画像処理技術で変身してきれいになり、注目を集めるということが起きているんですね。プリクラは、ご存知のようにゲームセンターにあり、きれいになるといっても、シールの写真の上できれいになるだけですから、単なる遊びのように思えます。しかし、最近は単純にそうとも言い切れない面があるのです。そこでプリクラメーカーへのヒアリングを通して、プリクラの歴史や技術革新について整理し、さらに女子高生たちのバーチャルな美に対する捉え方や彼女たちの行動について調査・考察を行っています。
 プリクラは1995年に登場し、当初は普通に写真を撮って、記念に残すという形で使われていました。そこから現在に至る17年の間に、かなりの進化を遂げています。1998年頃から画像処理で肌全体をきれい写せるようになり、2003年には顔認識機能が導入され、被写体の目を認識して大きくすることができるようになりました。ただしこの時点では、画像処理が施されていることは、前面には出てきていませんでした。ところが2007年、明らかに目が大きく写る機械が登場したことで変化が起きます。それまでのプリクラでは、目を縦方向にしか拡大していなかったのですが、新しい機械では横方向にも拡大することができ、かわいく写ると評判になったんです。そこから発展が加速し、目が大きく写る度合いは、2009年にピークを迎えます。この時点では、さすがに目が大きく写り過ぎていて、もはや本来の自分の顔とは違うものになっています。これには賛否あり、結果、目のサイズを選択できる機械が登場しました。また2011年には、目を大きくするだけでなく、鼻の彫りも深くするなど、バランスをとることで不自然さを解決する機械が登場し、今もその流れが続いています。このように機械を使えば、バーチャルの世界ですが、誰でもきれいになれる、理想とする美しい顔になれると、若い女の子たちは夢中になっているんです。そして、こうした「バーチャル」での夢の実現が、「リアル」の世界にも影響を与え始めているというのが、今の新しい動きなのです。

シンデレラ・テクノロジーイメージ(1)

■リアルの世界には、どういった影響が出てきているのでしょうか?

 例えば、今や女子高生のほぼ100%がブログを書いているといわれています。そのプロフィールに掲載する写真の多くがプリクラでつくった、実際よりもきれいな顔の写真です。このプロフィール写真は彼女たちの間で非常に重視されていて、きれいにつくったもう一人の自分という、まさに“アバター”としての役割を果たし、「アバター」は「オリジナル」から独立して活躍することが起きています。例えば、昨年の夏には、プリクラで作ったプロフィール写真からスターを選ぶオーディションが開催され、26万人もの応募がありました。ゲームセンターでの投票やインターネット投票を経て、最終選考に残った女の子の中には、実際に芸能事務所と契約した人もいます。そこまで行かずとも、バーチャルできれいになることで、リアルのオーディションに参加するという夢の実現はできたわけです。そういう意味では、誰もがスターになるチャンスを手に入れていると言えます。また、彼女たちは自分がきれいになるためのお手本を求めているため、手の届かない美人には興味がありません。ですから、プリクラやスマートフォンのカメラを使った“自分撮り”を美しく撮れる人、大変身できるお化粧のテクニックを持っている人が、憧れや関心の対象となっています。「ナチュラル美人」より人工的な「アーティフィシャル美人」に注目が集まり、それをつくり上げる過程が重要視されています。その背景には、インターネットやSNSの強い影響があり、それによって「スターの大衆化」が起きていると考えられます。

シンデレラ・テクノロジーイメージ(2)

 また、最近は画像処理でつくった顔を、実際に自分の顔で再現することも可能になってきています。つけまつ毛や二重瞼のり、涙袋テープ、つけ八重歯など、私はそれらを“プラスティックコスメ”と呼んでいますが、そういうアイテムを顔や体につけることで、プリクラでつくった顔を自分の顔で再現していくのです。また、つけまつ毛などのメーカーなどでは、そうしたことに関心の高い、若い女の子たちを集めてグループインタビューを行い、商品開発につなげています。例えば、女の子たちは自分にピッタリのつけまつ毛を得るため、様々な種類のものを切って、つなげて、オリジナルのものを自作して使っています。それを受けて、メーカー側も1種類のつけまつ毛ではなく、複数種入った商品を発売するようになりました。こんなふうにメーカーが若い女の子たちの希望を情報として吸い上げて形にしたり、その逆もあったりと、双方向で情報の行き来があるのは面白いところです。また、プリクラに搭載する最先端の顔認識技術や、良いつけまつ毛用接着剤の材料開発をしているのは、エンジニアや研究者です。つまり「シンデレラ・テクノロジー」の根底には、日本の先端技術と、若い女の子たちの遊び心や「美人の基準を変える!」といわんばかりの反逆心めいたものから生まれるアイデアがあります。だからこそ、他国にはない独自の技術や文化となっているのだと思います。ただ、そういう技術者と“美しくなりたいきれい”を目指す若い女の子たちとは、なかなか接点ありません。そこを今以上に結びつけることができれば、さらに面白い、日本独自のものが誕生するかも知れません。その橋渡し役になりたいというのも、私の研究目的のひとつです。

シンデレラ・テクノロジーイメージ(3)

■先生がこの分野に興味を持った理由とは何だったのですか?

 もともと私は機械工学出身ですが、大学院からは写実的なものをデフォルメする方法についての研究をしていました。例えば、日本で1300年も続いている美人画に描かれたデフォルメ表現を、数字で解析するという研究。日本の美人画は、同時代の作品は、画家もモデルも異なるのに同じような顔をしていて、かなりデフォルメして描かれています。そこで美人画に描かれた美人の顔の比率などを測り、デフォルメの特徴を年代ごとに捉え、それをコンピュータで再現する手法を開発しました。「The Orikao Method」と名づけていていうのですが、方程式で導き出した角度で顔写真を折り紙のように折ると、各時代の美人画と同じ顔をつくることができるというものです。実際に、ユーザーの顔を、美人画と似た顔へと自動変換する装置も開発しました。そうした研究を手がけるうちに、近現代では、なぜ目が大きいことが美人となったのか、なぜ美人の基準がこれほど変わったのかというところに興味が湧きました。私は小さい頃から数学が好きで、それまでは、数値の解析で真理を得ることを追求していたのですが、、どうも“美人”ばかりは数値だけで解くことができず、今のように社会との関係を含めた研究を始めたんです。
 こうした研究で面白いと思うのは、「シンデレラ・テクノロジー」は、日本伝統のデフォルメ文化の延長線上にあるといえることです。メイクで目を強調し、プラスティックコスメを使ってできあがった若い女の子たちの顔は、どれも似ている、つまり均一化しています。それは浮世絵や美人画の顔が同じような描かれ方をしていた点と同様です。日本の美人文化の特徴のひとつには、人工的で均一的ということが挙げられると思います。これを逆説的に捉えれば、日本では美人の外見を重視していないということも考えられます。若い女の子たちは外見に一生懸命なように見えますが、実はそれは仮面をかぶる作業であって、それは逆に内面重視の表れなのではないかと感じています。

シンデレラ・テクノロジーイメージ(4)

シンデレラ・テクノロジーイメージ(5)

■最後に、今後の展望をお聞かせください。

 一つには、企業や若い女の子たちへのヒアリングや行動調査を発展させたいです。研究室の中には、男性の化粧に興味を持っている学生もいます。韓国のアイドルの影響らしいのですが、その辺のことも掘り下げてみたいですね。また、ウェディングに興味を持っている学生もいます。ウェディングは、まさに「シンデレラ・テクノロジー」が活かせる絶好の場ですから、そういう切り口で調査してみるのも面白そうです。調査や分析に加えて、実際にシンデレラ・テクノロジーの開発も手がけたいと思っています。例えば、等身大の自分撮り装置などはその一つです。プリクラのように、画像処理で実際よりも美しく変身もできるもの。面白いことに若い女の子たちに聞くと、美しくなった自分の姿だけでなく、太った姿も見て戒めにしたいそうです。そういう女の子たちの意見を取り入れながら、ものづくりを進めたいと思っています。また、デジタル技術を利用して、プラスティックコスメを自宅で簡単に自作できるようなシステムにも興味があります。
 「シンデレラ・テクノロジー」は日本独自のものですから、国内だけでなく海外も視野に入れた産業に十分なり得ると考えています。大きな展望としては、そういうことに研究成果で貢献できればうれしいですね。

■シンデレラ・テクノロジー
https://www.teu.ac.jp/info/lab/project/media/dep.html?id=62

■サイバーシネマ・テクノロジー
https://www.teu.ac.jp/info/lab/project/media/dep.html?id=66

■カルチャー・テクノロジー
https://www.teu.ac.jp/info/lab/project/media/dep.html?id=80

■メディア学部WEB
https://www.teu.ac.jp/gakubu/media/index.html

・次回は3月8日に配信予定です。