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これからの新しいメディア“デジタルサイネージ”の可能性を一緒に広げていこう!

2014年7月11日掲出

メディア学部 吉岡 英樹 講師

メディア学部 吉岡 英樹 講師

 音楽制作が専門の吉岡先生は、これまでアーティスト支援を行うプロジェクト「TUT MUSIC SUPPORT」などに取り組み、活躍されてきました。さらにここ数年は、そこから派生した新たなテーマである“デジタルサイネージ”の研究が盛り上がりを見せています。今回は、そのデジタルサイネージに関するプロジェクトについて伺いました。

過去の掲載はこちらから
第1回掲載
https://www.teu.ac.jp/interesting/011957.html
第2回掲載
https://www.teu.ac.jp/interesting/021642.html

デジタルサイネージの研究

■現在、取り組んでいる研究についてお聞かせください。

 ここ4年ほど、デジタルサイネージ(以下、DS)の研究に力を入れています。DSは、最近、駅構内やホームなどで見かけるようになってきている、主に広告がデジタル化されたものだと言えます。もっとわかりやすく言えば、“大きいスマートフォン”みたいなものです。マイクがあるので音声認識もできればタッチ操作もでき、本学で開発したものでは、非接触で学生証をかざすと、大学の必要な情報が見られるといったこともできるなど、いろいろなインタラクティブ機能があります。ですからスマートフォン(以下、スマホ)でできることは、だいたいできると思ってもらって構いません。

 ただ、今、私たちの身近にあるDSは、壁にかけられた動く広告というような使い方で、一方通行に発信しているものが多いですよね。実はそれが非常に問題になっています。大手企業の中には、DSにたくさんお金を費やしながら、そうした一方通行の発信をした結果、この分野から撤退しているところも少なくありません。しかし、海外ではもっといろいろな面白い使い方をしていますし、DSの可能性は広がっています。残念ながら、日本は海外と比較すると、この分野では3~4年遅れていると言われているんです。

 だからこそ、私たちは企業の方々と一緒になって、まずはDS分野に必要な新しい人材を育成するところから始めていこうと、プロジェクトに取り組んでいます。しかも、この分野はメディア学部が、これまで取り組んできたことを活かせる分野でもあります。メディア学部では、コンテンツ制作の授業でアニメや映像、音楽、ゲームの制作を教えていますし、それにプラスしてネットワークやアプリケーション開発、プログラミングも教えています。そしてDSには、これらすべてが必要なのです。ですから、メディ学部の学生には、非常にやりがいのある分野だと思いますね。

■では、具体的にどのようなことに取り組んでいますか?

 「ディジタルサイネージデザイン」というメディア専門演習では、本学の八王子キャンパスのコンビニ内に置いてある「Campus-i」というDSで流すことを前提にした、マナー広告を考えてもらっています。この授業では、前半に大谷義智先生がポスター広告をつくるという内容を教えているので、私が担当する後半では、そのポスター広告をDSで展開するには、どうしたらよいかということを考えていきます。DSは静止画と違って、先ほど言ったようなインタラクティブな要素が含まれますし、どういうキャンペーンに用いると効果的かといったことも考えなければなりません。そういうDSという新しいメディアでの、新しい広告の方法について、学生に考えてもらっています。

 また、今年6月中旬には、幕張で開催された「デジタルサイネージジャパン2014」に、DISEというDSのソフトウェアメーカーと本学とで、4回目となる共同出展を果たしました。本学からは「コンテンツ ビジネス イノベーション研究室」に所属する4年生とプロジェクト演習(「まちづくりメディア(デジタルサイネージ)」)の学生とが一緒になってシステムからコンテンツに至るまで企画・制作した、先ほども話に出た「Campus-i」を出展しました。「Campus-i」は、学内のコンビニに設置しているので、それを前提にいろいろなコンテンツや仕組みが考えられています。例えば、「Campus-i」に人が近づくとカメラで認識して、DS上に「タッチしてください」と表示し、前に置かれているタッチパネルへと誘導します。また、学内のDSに表示されるのは、基本的には学内情報ですが、DS上だけで情報を提供して完結させるのではなく、タッチパネル画面にQRコードを表示し、詳細はQRコードをスマホで読み取った先で展開するようにします。DSは、あくまでも気になる情報を見つける入口という位置づけで、詳しい情報は手持ちのスマホで見るという形を採っているのです。

 また、今回の目玉となる機能として、タッチパネル画面の下2つに「Book」と「Music」という項目をつくりました。例えば「Book」を選択すると、本学の先生方の著書が紹介され、著者本人が語るPVが流れるようになっています。そこでもタッチパネルに表示されたQRコードをスマホで読むと、ブックストアに行け、その場で本を注文できるようにしています。「Music」も同様にDSでミュージシャンのPVを流して、気に入ればスマホを使って購入できるようになっています。
そのほか、昨年の夏にDSを使った「デジタル物産展」の実証実験を行ったのですが、今年もそれを実施する予定です。

「デジタル物産展」の実証実験

■「デジタル物産展」の実証実験とは、どのようなものですか?

 これは農家などの生産者と消費者を直接、DSを使って繋ぐことができないかという試みで、昨年は生産者のインタビュー動画をDSで流して、消費者に直接、生産者の方の言葉を届けるということをしました。具体的には、新潟県は魚沼のNPO団体との協働で、魚沼のお米や豚肉、梅干し、おやきなどをDSで紹介し、それぞれウェブのショッピングサイトに誘導して、買ってもらうという仕組みです。また、ネットショッピングをしない高齢者を意識して、ボタンを押すとチラシが印刷され、その裏面はファックスの注文用紙になっているという提案もしてみました。その実証実験を、昨年8月の「八王子まつり」で、地元商店街の方の協力を得て、実施したのです。

 期間中、小学生から80歳くらいまでの方にDSに触れてもらい、アンケートをとったのですが、やはり高齢者は、なかなかタッチパネルに触れてくれませんでした。慣れていないこともありますし、おそらく汚れるのでテレビ画面に触れてはいけないと教わってきた世代なのだと思います。一方、小学生たちは、どんどん触ってくれました。この世代間のギャップをどうするかという点は、DSにおける大きな課題だと思います。その解決策として、例えばDISEのグループ会社が開発した、顔認識で年齢や性別までわかるマーケティングツールを利用して、年齢を認識し、世代に合わせたタッチパネルのデザインに表示を瞬時に変えるといったことができないかと考えています。高齢者の方には、すごくシンプルな銀行のATMに近いようなデザインを表示し、そうでない場合はデザイン性の高いものにするというようなことです。やはり、このプロジェクトの元々のコンセプトは、ネットショッピングをする世代だけでなく、しない方にもDSを通じた商品紹介や購入の仕組みを利用してもらうことですから、その目的を達成するには、まだまだ課題が多いと思います。また、生産者が消費者へ直接販売する試みは、すでにいろいろとなされてきてはいますが、まだ販路の確立はなされていません。DSの研究を通じて、そういうことのお手伝いができればうれしい限りです。

 それから、今年8月1~3日に開催予定の「八王子まつり」では、鉄道の駅から少し離れたところにある「道の駅八王子滝山」で販売されている地元の野菜を、イベント会場のひとつである八日町商店街の店頭に設置したDSで、注文できるようにしようと進めています。「道の駅」の今日のおすすめを、DSで表示できるようにしたいのですが、その作業が「道の駅」のスタッフの負担となるようでは続きませんから、例えばカメラの前に今日のおすすめを置くだけで、DSでその映像が見られるくらいのシンプルな仕組みにできないかと、学生と一緒に考えているところです。

楽を専門としている先生がDSの研究を始めたきっかけとは?

■音楽を専門としている先生がDSの研究を始めたきっかけとは何だったのですか?

 これまで「TUT MUSIC SUPPORT」というアーティストを支援する音楽プロジェクトに取り組んできました。そこから派生したのが、DSのプロジェクトです。昨今はCDの販売数が低迷し、音楽産業は非常に苦しい状況です。その打開策として、どうすれば新しいプロモーション方法や新しいメディアと音楽をマッチさせられるかということを考えるようになって。4年ほど前、「TUT MUSIC SUPPORT」では、メジャーデビュー前だったミュージシャンのダイスケくんを支援していたので、彼のPVを新しいメディアであるDSのコンテンツにする試みをしたんです。それを機に、DSのプロジェクトが少しずつ大きくなって、今に至っています。

 DSのプロジェクトで、私が一番意識しているのは、“地域”という部分です。ですから全国を対象にしているものをDSで流しても、あまり意味がないだろうと思っています。その場合は、テレビなどの大きなメディアを使う方が相性がよいでしょうから。逆にDSは、地域に密着したものと相性がよいと言えます。例えば、自宅周辺のおいしい店や新しい店の情報って、インターネットで検索してもなかなか出てこないことが多いですよね。それよりも町を歩いているほうが、新しい店を発見するなど、最新の情報が手に入りやすい。そういう地域の情報を、地域に設置されたDSで発信し、そこに住む人々で共有するというのが、ちょうど良い使い方だと思います。また、地域の高齢者でインターネットを使わない人は、かなりたくさんいらっしゃいます。そう考えると、インターネットも万能ではないわけです。その視点から、DSに何ができるのかということを、今、模索している段階です。

 また、DSに限らず、地域というコミュニティと情報とが、今後、どうなっていくのかということにも注目しています。例えば、八王子市ではC級グルメの“パンカツ”を広めようと、昨年10月に「日本パンカツ協会」というものが立ち上がりました。今、それがひとつのコンテンツとして、商店街や地域の人々をうまく繋いでいます。「日本パンカツ協会」の公認アイドルで、八王子のご当地アイドルでもある「8 princess」というグループがあるのですが、彼女たちの曲をDSで流したりfacebookで世界に発信したりということも行われていて、ローカルからローカル、そして世界へ向けた発信が進められています。そんなふうにパンカツというコンテンツを中心に地域を一体化させ、そこからさらに何かできるかという“まちづくり”や“コミュニティデザイン”の部分に、DSの活用も含めて、関わっていきたいと思っています。

■最後に今後の展望をお聞かせください。

 ひとつは、今日の話の中でDISEのグループ会社が開発した、カメラによる顔認識で年齢や性別までわかるマーケティングツールについて触れました。それをさっそく導入して、本学のDSのコンテンツがどういう人に見られているのかということを調べてみようと思っています。「デジタル物産展」などで実証実験し、その結果を分析して、今後のコンテンツ開発に活かしていくつもりです。

 また、これは予算と交渉が必要な話ではありますが、「Campus-i」と同じDSを八王子市の街中や商店街、観光案内所、さらには観光スポットである高尾山に置くといった展開を実現して、DSを普及させていくことに取り組めればと思っています。
それからコミュ二ティデザインという部分では、人間社会をよりよくするために、どういうツールを使えばよいかという視点で、人と人、人と地域をつなぐソーシャルビジネスを考えたいと思っています。社会貢献になり、尚かつビジネスになるものが何なのかを考えることは、私自身の研究課題でもあります。