センシング技術を使って安心・安全な社会を作っていきたい!
工学部 電気電子工学科 天野直紀 准教授
センサーを活用してさまざまなものを測る「センシング」技術を研究している天野先生。今回は沖縄の建設コンサルティング企業との共同研究を開始した安全監視システム構築に関するお話を中心に、センシング技術の可能性についてお聞きしました。
■先生の研究室ではどのような研究をされているのでしょう。
現在、私たちの身の回りにある機械のほとんどは、いろいろなことを「測って」います。たとえば電気ポットはお湯の温度を測って、沸騰したらスイッチを保温に切り替え、温度が下がったら再び加熱します。自動ドアや電車のドアなども、人の動きを検知した結果、人が近づいたら開けたり、何かが挟まっていたら閉めないといった動きをしています。「センシング」というのはこのように「センサーを使ってなにかを測る」こと。そして今の時代は「測る」=「センシング」が、あらゆるものに重要なキーワードとして関わっているのです。
近年、急速にIoTの普及が進んでいます。その理由のひとつは、技術の進歩によって半導体が非常に安くなり、小型で丈夫で消費電力も少ないセンサーが作れるようになったこと。それにより、さまざまなところにセンサーを設置するのが可能になりました。
実は20年ほど前から「ユビキタス」「センサーネットワーク」などという言葉で、同じような考え方が提示されていました。当時、今使われているようなセンシングの技術はすでに開発されていたのですが、センサー自体が大きくて値段も高かったため、なかなか普及しなかったのです。
もうひとつは通信網が整備されて繋がりやすく、回線利用料も安くなったこと。そのためセンサーで測定したデータのやりとりが簡単になりました。さらにコンピュータの処理能力も発達したため、集まったデータから意味のあるデータを取り出すことも可能になりました。
これまで理論的には可能でも、実践するにはコストなどの面で現実的ではなかった技術が、ようやく実用性を持ちはじめた。センサーを本格的に活用することがはじめて「できるようになった」のです。
私の研究室では、こうしたセンシング技術に関わる電気・電子回路や通信、データ処理などを研究の中核に据えています。「センシング技術活用研究室」という名前の通り、センシング技術を実社会に活用していけるような人材の育成を目指しています。
■沖縄の企業と新たに共同研究を始めたプロジェクトがあるそうですね。
小さくて安価なセンサーを使ったセンシング技術の活用法について考え始めたところ、まず思いついたのは気象異常や社会インフラの老朽化といった我々の生活の安心・安全に関わることに利用できないかということでした。近年、日本のあらゆる場所で道路や橋などの老朽化が問題になっています。けれど高度成長期やバブル時代のように、簡単に建替えたり補修工事をすることはできません。そのうえ対象の数が多すぎて、土木系の検査さえ数年に一度、外側から目視するだけという状況です。そういった問題をセンシング技術を活用して解決できないか。そんなことを考えていたタイミングで、沖縄の建設コンサルティング会社から同じような問題について相談を受け、一緒にやりましょうということで共同研究をスタートしました。
プロジェクトの具体的な内容は、崩落や倒壊などの危険がある斜面や崖、また島と島をつなぐ橋などのインフラにセンサーを設置し、その動きを常に測定できる広域の監視システムを構築するというものです。
例えば、沖縄には島と島をつなぐ橋がありますが、そこに立つ電柱は塩害と老朽化で傷んでしまいます。かといってそれを人間が一本一本確認するには大変な労力がかかり、現実的ではありません。そこで電柱にセンサーを設置し、傾きなどのデータを常時蓄積していけば、ピンポイントで危険性が確認できるのです。斜面や崖なども同様で、複数の場所にセンサーを設置してその動きを把握することで、崩落などの兆候を検知できます。また、このように時系列でとった長期間にわたるデータは、老朽具合や危険察知だけでなく将来の整備計画にも活用できます。データの急激な変化は緊急警報につなげ、時系列に沿ったデータは今後の整備に必要な統計情報として提供する。そういった活用法を考えています。
■具体的にはどのような技術を使うのでしょうか?
現状では加速度センサーを使ったものを想定しています。これはスマホにも組み込まれているもので、縦横斜めの方向に対してどれくらい動いたかが計測できるセンサーです。また重力加速度によってどちらが下かも判断できるので、傾きも測定できます。加速度センサーがあれば、振動も大きな変位もわかるため、それだけでどこまでできるかチャレンジしてみたいと思っています。たとえば橋だったら、定量的にデータを取っているため、振動の変化などから交通量も測ることができるでしょう。
そうやって蓄積されたデータは、何箇所かに設置した基地機を経由してサーバにアップしていきます。さらに集めたデータの分析も重要です。センサーもネットワーク機器なので単に設置すればいいというものではなく、その設定は実はかなり大変です。かといってこれらを実際に利用する建築会社の人たちはそちらの専門家ではないので、設定やデータ分析のハードルを低くできるようなシステム構築を目指しています。
沖縄でも最近は崖崩れなどが増えているので、この研究はできるだけ早く進めていきたいと思っています。まずは来年の梅雨の時期に現地での設置テストを実施する予定です。センサーは電池を使うものと太陽電池のものと2種類を作る計画なのですが、沖縄で太陽電池がもっとも機能しないのは梅雨の時期だろうということで、気象条件が一番厳しい時期に実際に現地へ行ってテストをしてみるつもりです。
■最後に学生へのメッセージをお願いします。
先述の沖縄での共同研究の設置テストには、研究室の学生たちも一緒に行ってもらいます。実際に崩れそうで周囲が不安に思っている崖や橋、倒れそうな電柱など、実際にニーズがある場所へ足を運び、自分の目でそれを見ることで、自分の研究が最終的にはここに貢献するんだ、ということが実感できる。それが実際に現地へ行くことのメリットです。研究室にいるだけではわからない、自分の研究の最終的な行先を自分の目で見ることは、研究者にとって重要なのです。
学生時代に自分自身が研究をしていた頃は、どうしても先に技術ありきで考えてしまい、研究内容を学会で発表しても「で、これをどうするの?」と聞かれ、それに答えられないことがしばしばありました。研究内容としては成立していても、実際にそれを何に使うのか、という部分が弱かった。いわば「研究のための研究」になってしまっていたんですね。自分自身のそうした経験への反省から、指導する立場になった現在では、まず「何をするのか?」を考えるように教えています。最初にアウトプットを想定して、そこに到達するための方法を考える。単にモノを作るだけではなく、それをどう使うかということまで含めて研究に取り組む。学生たちにはそういうことを教えていきたいですし、それができるように視野を広く持ってほしいと思っています。
■工学部電気電子工学科WEB:
https://www.teu.ac.jp/gakubu/eng/el.html
・次回は11月11日に配信予定です。