これからの創薬の中心となる“バイオ医薬品”を企業とともに研究開発しています!
応用生物学部 佐藤 淳 教授
高度なバイオテクノロジーを使ってバイオ医薬品づくりに取り組む佐藤先生。応用生物学部の医薬品コースの目玉であり、今後の創薬分野の中心となるバイオ医薬品と、そのご研究についてお聞きしました。
■医薬品コースで研究できるという、バイオ医薬品について教えてください。
バイオ医薬品とは、私たちの体内にある抗体などのタンパク質や、核酸(DNAやRNA)など生体由来の物質からつくられる医薬品のことです。従来の医薬品は有機化学合成でつくられたもので、低分子、つまり分子が小さいものでしたが、バイオ医薬品は遺伝子組換えや細胞融合、培養などのバイオテクノロジーを使って製造される薬で、分子量の大きい高分子になります。今、世界的に見ても医薬品の売上・開発トップ10のうち7~8品目は、このバイオ医薬品が占めていて、大手製薬会社も開発に非常に力を入れています。
では、なぜバイオ医薬品がこれほど全盛なのかというと、ひとつは従来の低分子医薬品に比べて薬の効果が高確率で期待できるうえ、副作用が少ないという点が挙げられます。元来、化学合成による薬の開発には途方もない時間がかかるうえ、効果が得られるかどうかはつくってみなければわからない面がありました。しかしバイオ医薬品は、その原料がもともと体内で機能しているものなので、ある程度の薬効が保証されていると言えますし、副作用の可能性も低いというメリットがあるのです。
一方、生体由来のため、非常にコストがかかるうえ、製造工程が複雑で大量生産が難しいという課題もあります。ですから今後は、バイオ医薬品の価格をいかに抑えるかということも重要になります。こういう視点は研究にも活かせる面があって、例えば私の研究室では、安く大量に製造するために大腸菌でバイオ医薬品をつくる研究も行っています。また、私はタンパク質全般を扱っていますが、応用生物学部の医薬品コースには、核酸(DNAやRNA)を利用した核酸医薬の研究に取り組む研究室もあります。このように各種バイオ医薬品の開発に携わることができるところが、他大学にはない本学の強みですね。
■医薬品と聞くと薬学部の印象が強いですが、応用生物学部との違いは何でしょうか?
多くの方が薬関係は薬学部で学ぶというイメージを持っていると思います。しかし薬学部は、薬の開発より薬剤師の養成という面が強いところです。また、バイオ医薬品に必要な技術である生物工学、いわゆるバイオテクノロジーによる創薬は、薬学よりも応用生物分野が活躍する場だと言えます。さらに医薬品の開発は、非常に大がかりな研究になるため、大学のいち研究室で取り組んでいるところは滅多にありません。医薬品コースの研究室は企業と組んで、今後の創薬の中心になるバイオ医薬品の研究に取り組んでいますから、実際にモノをつくって解析し、薬として実用化を目指すところまで携われます。そうした創薬研究ができるのは、本学の応用生物学部しかありませんし、それがこの学部の大きな魅力のひとつになっています。
■では、先生の研究室での取り組みについて、具体的に教えてください。
私の研究室では、タンパク質やその配列が少し短いペプチドを使ったバイオ医薬品の開発と、その要素技術の研究をしています。タンパク質医薬品に関しては、“ラクトフェリン”を使った研究に取り組んでいます。ラクトフェリンは、食品の中でも特に牛乳に多く含まれるタンパク質で、いろいろな働きが確認されていて、例えば抗炎症作用や抗腫瘍作用があるとわかっています。そのラクトフェリンを薬にしようというのが研究テーマのひとつです。
この研究で最初に私たちが考えたことは、腸管から直接吸収されるというラクトフェリンの特性を活かして、経口薬をつくることでした。しかし、いくら腸で吸収されると言っても、大半は胃液で消化され、腸まで届くものはわずかですし、吸収されても血中にはタンパク質を壊す酵素があって、すぐ体外に排出されてしまいます。そこでラクトフェリンをポリエチレングリコール(PEG)という高分子の鎧で覆って、タンパク質を分解する酵素を近づけないようにし、血中安定性を高めることをしました。
結果、研究はうまくいきましたが、同時にPEGはコストが高いという問題や牛乳由来のラクトフェリンで人体に打つ注射剤をつくることは難しいという壁にぶつかりました。そこで今度はヒト由来のラクトフェリンと、ヒトの体内にある抗体の一部を融合させて血中安定性を高める試みをしたところ、良い結果が得られました。また、投与方法も経口ではなく、胃や腸を通らずに済む注射剤として開発する方向に切り替えたのです。現在は企業とともに、これをバイオ医薬品にしようと開発を進めています。
また、ラクトフェリンと血液中に一番多く含まれるタンパク質“アルブミン”を融合して、血中安定性と抗腫瘍性を高めたバイオ医薬品の開発にも取り組んでいます。アルブミンは癌細胞に集積する性質があり、癌細胞が増殖するときの栄養になっているとされます。このアルブミンの特徴と抗腫瘍性のあるラクトフェリンを融合させ、癌を特異的に攻撃するバイオ医薬品づくりに挑戦しています。実際に、この融合タンパク質は期待通りの高い血中安定性と、増強した抗腫瘍性を示しました。抗癌剤としての開発を考えています。今は、さまざまな癌細胞を対象に効果の有無を調べて、メカニズムの解析を行っているところです。
■最後に学生へのメッセージをお願いします。また、研究者としての展望もお聞かせください。
学生には失敗を恐れずに、何事も自分で考えてみてほしいと思っています。常に「なぜ?」と考えるように習慣づけて、自分なりのアイデアをぶつけてほしいのです。また、頭の中で考えるばかりでなく、手を動かしてアイデアを形にしてほしいですね。研究では実際に手を動かさないと、わからないことがほとんどですから。そういう力を大学で身につけられると、社会に出てからもきっと活躍できるだろうと思います。実際に研究室の卒業生は、製薬関係の研究、製品開発、臨床開発、技術営業などで頑張っていますよ。
また、研究者としては、とにかくモノをつくって世に出したいですね。特に薬の実用化は、最もわかりやすい研究成果だと思いますし、社会貢献にもつながります。本学は実学主義を掲げている大学ですから、研究成果が実用化されれば、より説得力が増しますよね。
・次回は7月14日に配信予定です。