ロボットは多様な技術が結集したシステム。その面白さを体験するには基礎学力が大切です。
工学部 機械工学科 福島E.文彦 教授
環境調査や資源調査、極限環境での作業、レスキューなど、各分野で活躍する移動ロボットの研究開発を手がける福島先生。研究室での取り組みやロボット研究を始めたきっかけなどを伺いました。
■先生のご研究について教えてください。
私の研究分野は、ロボティクス、いわゆるロボット工学になります。これまで私の研究室では、陸海空を問わず、各環境で役立つさまざまなロボットの研究開発に取り組んできました。例えば、長年、研究を続けているものに“地雷探査ロボット”があります。紛争によって地中に埋められた地雷を撤去する作業は、現在も人の手で地道に行われていますが、それをもっと効率化する方法がないか、具体的には時間短縮とコスト削減できないかと研究に取り組んでいます。
地雷撤去作業の中で私が注目したのは、最初の地雷を探査する部分です。地雷探査では、金属探知機が反応した場合、それが本当に地雷なのか別の金属なのかを区別することが難しいという課題があります。地雷の素材自体が複雑な構成で、しかもいろいろな姿勢で埋まっているからです。そこで地雷を探す部分をロボット化し、さまざまなデータを取りながらデータベースをつくって照合することで、地雷かどうかを判定する精度を高め、短時間かつ楽に地雷を見つけ出せるようにしようと研究しているのです。
この研究室で開発した地雷探査ロボットは、人が乗って操縦することもできますし、遠隔無線コントローラにより遠隔操作も可能です。動きとしては、まずロボットアームの先に取り付けた金属探知機で地上の地雷探査を行ったあと、地雷があれば、その場所にマーキングします。ステレオビジョンカメラ(2つのカメラの視差情報を用いて対象物までの正確な距離や姿勢などの3次元情報を計測するカメラ)を積んでいるので、地形を3次元データとして認識し、ロボットアームを自律的に動かすことができるのです。また、高精度のGPSを搭載しているので、地球上で地雷が探知できれば、ほぼ狂いなく場所を特定することが可能です。この研究は、ロボットが完成すればゴールではなく、どこまで地雷判定の精度を高められるかが課題です。そのため、世界で最も地雷の埋設量が多い国とされるアンゴラにたびたび足を運び、現地で実験を重ねながら研究を続けています。
他にも寒冷地や火山、水中、水上などで活躍するロボットの研究開発を手がけていますが、最近のトピックとしては、「再生可能エネルギー利用EV製作教育プログラム」という電気電子工学科と応用化学科と一緒に取り組んでいるプロジェクトがあります。
■それはどういう内容の取り組みなのでしょうか?
工学部でチャレンジする4ヵ年計画のプロジェクトで、再生可能エネルギーのみを使ったEV(電気自動車)を製作し、学内競技会を開催するほか、最終年度には学外のEV競技会への出場を目指すというものです。このプロジェクトは単にEVをつくるだけでなく、AI技術を取り入れて自動運転で走る機能も加える計画になっています。それには制御が関係してくるため、私の専門であるロボティクスに非常に近い技術になるんですね。つまり自律走行できるEVは、まさに地上のロボットと位置づけられるのです。
ですから今後は私が担当する「サステイナブル機械設計」や「機械力学」といった授業や研究室の研究の一部としても、このプログラムを扱っていこうと考えています。
■先生がロボットに興味を持ったきっかけとは何だったのですか?
子どもの頃から、機械の分解や組み立てが好きで、ラジオやトランシーバー、歯車が入っているようなものをよく触っていました。そこから今度は、歯車同士を動かしたらどんな動きになるのか、モーターを動かしたらどんな動きになるのかというところに興味を持つようになり、今の研究テーマにつながっていきます。私の中でのロボットの定義は“動き”があること、アクチュエータがあるということで、とりわけロボットの“移動”という要素に興味を持っています。ひとくちに“移動”といっても車のような4輪だけでなく、例えば這って歩く蛇型や尺取虫のような動きのワーム型、ドローンのように空中を移動するものと、いろいろな形がありますよね。そういう屋外を移動するロボットで、なおかつ人の役に立つものに興味がありますし、そういうものを研究して社会貢献につなげることが目標です。
■最後に学生へのメッセージをお願いします。また、研究者としての展望もお聞かせください。
今日、話した地雷探査ロボットが好例ですが、ロボティクスにはセンシング、運転、遠隔操縦、自律運動、機械設計、コンピュータ制御、ステレオビジョンなど、さまざまな要素が含まれています。それだけロボットは、多様な技術や専門分野が複合的に組み合わさったシステムなのです。そして、その研究開発は間違いなく面白いと言えます。一方で、ロボット研究は、安全性を考慮しながら最後まで責任を持ってつくることが求められます。そのためには専門知識が必要になりますし、それを習得するには基礎学力が欠かせません。ですから学生には、まず基礎学力をしっかり身に付けてほしい。もちろん本学はきちんと基礎から学べるカリキュラムになっていますから、研究室に所属する頃までには、それらを身に付けられます。ですが、それは本当に最低限のレベルなので、ぜひ向上心を持って、能動的に学んでいってほしいですね。
また、研究者としては、ロボットはあくまでも人を支援するものとして研究開発していきたいと思っています。今、ロボットの分野はものすごいスピードで発展しています。いずれはすべてが自律化・自動化して、人の仕事を奪う可能性もあります。極端な話、研究すらロボットに任せるなんて時代が来るかもしれません。ですが、私としては自分の研究したロボットが人の仕事を奪ったり、人間を退化させたりするものにならないことを願っています。いつまでもロボットは道具であってほしいし、目に見えないところで人をサポートするものであってほしい。今後もそういう思いで、ロボット研究に携わっていきたいと思っています。
・次回は7月14日に配信予定です。