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ギターも内視鏡手術も根っこは同じ!? 運動センサでお手本の動きを捉えて活かしたい

2017年11月10日掲出

コンピュータサイエンス学部 松下 宗一郎 教授

松下 宗一郎 教授

身に付けられるウェアラブルコンピュータとセンサを使って、独創的な研究に取り組んでいる松下先生。人の手の動きを捉えるセンサをギター習得に活用する研究が、今、まるで違う分野に応用され、成果を上げています。今回はその具体的な研究内容を伺いました。

前回の掲載はこちらから→https://www.teu.ac.jp/topics/2013.html?id=20

■最近は、どのようなご研究に取り組んでいるのですか?

 前回、人の動きを捉えるモーションセンサをギターの先生にするという研究についてお話ししました。その研究は今も続いているのですが、実はそれが医療分野、具体的には内視鏡手術の分野に行きついています。今回は、その話をしましょう。内視鏡手術というのは、外科手術の手法の1つで、太さ5ミリ程度の小さな穴を体に開けることで、腫瘍の切除といった比較的小さな病変部位の治療に用いられている手術方法です。大きく体を切り開く開腹手術ではない分、治りが早く、患者への負担も軽いという手術ですが、実は外科の超熟練医だからといって内視鏡手術もうまいかというと、必ずしもそうではありません。というのも手でじかにメスを持って行う手術とは、全く別物だからです。
 内視鏡手術は、画面を見ながら手元を操作して、体内の患部を切除します。しかも手元で動かしたものが、自分の感覚とは違う動きをします。つまり、あれは一種のヴァーチャルリアリティ(VR)なのです。そうなると、これまでの手術とは全く違う能力を要求されるので、高名な外科医でも内視鏡手術の装置を手にしたとたん、新人同様になってしまうのです。その原因は2つあると言われていて、ひとつはそれまで目で見て手術をしてきた人たちが、画面を見て操作することに慣れないという点。それから、内視鏡手術用の手の鍛え方ができていないのでゼロからのスタートになる、たとえて言うならば、研修医と同じレベルになるということが言われています。これ、実は根っこの部分がギターと同じです。ギターの上手な人に、違う楽器を持たせた状況を想像してみてください。いくらギターがうまく弾けても、全く違う楽器は弾きこなせませんよね。手の動かし方や、良い音を出すコツなど、使う原理が違うからです。
 前置きが長くなりましたが、そういうわけで、この研究室で開発した手の動きを捉える腕時計型のウェアラブルセンサを東京大学医学部附属病院の外科専門医の方々に装着していただく実験を行いました。ご協力を頂きました先生方は、医師になって間もないという方から20年超のベテランの方までいらっしゃいましたが、みなさん、将来的に内視鏡手術を行いたいというお医者さんばかりです。その方々に、内視鏡手術の練習をする際に装着してもらい、データを取ったのです。その結果、まず最初に2つのことがわかりました。

腕時計型ウェアラブルセンサ

■どのようなことが、わかったのでしょうか?

 ひとつは、内視鏡手術がうまい先生は、必ずしも力が抜けているわけではないということです。逆に力の入れ方は、おおむね熟練度に比例して増していきます。つまり動きはより鋭くなり、当たったときの損傷は大きいのですが、患者さんの身体や患部に影響を及ばせない技術を身に付けているというわけです。ですから流れるような動きの先生が手術上手というわけではないとわかりました。ギターの演奏でも、なめらかな手の動きがキレのあるサウンドを生み出さないことが良くあります。このことからも、目的に応じて自由に手の動きをコントロールできる人が、その道の達人であると言えます。
 そして2つ目の発見は、上手な外科医師は左手が動くということです。手術経験の浅い方では、ほとんど左手が止まっていますが、内視鏡の専門医技術認定を持っている先生方は、右手とほとんど同じくらい左手が動きます。というのも内視鏡手術はすごく狭い所で行うので、手の自由がききません。自分の動かしやすい手でしか手術ができないと、それと反対側に患部があった場合、手術できないことになります。ですから常に左右を入れ替えても手術ができるトレーニングをしているそうです。ただ、そう簡単に左手は動くようにはならないんですね。この研究室でも、10週間、8人のコンピュータサイエンス学部の学生に内視鏡手術のトレーニングを行ってもらいましたが、利き手ではない手が動くようになった学生は一人もいませんでした。これが内視鏡手術の技術を身に付ける1つの大きな壁なのです。それでもお医者さんは、日々、ドライボックスという装置を使って練習をされています。ただ、自分の上達度もわからない中で、2年、3年と練習し続けることはできませんよね。そこで私たちは、上手な人のデータをとって、お手本の動きを見つけようと考えたわけです。

■今後はどのような展開をお考えですか?

 今、この装置を小型化するプロジェクトを進めています。体積がやや大きいのとケースが重いので、その軽量化に取り組んでいます。角も削って、丸くします。また、最終的にこの装置には、人工知能が関係してきます。というのも捉えた動きの情報から被験者が今、何をしているのかをこのセンサが自分で判断する必要があるからです。「今、縫合したね」「今、電気メスで間違ったところ切ったね」というように。そのために人工知能が必要になるのです。これが入ることで、動きを推定して採点や評価ができるようになり、どれだけ内視鏡手術の腕が上達したかとういことも、簡単にわかるようになります。しかも、ビデオ撮影ではないことから、必要以上に個人情報をさらさずに技量評価が受けられるのです。
 ここからさらに応用範囲が広がって、本学の医療保健学部作業療法学科と共同で、身体の運動機能に麻痺がある方のリハビリに活かす研究を開始しています。リハビリは、患者さん本人の意志でどれだけトレーニングしたかが、ダイレクトに結果につながっています。ですが本当にきちんと提案されたメニューの動きをできているかどうかは、現状では把握できません。そこでこのセンサと人工知能を使って、「あなたは何時何分に、正しいリハビリをどのくらいの強度で行いました」ということを推定する技術に取り組んでいます。
 また、さらに別分野にも派生しています。今、狙っているのが、タイピングです。間もなく、小学校にプログラミングの授業が導入されます。ところが今の時代、キーボードを正しく打つことに意識を向けている大人は、ほぼいません。本学部の学生も我流の打ち方をしています。そこで、どれくらいのタイピングスピードの人が、どういう力の使い方をしているのかデータを取ってみようと思っています。この研究で面白いものが見つかれば、小学校・中学校にフィードバックすることも視野に入れています。

■最後に受験生・高校生へメッセージをお願いします。

 ギターと内視鏡手術の話に通じるものがありますが、「世の中に無関係なものなどない」ということをお伝えしたいです。人間が関係している以上、つながらないものはありません。なので「こんな勉強、自分に関係ないからしたくない」と思いがちな人は、要注意です。例えば「体育の授業なんかかったるくてやってられない」と思うかもしれません。でも、ちょっと考えてみてください。君の老後の身体を支えるのは、体育だけですよ(笑)。
 ですから無駄なものなど何もないのです。その中でコンピュータを学びたいという方は、本学部に来てもらうと、すごく広い世界だから面白いことができるんじゃないかなと思います。

■コンピュータサイエンス学部WEB:
https://www.teu.ac.jp/gakubu/cs/index.html

・次回は12月8日に配信予定です。