デザイン学部の拠点・大田区への来訪者を増やす観光デザインの提案に学生たちが挑戦しています。
デザイン学部 伊藤 丙雄 教授
デザイン学部のある東京都大田区をPRするキャラクターの審査員や同区の区制70周年記念事業実行委員会員を務めるなど、地域とデザイン学部との関係性を築いてきた伊藤 丙雄先生。4月から始まったデザイン学部の戦略的教育プログラムでも、東京工科大学デザイン学部ならではのICTスキルや最新の機器を駆使し、2020年の大田区における観光デザインをテーマに展開しています。今回はその詳細をお話しいただきました。
■デザイン学部で取り組んでいる「観光デザインの実践的教育プログラム」について、教えてください。
デザイン学部のある東京都大田区の名所・旧跡や区が公開している人口分布や防災計画といった情報を調査し、東京オリンピックの開かれる2020年を目指して、大田区により多くの人が訪れるよう地域性を活かした観光デザインPRを考えて形にしていくという4年間のプロジェクトになります。
参加するのは視覚デザインコース/視覚デザイン専攻・映像デザイン専攻の3年生で、「2020年の今、大田区のココがすごい!(仮)」(※正式タイトルは今後、学生たちが考案予定)と題して、2020年までに大田区への来訪者や観光客を増やすための仕組みをICTの技術をフルに活用した視覚デザインの視点で考えてもらい、毎年、プレゼンフォーラムで発表します。初年度である今年は、学生6名前後で構成されるグループにわかれて企画を考え、11月9日、10日に開催したプレゼンフォーラムでは、大田区役所観光課や産業振興会の方を前にプレゼンを行いました。今回は大田区の特産品や名物を扱った企画、AR(拡張現実)を用いたアイデアやスマートフォンを用いたゲームアプリなど、21の企画を発表。今後はこの中からさらに選抜して数を絞ります。そして来年度、今の2年生が新3年生として、選抜された企画を引き継ぎ、各企画の演出プランを考えていきます。演出とは、例えばどういうメディアを使うと良いか、どうすれば企画意図が具体的に伝わるかといったプロセスを考えていくわけです。そしてその次の年は、今の1年生が新3年生として企画を引き継ぎ、演出プランを実行プランに移します。実際に実行するとなると、いろいろな問題が出てきますから、それらを踏まえて修正し、学外で実施計画として展示発表をする予定です。また、最終年の2020年度には、さらにブラッシュアップした企画を実現可能ならば大田区と協働で、披露する場を持ちたいと思っています。
2017年度 第一回デザイン学部プレゼンフォーラムの様子
■今回、学生はどのように企画を考えていったのですか?
実はこのプログラムに関しては、普段の学びを生かしてもらうため学生には能動的に取り組んでもらいます。今回の取り組みは教員が主導すると、学生が面白いと感じられないので続きません。とはいえ何もないところから学生だけでアイデアを考えることは難しいので、3年生後期の「専門演習Ⅱ」の課題とこのプログラムをリンクさせ、演習中に並行する形で、特別課題として取り組んでもらっています。
具体的に言うと「専門演習Ⅱ」では、大田区の地域性を活かした、観光客誘致を目的とする架空のイベントをデザインしなさいという課題が出されます。そこで学生はまず個人ワークとして大田区内の調査を行い、区の魅力や問題、すでにあるさまざまなコンテンツについて学びます。そこから課題1として架空のイベントを考えて企画書にし、さらにイベントの名称、ロゴ、ビジュアルイメージ画像をつくります。次の課題2では、それらを素材として掲載したパワーポイント資料を使って、5分ほどのプレゼンをしてもらいます。この発表後、学生間投票を行って、人気のあった上位案を課題3のテーマとし、告知ツールの提案とポスター制作を今度は企画に沿ったグループで取り組んでもらいます。これら一連の課題は、教員もみっちり指導します。
それと並行する形で、特別課題の「2020年の今、大田区のココがすごい!(仮)」に取り組んでもらいます。この特別課題は、学生がより能動的に参加できるという仕組みです。しかも課題1で大田区に関する情報を自分の足で調査し、それぞれに得ていますから、演習での学修成果を無駄にすることなく、プログラムにチャレンジできるというわけです。
■今回の戦略的教育プログラムでは、狙いとしてどういう教育効果が考えられますか?
ひとつは、地域にある具体的な課題に対して、デザインで問題解決に取り組む経験ができるということです。例えば、今回、学生たちが大田区について調べてわかったことは、すべてではないにしてもネガティブなイメージが少なくないということでした。犯罪発生率の高さや交通の便があまり良くない、放置自転車が多いなどなど。そういうネガティブな要素は社会の抱える問題点でもあります。実はデザインを考えるとき、そういう解決すべき問題点は力になります。ネガティブなイメージをデザインの力でどうポジティブなものに変換できるかということですから。また、そういう社会の実体感があるからこそ、学生はやりがいを感じられるのだと思います。
また、今回のプログラムのように引き継いでいく課題というのは、デザイン学部では珍しいものです。大学の課題の多くは、提出して評価されて終了というものが多いのですが、もっと継続的に責任を持ちながらブラッシュアップしていける課題ができないかと考えていて。これは本学の掲げる“持続可能な社会の実現”へのアプローチにもつながると思い、今回は継続した課題に取り組む形にしました。実際、社会では、一度、提出したら終わりという課題はありません。一度生まれたデザインは、誰かが時代に合わせて変え、責任をもってフィードバックさせていくことが多々あります。学生は、ゼロから自分で考えて自分のデザインをしたいと思うかもしれませんが、社会ではデザインの仕事のほとんどが誰かに何かのためのデザインをしてほしいと依頼されるものです。それは依頼主のためのデザインであって、自分のためのデザインではありません。また、以前から続く企画があって、それを受け継いだ人の力でさらに魅力的なものにしていくこともデザインの仕事では多々あります。以前からあるそのデザインが生まれた理由をきちんと踏まえたうえで、常に良いものを、より時代に合ったものをとブラッシュアップしていくことは、デザインの基本です。今回の取り組みが、そういう経験になればと思っています。
■受験生・高校生へのメッセージをお願いします。
世の中は変わります。それに合わせて、デザインも変わります。でも大切なことは変わりません。東京工科大学のデザイン学部は、理工系総合大学としてエンジニアリングのひらめきと論理的な思考で社会の問題を視覚化し、デザインの力を使って解決していこうと取り組んでいる学部です。難しいテーマではありません。むしろ身近な社会にあることですから、皆さんがちょっと意識して見ることで、問題点に気づくはずです。そういうものの見方や社会にある問題の発掘の仕方、それらをデザインで解決する術を大学で学びながら見つけていきましょう。きっとこれからの世の中に役立つと思います!
■デザイン学部WEB:
https://www.teu.ac.jp/gakubu/design/index.html
・次回は2月9日に配信予定です。