大学の学びはこんなに面白い

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平面に折りや切り込みを施すことでできる立体の構造をAIに学ばせて、プロダクト制作に繋げたい

2018年9月28日掲出

デザイン学部 酒井 正 講師

酒井 正 講師

 デザイン学部ではデザインAI分科会を設け、デザインにAIを適応した研究を進めています。その取り組みの詳細やデザイン学部工業デザインコースの学びについて、同コース工業デザイン専攻を担当している酒井先生にお話しいただきました。

■デザインAI分科会で取り組んでいる研究についてお聞かせください。

コーナーに置く棚

 デザイン学部の松村誠一郎先生を中心に、御幸朋寿先生と私とで取り組んでいる「切り込み入り平面からの展開構造デザインの研究」というものがあります。わかりやすく言えば、折り紙のように平面上のものを折ったり、切り込みを入れたところを折ったりすることでできる立体を、何かプロダクトに応用できないかと取り組んでいます。
 学生とワークショップを開催して折り紙の原理で紙に切り込みを入れ、その部分を立ち上げて立体にすると、コーナーに置く棚になるという試作品を学生が制作しました。折り紙と聞くと手元でつくる遊びの一種という印象ですが、産業界では意外と使われている技術です。わかりやすいところでは、人工衛星の太陽光パネルに応用されていて、対角線になる端と端を引っ張ると展開したり収納したりできる折り方などがあります。そういう構造の設計をAIでできないかというのが、今回の研究テーマです。それを最終的にはプロダクトに結び付けていきたいと思っています。
 また、私が担当している授業「スキル演習(基本製図)」では、平面上での図面のかき方の基礎を教えているのですが、そこでもこの研究をうまく応用して、面白い図面がかけないかと考えています。というのも製図は経験値に頼るところが大きいので、経験の少ない学生にはイメージしているものを図面に落とし込むことがそう簡単ではありません。それは切り込みや折りによって平面から立体をつくる場合も同じで、頭では想像できるのですが、実際にどのくらいの角度で折り目をつくるのかを導き出すことは簡単ではないし、組み立ててみると思っていた形と全然違ったなんてことも多々あります。ですからその辺をAIがサポートしてくれるようになれば、折りを使ったものづくりのハードルが少し下げられるのではないかと考えています。
 折りの構造については、すでにかなり分析がされていて、いわゆる定義のようなものがあるので、それをAIに学ばせることで、私たちが思いつかないような何か面白いものを生成してくれるのではないかと期待しています。

■現状、研究はどのくらい進んでいるのですか?

 まだ始まったばかりで、今はこの研究の可能性としてどういうことが考えられるか、学生と一緒に発想を広げてみようと、試作やワークショップをしているところです。
 また、研究がうまく進んで、プロダクトに繋げることができれば、例えば自然災害時の避難所に設置する家具やベッドなどに応用できるかも知れません。そういうものは、使っていない時にどう収納するかが、各自治体の頭を悩ませる問題になっています。そこで普段は平面として折りたたんで収納しておけて、非常時にのみ立体化できるプロダクトを開発できれば、いざという時に役立つのではないでしょうか。折りの技術を用いれば、組み立て用パーツも不要ですし、力もそれほどいりません。ですから、良いプロダクトを提案できれば、社会に貢献できると思います。

■工業デザインコースの学びの特徴についてお聞かせください。

 プロダクトデザイン、工業デザインと聞くと、何か形をデザインできれば良いと思う人もいるかもしれませんが、実社会では会社の中でプロジェクトを進めていくことでモノをつくっていきます。ですから、グループワークが非常に大事になります。グループの中で個人の力をどう活かすのか。ここでいう“個人”とは自分という意味だけでなく、他者も含みます。つまり自分や他の人の力をどう活かすかが大事になってきます。
 ですから、工業デザインコースでは、グループワークを重要視したアクティブラーニングの場を提供するようにしています。それは単純に複数で取り組んだ方が色んな意見が出るからというよりは、社会の縮図を経験してもらいたいという意図があります。グループの中で自分の力を発揮するには通さないといけないこともあれば、引かないといけないこともあります。また、自分のアイデアより他の人のアイデアの方が良いと思ったら、そっちに乗り換えることも大切です。そういう冷静で柔軟な価値観や心理状態も会社でのグループワークでは求められます。そういうことを授業で体験できるようにしています。

■具体的には、どんな取り組みがありますか?

 例えば、「工業デザインコース専門演習Ⅰ(工業デザイン)」という3年生前期の授業では、本学のオープンキャンパスで配布するノベルティグッズをデザインするという課題に取り組みます。具体的には、5~6人のグループにわかれて意見を出し合い、オープンキャンパスに関連するコンセプトを各グループで決めてもらいます。自分のグループのコンセプトに沿って、学生それぞれが自分でアイデアを考えて、最終的にはパワーポイントを使って自分の企画をプレゼンテーションしてもらいます。また、大きさがわかる程度の模型もつくってもらいます。
 学生のアイデア例としては、オープンキャンパスで行われる模擬授業やワークショップをコンセプトに据えたグループの場合、模擬授業で手を動かしてデザインの面白さを体験することでノベルティのプロダクトが完成するという面白いものがありました。それによって、工科大でのオープンキャンパスに参加した意味が高まり、工科大により行きたくなるようなプロダクトになるわけです。また、大学に入ってからの自分を想像するというコンセプトを出したグループでは、入学後に待っている、わくわくすることをベースにグッズを提案していました。例えば、大学ではパソコンソフトのイラストレーターを使う授業があるので、そのショートカットキーが覚えられる付箋紙をノベルティにするというアイデアがありました。
 この授業でポイントとなるのは、グループワークと個人ワークを行き来しながら取り組むところにあります。完全に個人ワークだとアイデアが出なかったり、アイデアが出てもそれ以上進展させられなかったりすることがありますが、グループワークがあると必ず仲間とのコミュニケーションが発生するので、自然と考えを進められます。また、自分以外の人が発表している時も、関係ないと聞き流すのではなく、どうしたらそのアイデアがもっと良くなるかという姿勢で聞くことができるようになります。さらに人のアイデアに意見を言ったり、逆に言ってもらったりすることで、デザインに対して色々な考え方ができるようになります。そういう形でデザインに対する幅広い視点を養えるのが工業デザインコースの特徴のひとつです。

■では、最近の先生のご研究についてお聞かせください。

 去年、学部内のプロジェクトとして、災害時の一次避難のための収納グッズを考えました。コンパクトで邪魔にならず、身近にあるものということで、職場などに必ずあるハンガーを避難グッズの収納スペースにするというのが私の提案です。ハンガーの肩部分がスクリューになっていて取り外せ、その中に500mlペットボトルやヘッドライト、笛、非常食、保温アルミシート、常備薬などが入るようになっています。
 デザインしたものは、試作品として3Dプリンターで出力しました。ただ、3Dプリンターでつくったものは表面がギザギザしていて、それをそのまま利用するには完成度的に難しいので、今回は表面をきれいに削って、ウレタン塗装を加えました。私はもともと、デザインというよりはさまざまな素材を使ったアートの仕事をしてきた経緯があるので、3Dプリンターでつくったものを仕上げるフィニッシュワークの技術を持っています。それを学生にも教えて、3Dプリンターでつくったものの完成度を高めることができれば、より説得力のある提案ができるようになるのではないかと思っています。

避難用品収納ハンガー

幼児用の食器

 また、これまで3Dプリンターで使用する素材(フィラメント)は、ABSとPLAという2つの樹脂(プラスチック)が中心でしたが、最近は色々と開発されて、食品衛生法をクリアしたものも出てきました。そこで私は今、それを幼児用食器の形の模索に使おうと取り組んでいます。幼児用の食器はプラスチック製が多いですが、ちょっと味気ないし、できれば本物の陶器を使わせてあげたいと思っていて。そこでひっくり返ったりしない安定性の良い形で、なおかつ素材は割れにくい磁器を使った本物志向の幼児用食器をつくりたいと考えているのです。そのために食品衛生法をクリアした樹脂を使って、3Dプリンターで食器を試作し、実際に子どものいる家庭で試用してもらい、最適な器の形を考えていこうと進めています。

■最後に受験生・高校生へのメッセージをお願いします。

 常々、学生にも言っていることなのですが、本物に触れる機会を増やしてほしいと思っています。今はインターネットがあれば、色々な情報が手に入る時代です。それは本当に便利なものですが、一方で実体験でしか知り得ない情報もあります。例えば、温度やニオイは、その現場でモノに触れたり空気を吸ったりしないと知り得ません。ですから、インターネットの情報をきっかけにして、それを実体験に結び付けてほしいと思っています。実体験が多い人ほど、話す内容も面白いし、発想も豊かですから。そういう意味で、画面やスピーカーを通して知ったことでわかったつもりになるのではなく、本物に触れる実体験をなるべく増やすようにしてください。その量をどれだけ増やせるかが、面白いアイデアや発想ができる力に繋がっています。

・次回は10月12日に配信予定です