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幅広い範囲の検査を扱う臨床検査技師には、好奇心と探究心をもって学んでいく姿勢が大切です

2019年6月15日掲出

医療保健学部 臨床検査学科 櫻井 進 教授

櫻井 進教授

 大学病院で臨床検査技師として長く現場に携わった後、大学教員となられた櫻井先生。臨床検査技師が扱う検査対象の幅広さが実感できるほど、さまざまな研究に携わってこられました。今回はこれまでの研究に関する話を中心にお聞きしました。

■先生のご研究についてお聞かせください。

 臨床検査の現場で困っていることを改善するというテーマで、さまざまな研究に取り組んできました。例えば、臨床検査技師として働いていた私が研究を手がけるきっかけとなった“偽血小板減少”。これは特定の患者さんに限って、採血した血液中の血小板が固まるという現象で、それが起きると検査機器が固まった血小板を別の細胞としてカウントしてしまい、血小板数は十分あるにもかかわらず、見かけ上、血小板の減少が起きるというものです。この原因は、採血した血液に血小板などが固まらないように混ぜるEDTAという抗凝固剤が反応することにあります。ですから臨床検査技師は、機器が検出している結果を注意深く見ながら、誤りがないか判断していかなければなりません。
 また、偽血小板減少は、採血した血液とEDTAが時間と共に反応し、血小板の塊が増えていくので、採血直後に検査すれば問題は起きないのです。ところが通常の検査は、採血をしてしばらく置いてから検査にまわします。偽血小板減少は、その置いている間に固まるので、そういう患者さんに対して病院は、採血する場所を検査機器のすぐ近くにするという対策をしていました。でもそれは、現場にとって負担のかかる煩雑な作業です。その問題が起きる患者さんの採血後は、すぐに検査機器が使えるように空けておかないといけませんからね。そこで私は、抗凝固剤を別のものにすれば、この問題はすぐに解決するのではないかと、いくつかの抗凝固剤を試してみました。ところがうまくいかなかった。そこで再び悩み始めて…というのが研究のスタートでした。
 偽血小板減少を起こす患者に着目して調べてみると、ある治療を行なった後に発症しやすいということがわかりました。それは手術です。手術内容に共通点はありませんでしたが、どの患者も手術後に発症しやすいことがわかりました。さらに調べていくと、どうやら手術前に感染予防目的で必ず投与される抗生剤が抗体をつくることが原因だと推測したのです。そこでその抗体を中和する抗生剤を探し出し、カナマイシンという抗生剤に行きつきました。偽血小板減少者用抗凝固剤として現在も利用されています。ただ、なぜカナマイシンが効くのかということまでは、まだ明らかになっていません。
 大学教員になってからは、睡眠時無呼吸症候群のスクリーニングの共同研究に携わりました。大規模なスクリーニング検査を実施し、お酒をより多く飲む人ほど無呼吸の程度が悪くなるという飲酒量と睡眠時無呼吸症候群との関係について、世界で初めて明らかにしたのです。そして現在は、味覚・嗅覚の研究に取り組んでいます。

■味覚・嗅覚検査の研究とはどのようなものですか?

 この研究を始めた経緯から話すと、それまで味覚・嗅覚検査は医師が行なうものでしたが、平成27年度に臨床検査技師の業務として解禁されました。当時、私は人体から直接データを取る「生理機能検査」を学生に教える立場にあったので、自分自身が味覚・嗅覚検査を習得するための講習を受けたり、資料を読んだりする必要性がありました。すると、いくつか疑問に思うことがあって研究を始めたのです。まだ研究途中のため詳細は言えませんが、味覚検査において不正確だと感じる部分があったため、その部分の研究をしています。
 また、気圧と味覚の関係に関する研究にも取り組んでいます。上空を飛んでいる飛行機の中では、味覚のうち、甘味と塩味の感度が20~30%下がると発表している人がいて、それが本当かどうかを確かめてみようと、実際に飛行機に乗って味覚検査を行ないました。味覚検査には主に、味を付着させたろ紙を舌に載せる方法、電気味覚検査、甘味・酸味・塩味・苦味の4種の希釈液を1種ずつ濃度のうすいものから順に口に1ccずつ入れていく全口腔法の3つがあります。このうち、全口腔法で実験を行なったところ、飛行機の搭乗前と搭乗6時間飛行中とでは、有意な差が出ませんでした。
 そこで今度は飛行機と同じ気圧になる高地で検査してみようと、ハワイ島にある標高4200mのマウナ・ケアという山で実験をしたのです。山頂および山腹に6時間滞在して味覚検査をした結果、直前に平地で行った検査に比べ有意に味覚障害が発生することが明らかになりました。それだけ感度が落ちるのです。今は研究を進めるため、さらなるデータを集める準備をしています。

■臨床検査技師に求められる素養とは何だと思いますか?

 やはり探究心のある人ではないでしょうか。私自身、25年間、臨床検査の現場にいて、さまざまな疑問や課題に出合い、それはなぜ起きているのか、どうしたら解決できるのかと取り組んできた結果、研究につながっていったので。
 また、近年は医療における臨床検査が細分化・高度化してきたことから、これまでは医師が行なっていた検査も、看護師や臨床検査技師が担うようになってきました。例えば、各種臓器の超音波検査・MRI検査、手術現場での神経系検査のモニタリングなど、数多くの医療検査を臨床検査技師が行なうようになり、すばらしい成果を上げています。今後も、患者さんに対し負担の少ない検査は、看護師や私たち臨床検査技師の業務として拡大することが予想されます。現に、遺伝子検査、胚細胞検査、臓器移植コーディネータなど、これまでに考えられなかった業務が新しく創設されていますし、特殊検査の解析業務を集中して行なう検査センターも存在し、そこでも臨床検査技師が活躍しています。
 つまり、臨床検査技師に任せられる仕事がさらに増え、扱う範囲も今以上に広がるのです。学ぶべき新しいことが次々と出てくるわけですから、好奇心と探究心をもって、学んでいく姿勢が大事になってきます。

櫻井教授研究

■最後に受験生・高校生へのメッセージをお願いします。

皆さんには、各医療職を正しく理解し、本当に「この職業に携わりたい」と思える職種に合致した学科を選んでほしいと思っています。その道を目指す覚悟ができ、本学に入学したら、カリキュラムに沿って全力で取り組んでください。臨床検査技師をめざすことを決めたら、必ず「臨床検査の中でも、特にこの検査分野に関係したい」というものが見つかります。その関心の強さがあればあるほど、おのずとその領域では、他を寄せ付けない優れた知識と技術を身に付けることができるはずです。「これがやりたい」「これを突き詰めたい」という思いは、その人に好奇心を生み、爆発的な力を授けます。また、一つの仕事を選択し、その道を究めることは、その人を本当にHappy にし、また、新たな価値を生み出します。
 アルベルト・アインシュタインは、「誰かの為に生きてこそ、人生には価値がある」と言いました。東京工科大学医療保健学部は、新たな価値を生み出せる医療職になるために必要な能力を授けるとともに、医療職に必須な豊かな人間性をさらに育むことができる機関です。本学ではこれまでに優れた人材を多数輩出し、多くの人々の幸福につなげています。
 ぜひ本学で、医療人として“誰かの為に役に立つ”知識と技術を身に付けてください。そして、あなたにとっての“人生の価値”を発見してください。

・次回は6月27日に配信予定です