看護の基本は観察!そこから新たな発見ができるのが看護師の醍醐味です。
医療保健学部 看護学科 西尾奈緒美 准教授
看護師としての臨床経験から、創傷看護の必要性に興味を持ったという西尾先生。今回は、研究内容や授業、学生の教育についてお聞きしました。
■先生はどのような研究に取り組んでいるのですか?
がんの専門病院で看護師として臨床をしていた当時、がん治療が引き金となって発生する創傷が患者さんの日常生活に影響を及ぼしているという現状を知ったことが、創傷看護の必要性を感じたきっかけでした。
がんの専門病院では患者に対し、外科的治療、抗がん剤治療、放射線治療など、さまざまな治療法を組み合わせた集学的治療が行われています。特に私が勤務していた骨盤内蔵器を対象とした病棟での手術は大きなものになるため、感染によって傷口が開いたり、抗がん剤や放射線による重篤な皮膚障害の発生、「がん」が皮膚に露出し、自壊(じかい)した部位から浸出液がしみでて周囲の皮膚がただれ、潰瘍になることもありました。また、終末期の患者さんの場合、「がん」が身体の栄養をうばいとってしまうため、身体がやせていき、褥瘡(じょくそう)と呼ばれる床ずれが発生したりすることも多々ありました。ですから「がん」という疾患が引き金となって発生する傷、“創傷”が非常に多い時代だったと記憶しています。そういう患者さんに看護師として関わらせていただく中で、創傷管理の適切な管理方法を身につけ、看護の力でこの傷の悪化を防ぐ方法を開発し、少しでも患者さんの苦痛を最小限に緩和できるようにしていきたいと考え、大学院に進学し研究を始めました。
具体的に取り組んでいる研究は「手術後創傷管理」と「骨髄移植によって発生するGVHDの実態」についてです。
白血病などで骨髄移植を受けた患者さんは合併症として急性GVHDという症状が出てくるのですが、その症状のひとつに皮膚障害があります。移植をすると正常な細胞が免疫応答によって攻撃され、その結果として皮膚では表皮がめくれてしまうことがあるのです。転んだ時に傷ができるとじゅくじゅくとした浸出液が染み出てくるように、急性GVHDでは、身体の皮膚がむけたところがそのような状態になります。この状態は、皮膚の真皮層が露出した状態でもあり、痛みの増強が起こります。そういう急性期の状況で、患者さんがもう少し安楽に創傷ケアを受けられることができないか、そして、治療のためやむを得ず発生する合併症の早期発見の方法を看護の視点でみつけ、移植を受ける患者さんの苦痛を最小限にするケアと悪化を予防することを確立することができないかという視点で研究に取り組んでます。
■具体的にどういう看護の研究に取り組んだのですか?
当時の対策としては、対症療法が主なケア方法でした。とにかく軟膏クリームを塗って非固着性のガーゼを貼り、感染を起こさないというケアの繰り返しでした。また、急性GVHDに対して看護分野では研究が進んでいないのも現状でした。そこで、骨髄移植を受ける患者さんの皮膚に着目し、日々の皮膚の変化について医療機器を用いて計測していきました。その結果、私たちの肉眼では何の変化も見られなくても、すでに皮下では損傷がはじまっていて、水泡ができている状況が確認できたのです。ということは、できてからのケアではなく、できる前のケアが重要ではないかということに考え至り、皮下での損傷が認められる時期での看護ケアに着目し、皮膚障害の発生となる引き金因子となる清拭や着替え、体位変換を抽出し、これらの方法を改善していくことによって皮膚障害の発生および、悪化を予防できないかということを考えたのです。
これは現在進行中の研究です。今後は研究に必要な数だけの調査を継続し、一般化していくための方法を検討していきたいと考えています。
■ご担当授業についてお聞かせください。
主に「成人看護学Ⅱ(周手術期ケア・クリティカルケア)」という講義を担当しています。
この講義は、3年生の前期の科目の一つであり、手術を受ける患者さんと患者さんの家族、交通事故や火災など予期しない事故にあった患者さんと患者さんの家族の方に対する「看護とは何か」「具体的にどのように看護をしていけばいいのか」について学ぶ授業です。特に、3年生後期の臨地実習に行ったときに、学生自身が必要な情報をみつけ、整理し、実践へ繋げられるよう工夫をしています。
講義では、教員による一方的な講義形式ではなく、学習者である学生が自ら積極的に参加をすることが必須となる「アクティブラーニング」としてPBL(プロブレム・ベースド・ラーニング)、TBL(チーム・ベースド・ラーニング)を用いて行っています。これらを取り入れることによって、学生が学習で得た知識と演習を通した体験を重ねながら、目の前の患者とその家族の本当に必要なケアを考えるようになります。例えば、「手術を受けたばかりの患者さん」のある一場面を想定した資料をもとに、個人で学習してきてもらいます。個人学習してきた内容を基に講義の中でグループディスカッションを行いながら課題と課題に対する介入方法を導きだしていくという講義です。実際の現場では患者一人一人に個別性があるため、答えが一つであるとは限りません。その時の最善な答えを考え介入できるようになってもらう力を身につけることができるようベストを尽くしています。
■学生にはどのような看護師になってほしいですか。
看護師は人の命を預かる職業であり、患者さんの一番身近にいる存在です。つまり、患者さんや患者さんの家族の「生活」に関与していくことになります。そこで、学生さんには「誠実な人」であってほしいと思います。つぎに、「看護という学問を楽しんでほしい」と思います。
「看護は観察に始まり観察に終わる」と言われています。じっくり観察し、得られた情報を基に相手を理解しようとする姿勢をもっていてもらいたいと思います。
医師は病気を治すことが仕事ですが、看護師はその人の人生や生活をサポート・支援していくことが仕事です。だからこそ、医師と協働しながら取り組んでいくことが大切ですし、そのためには医師との対話が必要となります。充実した対話を持てるよう知識を深めておく必要があります。ですから自己研鑽なくして成長はない職業なのです。
■受験生・高校生へのメッセージをお願いします。
現在の医療はチームで行われている時代です。本学の医療保健学部は、多職種の学科が揃っているので、「連携」について学生のうちから学ぶ機会を得ることが可能となります。このことは、看護師に必須なコミュニケーション能力の向上にもつながります。
また、ここ蒲田キャンパスにはデザイン学部もあります。医療では今、入院期間の短縮から在宅に移行する時期が早くなっている関係上、家の中の空間デザインが重要になってきていますし、様々な医療機器を家庭で用いることもあるので、そういう分野と看護との連携は今後、一層求められると思います。本学では、そうした異分野とのコラボレーションも可能ですから、未来が大きく広がるのではないでしょうか。そこが他大学にはない、本学の特長です。ぜひ、東京工科大学で看護という範囲にとどまらず、広く医療分野や別分野にも目を向けて、連携をとりながら自身の学問を広げていってください。
・次回は9月27日に配信予定です