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持続可能な社会の実現を目指すサステイナブル工学やその教育は、SDGsの中でも地球全体の基盤に関わる重要なものです

2019年2月8日掲出

工学部応用化学科 江頭靖幸 教授

江頭靖幸教授

 東京工科大学では、2015年に国連が採択した17のゴール、169のターゲットから成る持続可能な開発目標「SDGs(エス・ディ・ジーズ)」を意識した教育や研究を推進しています。今回はサステイナブル工学を掲げる工学部での取り組みについて江頭先生に伺いました。

■工学部では、SDGsをどのように捉えていますか?

 まずSDGs(Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標)というものについて話すと、これは国連が2000年~2015年の期間で掲げていたMDGs(Millennium Development Goals:ミレニアム開発目標)というものが前身になります。このMDGsは発展途上国を開発して、できるだけ貧しい人を少なくしていこうという方向の目標でした。ですから、ここで掲げられているDevelopmentは“開発”という意味が強いのです。
 一方、国連の中にはそれとは別に、このままの形で経済成長が続くと地球環境が成り立たないという地球規模の視点から見たSustainable Developmentがあって、そこで言われるDevelopmentは成長の対極としての“発展”という意味になります。そして、これら2つの流れが合体したものが、2015年に採択されたSDGsだというわけです。
 このうち、私たち東京工科大学工学部が掲げるサステイナブル工学が関わるのは、後者の“発展”の方です。例えば、地球温暖化問題、それに直結してくるエネルギー・資源の問題に工学分野としてどう応えていくのかを考えていこうということに、私たちは取り組んでいます。というのも、こうした地球環境の問題は最終的には、技術の問題になってきます。太陽のエネルギーで暮らせば、石油エネルギーに頼らなくてもよいと言うのは簡単ですが、世の中に太陽電池がなければ、それは絵に描いた餅です。それを実現するには、やはり技術が必要なのです。技術によって、社会をサステイナブルなものに近づけていこうというのがサステイナブル工学です。
 ですからSDGsには17の目標がありますが、それらすべてに工学が関わるというわけではありません。工学で扱うことは、地球に住めなくなるような根源的な問題を回避しようという地球全体の基盤となるレベルを対象にした話ですから。そして、そういう研究は、SDGsが掲げられるずっと以前から取り組まれてきました。石油エネルギー全盛期にも太陽エネルギーを熱心に研究してきた人たちがいて、当時、彼らが注目されることはなかったわけですが、世の中がエネルギー資源の枯渇を現実的に問題視し始めた今、長年の研究の積み重ねが技術として花開いているわけです。
 つまりSDGsという目標が国連を通じて掲げられたということは、やっと世界的に地球環境が問題視されるようになったということであり、わかりやすい目標が示されたという点では、大変喜ばしいことだと言えます。

■では、工学部におけるSDGsに関わる具体的な研究や教育についてお聞かせください。

 工学部では研究をSDGsと直接結びつけているわけではないですが、例えば、私はバイオマス燃料の研究をしていて、オーストラリアの砂漠で再生可能エネルギーの開発に関する研究をしています。また、機械工学科、応用化学科、電気電子工学科の3学科が合同で取り組んでいるEVプロジェクトでは、電気電子工学科の高木茂行先生を中心に再生可能エネルギーを有効活用するための技術開発に取り組んでいますし、機械工学科の福島E.文彦先生はアンゴラでの地雷撤去作業に、開発したアーム式ロボットを投入して研究を続けています。同じく機械工学科の大久保友雅先生は、太陽光励起レーザー開発をモンゴル科学技術大学と共同で研究しています。これらの研究はSDGsの複数の目標にまたがっていて、いずれもサステイナブル社会実現に貢献する工学分野の研究になっています。
 また、工学部で実施しているサステイナブル教育としては、LCA(Life Cycle Assessment)を全学科の学生に学んでもらっています。LCAとは製品ができてから廃棄されるまでの間に、どれだけの環境負荷があったかを計算してまとめる環境影響評価の方法です。これがある程度頭に入っていれば、実験や開発などでどの物質を使うかといった判断をするときに、環境負荷の低いほうを選べるようになります。
 そういう素養を学生に身に付けてもらうために、2年生の「サステイナブル工学基礎」という授業では、座学でLCAの概論を学び、機械工学科は2年後期、電気電子工学科と応用化学科は3年前期の「サステイナブル工学実習」で実際にLCAの評価を自分の手で行う経験をします。また、サステイナブル工学教育の仕上げとして、3年後期の「サステイナブル工学プロジェクト演習」では3学科合同のグループワークに取り組んでもらいます。3学科の学生が混合した4~5人のグループを作って、各グループが具体的な製品を取り上げ、LCAで評価をしてみて、どう改善していくと環境負荷が減るのかを考えていきます。ひとつの製品を見た時に、違う学科の人たちがどういう観点で見るのかを知ることができるというのが狙いです。また、単に改善のアイデアを出すだけでなく、そのアイデアであれば、例えばどれだけのCO2が削減できるかというところまで評価して発表してもらいます。本学部の学生がそこまでできるのは、サステイナブル工学教育を受けているからこそです。

「サステイナブル工学プロジェクト演習」中間報告会
「サステイナブル工学プロジェクト演習」中間報告会

■LCAについて、もう少し詳しく教えてください。

 例えば、紙コップをつくるのにウランが使われていると聞くと、どう思いますか? LCAで評価をすると、ウランが使われているという結果が出てきます。そう聞くと、紙コップの中にウランが入っているのかと思うかもしれませんが、そうではなく、紙コップをつくるには電力が使われていて、日本の電力の一部は原子力だからウランが使われているということになるのです。製品に直接入っていない物質にも、そういう繋がりがあるという意識を持ってほしいわけです。
 もちろん、これは2011年の3.11(東日本大震災)以前の話です。それ以降は原子力発電自体が減っているので、ウランの使用量は減っています。でも、原子力発電を行っているフランスで紙コップをつくれば、LCAではたくさんウランを使っていることになるし、オーストラリアであれば石炭が主要エネルギーですからCO2をたくさん出していることになります。つまり、国や社会が変われば、LCAも変わるのです。エンジニアリング中心で考えている人は、そういう考え方にあまり触れることがないと思います。ですが同じ物質を使うにしても、ある社会では環境負荷をかけていて、別の社会では環境負荷がかかっていないということになるのです。学生諸君にはそういう理学的な立場ではなかなか触れることがない考え方を、衝撃を持って知ってほしいと思っています。

■受験生・高校生へのメッセージをお願いします。

 高校生のみなさんも、SDGsを自分に当てはめて考えてみる、あるいは自分の将来の夢がそのどれに当てはまるかを一度、照らし合わせてみるとよいのではないでしょうか。自分の将来とSDGsのゴールがどう関係するのか、考えてみると面白いかもしれません。
 また、LCAの説明のところで触れましたが、社会の状況はどんどん変わっているので、何年のデータを見ているのか、何年のデータを根拠にそういわれているのかということを意識するようにしてほしいですね。中には古いデータを利用して的外れな提言している文章もありますから、最新の動向に注目して、情報を常にアップデートすることが大切だと思います。

・次回は2月27日に配信予定です