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どうすれば映画は収益を増やせるのか? 映画を中心としたエンタメビジネスのプロデュースやマネジメントを研究中

2019年11月8日掲出

メディア学部メディア社会コース 森川 美幸 講師

森川 美幸 講師

 映画コンテンツの宣伝、海外での新聞記者やテレビ番組制作を経て、映像プロデューサーの仕事を長くされてきた森川先生。現在はメディア社会コースの教員として、「どうすれば映画が新たな収益源を獲得できるか」というテーマで映画関連のビジネスについて研究されています。今回はその詳細や研究室に所属する学生の取り組みについてお聞きしました。

■先生のご研究についてお聞かせください。

 映画を中心としたエンターテインメントビジネスの研究をしています。例えば、プロダクトプレイスメントという広告手法。これは、映画やテレビドラマの映像中に、小道具や背景として実際の商品や企業を登場させる広告手法の一種で、例えば映画の中で主人公が実際に売られているジュースを飲んでいたり、特定のメーカーの車に乗っていたりするということが挙げられます。こういう広告手法は、アメリカではビジネスとして成立していて、専門の広告会社があるほどですが、日本ではまだそうなっていません。それはなぜなのかということに興味があり、研究に取り組みました。
 実写映画の場合は、たまたま撮影中に商品や看板、建物が映り込んだ可能性はありますが、日本ではアニメーションでも弾いているピアノにYAMAHAとあるなど、リアリティのあるシーンが描かれます。この場合、製品名やブランド名をあえて描くのですから、その企業と提携して収益が発生している可能性があるかもしれないということで、実際にアニメ映画を製作している人にインタビューを行いました。すると意外にも、アニメでも多くの場合マネタイズ(収益化)されていないことがわかったのです。
 結局、つくり手側からのリアリティを出したいという要望で製品やブランドを登場させているので、「使わせていただいている」というスタンスが強いようです。それは日本の映画製作チームのヒエラルキーとして、プロデューサーより監督が上位に立っているという力関係の話につながっています。
 そこで今度は、製作チームのプロジェクト内における力関係という部分まで対象を広げて研究を進めました。映画製作チームのヒエラルキーは国によって異なります。アメリカでは完全にプロデューサーが強く、最終編集権もプロデューサーにあります。例えばディズニー映画の『アナと雪の女王』は有名な作品ですが、ディズニーがつくっていることは知っていても監督が誰かまでは知らないですよね。もちろんアメリカでも監督の力がプロデューサーより強い場合もありますが、それはアカデミー賞を受賞した監督など、ごく一部の本当に有名な方だけです。プロデューサーが強いということは、ビジネスを第一に考えることになります。この映画をつくるとどれくらい儲かるのか、どのように資金を集めるのかを重視するわけです。逆に日本のプロデューサーは、どちらかと言えばクリエイティブ重視なので、どういう監督に撮らせるか、どういう題材や脚本にするかということを重視します。それは結果的に、有名な監督を使うほど資金を集めやすいということにつながるため、新人監督が育ちにくいという問題も起きます。ですから新人監督には資金調達ができる良いプロデューサーが付かなければならないのです。
 ただ最近では日本でも少し変化が見られます。例えば、新海誠監督の『君の名は。』や『天気の子』というアニメ映画では、飲料水やカップ麺などで実際の商品が多数スクリーンに登場し、テレビCMとの連動なども行われていました。そういう意味では、日本でも少しずつマネタイズを前提としたプロダクトプレイスメントが始まっていると言えるのかもしれません。そういう中で、今、私が興味を持っているのは、プロダクトプレイスメントがクリエイティビティにどう影響を与えるのかということです。企業の商品やブランドを映像中に出すことで、ストーリーや結末に影響を与えたりするのかどうか。また、映画製作においては、マネタイゼーション重視かクリエイティビティ重視かということも大学院の博士課程時代から研究しているテーマです。もしかしたら両立できる完璧な地点があるかもしれないと思いつつ、研究を続けています。

■では、研究室の学生はどのようなことに取り組んでいるのですか。

 非常に面白い卒業研究をしている学生がたくさんいます。例えば、LGBTに対する広告の研究。大手広告代理店によると、広告におけるLGBT市場が非常に大きいのではないかと報告されています。そこでその学生は、ストレートの人にもLGBTの人にも受け入れられる広告とはどういうものかという視点で研究に取り組んでいるところです。例えば結婚式のCMでは、男女のカップルの画像が使われますよね。そこにもし男性同士、女性同士のカップルが混ざっていたらどう感じるのかというアンケート調査を実施しようとしています。海外では、広告の中にLGBTの要素を入れたほうが、その企業が多様性を受け入れていると好感を持たれるそうです。果たして日本ではどうなのかということを調べています。
 また、ロケーションツーリズムに関する研究をしている学生もいます。ロケーションツーリズムとは、映画の舞台になった街に行く、いわゆる“聖地巡礼”のことです。ただ、番組や映画が放映されている間はすごく人で賑わいますが、番組終了後も継続的に観光客誘致に成功している例は少ないです。そこで実際にロケーションツーリズムを行っている側は、何をもってロケーションツーリズムの成功と考えているのか。実際にどういうオペレーションで行っているのかということを調査しています。現在は、映画のロケ地を誘致する団体「フィルム・コミッション」の全国各地の担当者に連絡を取り、インタビューを行っているところです。
 いずれのテーマも、学生それぞれの興味に従って決めたものです。私は学生の興味や疑問をどう研究にし、論文にするかということを指導しています。題材は何でも大丈夫という姿勢で進めているので、この研究室の研究テーマは非常に多様化しています。

■9月から始まった専門演習についてもお聞かせください。

 「映画プロジェクト開発」という専門演習です。この演習では、学生に映画の企画をしてもらい、資金調達に向けた企画書作成までのプロデューシングワークに取り組んでもらいます。グループにわかれて、どういう種類の映画をつくるのか企画し、マーケティングやターゲティングまで学生にしてもらう予定です。まだ始まったばかりですが、つくりたい映画がある学生や斬新な切り口で企画を立てる学生が出てきてくれたらと期待しています。また、この演習では、私と一緒に教える演習講師が現役のプロデューサーなので、優秀な企画があれば実際に映画化に向けたアクションを起こす可能性もあります。

■最後に受験生・高校生へのメッセージをお願いします。

 高校までは生徒と呼ばれますが、大学からは学生と呼ばれます。呼び方が変わる分、学び方も変わるのではないでしょうか。高校までは教えてもらうという受け身の学びでしたが、大学は自分の学びたいことを自ら学ぶことができます。
 メディア学部を目指す人はメディアに興味があり、その多くがクリエイティブなことをしたいと思っているでしょう。本学部ではそういうクリエイティブなことももちろん学べますし、もっと技術寄りのことも学べます。ですから技術を極めることも可能です。あるいは、コンテンツビジネスや社会的な側面からメディアを捉えることもできます。
 また、本学部は学びのガイドラインとしてコース制を採っていますが、そこに縛りがあるわけではなく、非常に柔軟に好きなことを選んで学べます。例えば、自分はゲームをつくりたくて入学したけれど、大学で学んでいるうちに映画に興味がわいたとなれば、途中で方向転換することもできます。
 メディアという分野は非常に幅広いです。その分、視野を広く持つことができると思うので、みなさんもぜひ色々なものに興味を持ってみてください。

・次回は11月22日に配信予定です