大学の学びはこんなに面白い

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発毛の仕組みやヘアダメージ、くせ毛など、毛髪と頭皮に関する幅広い研究を手がけています。

2019年4月23日掲出

応用生物学部 岩渕 徳郎 教授

岩渕 徳郎教授

 大学時代は生化学を学び、大手化粧品メーカーに就職後は化粧品だけでなく、微生物や海洋生物の研究にも携わっていたという岩渕先生。アメリカの大学で活躍された毛髪研究の大家と知り合い、人間の毛髪が生えたり抜けたりする仕組みに興味を持って研究を始めたそうです。今回は、来年度からの応用生物学部の新しいカリキュラム内容と先生のご研究について伺いました。

■2020年度から始まる2専攻体制について、お聞かせください。

  応用生物学部は、2020年度から「生命科学・医薬品専攻」と「食品・化粧品専攻」の2専攻体制になります。そして3年次に「生命科学・医薬品専攻」に所属する学生は、生命科学コースか医薬品コースのどちらかを、「食品・化粧品専攻」に所属する学生は、食品コースか化粧品コースかを選ぶ形になります。従来は専攻ではなく、3年生で4つあるコースの中から1つを選ぶというスタイルでした。しかし、次年度からは入学する時点で、ある程度、自分の専攻を絞り、学びたいことがわかっている状態の学生を集めることになります。
 それに伴い、カリキュラムも変わります。具体的には1年生の後期あたりから、専門的な授業を入れる予定です。学びたいことが明確な学生にとっては、早い段階から集中して専門を学べる、つまりそこにかける時間が長くなり、より深く学べるのでメリットが大きいと思います。学生自身も、早く興味のあることを学びたいと思っているでしょうからね。
 とはいえ、1、2年生の段階では専攻に関わらず、分野全体に関わる生物や化学の幅広い基礎知識、また基本的な実験のスキルを、身に付けてもらうことは、従来と変わりません。ただ、そこにプラスして1年生後期か2年生くらいから初歩的な専門を扱うようにしようということです。一般に大学では3年生になってから専門を決めるところが多いですが、本学部ではそれより早く専門に触れられる形になります。どの授業をどの学年に入れるかは、これから詰めて決めていきますから、また具体的なことは改めてお知らせしたいと思います。

■では、先生の研究室で取り組んでいることを教えてください。

「皮膚生化学研究室」と名づけて、毛髪に関する研究をしています。研究には大きく2つの柱があって、ひとつは学生やおそらく高校生の皆さんも一番興味のある、ヘアダメージやくせ毛に関する研究です。例えば、ヘアダメージの研究では、色々な毛染め剤を自分たちでつくって毛髪を染めて、その物性を見ます。具体的には引っ張って強度の低下を見たり、キューティクルの形成がどう変化したかなどを電子顕微鏡で観察したりします。また、ダメージ系でも研究の方向が2つにわかれていて、毛染め剤やシャンプーなどを色々つくって試す研究と、くせ毛のように髪そのものを対象にしている研究があります。くせ毛の研究は、直毛との違いを調べていて、くせ毛の改善を縮毛矯正以外でする方法を考えたりしています。
 もうひとつの柱が、私のそもそもの専門である、なぜ毛が生えるのか、抜けるのかという研究です。毛髪には毛周期があって、伸びる時期と抜けていく時期、次の毛が生える時期があります。それを繰り返すサイクルを毛周期と言うのですが、それはどのようにコントロールされているのかを知りたいのです。それを調べる方法は色々ありますが、私が研究しているのは、実際にヒトで毛髪が生えるという薬、具体的には免疫抑制剤を対象にしています。臓器移植を受けた患者さんは術後、免疫を抑制しないと拒絶反応を起こしてしまうため、免疫抑制剤を服用するのですが、そうすると副作用で多毛になります。しかし、発毛の観点からすれば、その多毛となることが主作用であり、免疫抑制が副作用と捉えられるわけです。実はそういう例はいくつもあります。例えば、市販されている有名な発毛剤は、もともとは血圧降下剤で、その副作用で発毛することがわかっていて、活用されています。
 免疫抑制剤にしても血圧降下剤にしてもそうですが、結局、それらの薬を使うとヒトで毛が生えるという事実は間違いないので、そこには理由があるはずですよね。その理由を調べてメカニズムを解明しようと、世界でも数少ない研究に取り組んでいるわけです。もし、免疫抑制剤で発毛する理由がわかれば、その中のどこかのステップを使って、より良い発毛薬を探すこともできるかもしれません。免疫抑制剤の発毛に作用する部分だけを使って、免疫抑制はしないようにするということも可能になりますから。
 それからこれ以外に、もうひとつ研究室で取り組んでいる研究として心理学があります。

■心理学の研究では、どんなことをしているのですか?

例えば、私たちが初対面の女性を見るとき、どこに目が行くのかという研究があります。また、髪の色を変えると、どう印象が変わるかといったことも調べています。そもそも化粧というのは、見せたい自分をつくることですよね。つまり自分の中にイメージがあって、こうなりたい、こう見られたいという思いがあるわけです。そのためには、具体的に色をどうすれば良いのか、自分の顔立ちの特徴はどんなものか。それにあわせて、毛髪色やヘアスタイルを変えると、印象はどう変わるのかということを調べています。あるいは、どういう髪色のときに、口紅の色はどういう色が良いのかということも研究しています。
 この研究では、歩きスマホのご研究などをされているコンピュータサイエンス学部の菊池眞之先生にご協力いただいて、視線追尾の実験も行っています。例えば、男性が女性を見る場合と、女性が女性を見る場合、視線はどう変化するのかといったことを調べて、比較したりしました。このように他学部と一緒に研究しているものもあります。

■最後に受験生・高校生へのメッセージをお願いします。

化粧品コースを希望する学生の多くは、化粧品を使うのが好きだから、化粧に興味があるからという理由で選ぶのだと思います。しかし、それはユーザーの立ち位置であって、化粧品を研究するということは、つくる側、企画する側の立ち位置で考えなければなりません。ですから、難しいかもしれませんが、少しでもつくる側の視点を持ってもらえると嬉しいです。例えば、つくる側には、化学や生物、心理学といった学問が必要になります。特に化粧品は化学の塊ですからね。もちろん使う側の視点も大事ですが、それだけでは足りません。そのことをぜひ、知っておいてほしいと思います。
 また、私の研究室の学生には、論理的に思考する力を身に付けてもらおうと、卒業研究を通してトレーニングをしています。高校までの先生や親御さんが用意した、答えのある世界で過ごしてきた多くの学生は、自分で考える必要がないためか、あまり考える癖がついていません。ですから大学では失敗しても良いので、自分で考えて行動する経験を積んでもらいたいと思っています。皆さんもぜひ、自分で考えて答えを探す経験を本学でしましょう!

・次回は5月17日に配信予定です