自分の健康上の悩みを解決し、その結果をもとにスマホアプリを開発する研究をしています
メディア学部メディア技術コース 千種康民 准教授
寝入りの悪さや二度寝、食生活の乱れなど、学生が抱える健康や生活習慣の問題を研究テーマに設定し、学生自身で解決し研究するというユニークな取り組みを行っている千種先生の研究室。今回はその取り組みのいくつかをご紹介いただきました。
■先生の研究室ではどのようなことに取り組んでいるのですか?
「健康メディアデザイン研究室」という名前で、自分自身の健康問題のデータを取りながら解決をはかり、その結果をもとにスマートフォン(以下スマホ)の健康アプリケーションを企画開発することに取り組んでいます。この研究を始めたきっかけは、学生との会話にありました。もともと私の研究室では拡張現実を応用したアプリケーション(以下アプリ)の研究開発に取り組んでいたのですが、あるとき、卒業研究生から「睡眠状態が悪くて朝起きられないために勉強の意欲がわかず、1日の時間設計もうまくいかない」という話を聞いたのです。それならその睡眠の悩みを解決する取り組みを卒業研究のテーマにしてはどうかと提案したところ、その学生は意欲をもって研究に取り組むことができました。それを機にこの研究室のテーマを健康メディアデザインとし、研究を進めています。
学生の多くは、睡眠やストレスの問題など、病院へ行くほどではないものの改善したいと思っているさまざまな健康や生活習慣の悩みを抱えています。ですが、具体的にどのように解決したら良いかはわかっていません。また、世の中にある色々な方法を知って、取り組んだとしても、三日坊主で終わることが多いのです。そこでこの研究室では自分の健康上の問題改善をテーマに、日々の行動を記録し、そのデータを分析して自分自身で改善していくことに取り組んでもらっています。
例えば、多くの学生がテーマにする二度寝の問題。朝、なかなか起きられず、30分、1時間と二度寝をしてしまう学生が多いのです。そこで二度寝をなくすための具体策を調べてもらい、その中から自分に合ったもの、続きそうなものを1つ選んで1~2週間ほど取り組み、記録します。すると実感としてもデータという目に見える形でも効果が出てきます。結果が伴うとモチベーションが上がるので、続けやすくなるのです。具体的には二度寝の場合、シンプルな対策が多く、単純に体を動かすこと、そして頭を使うことで目が覚めると考えられます。それを踏まえて有効だった例に、目覚ましを2つ用意するという取り組みがありました。1つはスマホのアラームを枕元でかけ、もうひとつは歩いて止めに行かなければならない場所にうるさい目覚まし時計を置きます。そうすると必然的に歩くので、その間に目が覚めます。これが物理的な方法のひとつです。
それ以外に効果があったもので、SNSの返信時間帯を入れ替えるというものがありました。あるツイッター好きな学生は友達も多く、日々、ツイッターの返信にたくさんの時間を割いていました。その学生の場合、たいてい夜、寝る前に返事を投稿していたのですが、寝る前にスマホを見ないほうが睡眠に良いという話は知っていました。それを踏まえて、夜の返信を我慢し、朝、起きたら返信するというルールをつくって取り組んだのです。朝、一生懸命に返信作業をして頭を使うので、すっきり目が覚めます。これは結局、寝る前に返信していた時間を起床後に移動しただけのことですが、そういう工夫によって寝入りが良くなり、劇的に二度寝がなくなったのです。このように解決策は人それぞれに合うものがあるので、その人に合ったものを選んでもらいます。
メディア学部では、3年生後期に「創成課題」というプレゼミに取り組みます。本研究室の「創成課題」は、今、話したように学生が健康上の悩みの解決をテーマに取り組むのですが、半年ほどで改善する人も多いです。解決したテーマで研究を続けても力が入りませんから、多くの学生は4年生で卒業研究を始める際に、新しいテーマについて話し合います。例えば、肩こり、首こり、眼精疲労をテーマにする人もいれば、夜型を朝型にしたい、ストレスを低減したいというテーマに取り組む学生もいます。そして4年生の卒業研究でも、テーマに対してどんな対策があるかを調べて実践し、データをとっていきます。その記録をもとに最終的にはスマホのアプリを開発し、IT系企業への就職に結びつけるのです。
■今年の卒業研究で、面白いものはありましたか?
いくつかありますが、例えば今年の大学コンソーシアム八王子で優秀賞を受賞した卒研があります。「BPMランニング法に基づく新しい初心者向け健康アプリの開発」というテーマで、ランニング時のビート音について研究したものです。今は健康のためにランニングを始める人が多いですが、大半は長続きしないというのが実情です。それを解決しようと学生が研究しました。注目したのは、BPMと呼ばれる1分間に刻むビートの数です。これをランニングに応用したものがBPMランニング法で、一般に160BPMの音楽を聴きながら走る、つまり1分間に160回のビートがある音楽に合わせて走ると、走りやすいと言われています。そこで学生が実際に自分で走って、BPM数値と走り終わったあとの充足感、疲労感について調べました。するとやはり160~180BPMが、充足感が高く、疲労感が低い状態の領域だとわかりました。しかし、それは人それぞれですよね。上級者はもっと速く走りたいかもしれませんし、高齢者はのんびりと走りたいと思っているかもしれません。そこで走る人ごとに最適なランニングBPMを探り、その人に合ったBPMの曲をかけながら走れるというアプリを開発しました。具体的には、提案されたBPMの曲で走ってみて、その評価を5段階で入力していきます。それを何度か行い、蓄積されたデータからその人に合うBPMを表示し、曲を提案するというものです。
■卒業研究を通して学生にどんな力を身に付けてほしいですか?
この研究室では卒研の経験がIT系企業への就職に結びつくように考えて進めています。研究に取り組むことで学生の健康改善を図り、さらにデータサイエンス、データを分析する力を身に付け、アプリを開発するという経験をすることで、IT系企業にアピールできるようにしているのです。データサイエンスは今、AIと同じくらい注目されています。ITエンジニアがこの力を身に付けて、自分なりにデータを分析して活用できるようになると、現場で活躍できるはずです。
世の中には本学部以外にも情報系の大学や学部はたくさんあり、それらは就職活動でライバルになります。そのなかでも他大学とこの研究室の学生との大きな違いは、データを見て分析し、コメントできる力だと思います。そこに意識的に取り組んでいます。毎週、複数の学生のデータをみんなで見て話し合い、先週とどう違うか、データからどんなことが言えるか意見を言ってもらっています。この力は流行りすたりがなく、社会で長く使えますから、そういう力を身に付けてもらうようにしています。
■最後に受験生・高校生へのメッセージをお願いします。
恐らく多くの受験生は睡眠時間を削って勉強していると思います。しかし、それは逆効果です。しっかり睡眠をとり、朝ご飯を食べ、一日をフルパワーで学べる状態にすることが大事です。当人は意外と気づいていないかもしれませんが、睡眠や食生活といった問題を改善できれば、思っている以上の能力が発揮できるはずです。これはうちの研究室の学生が物語っていることで、研究室に配属後、半年ほどでほとんどの学生の成績が上がっています。それだけ健康上の問題が影響を与えていたといえるのです。みなさんには自分が思っている以上の能力があります。それをきちんと発揮できるよう、自身の健康に注目してください。また、メディア学部は医療分野ではありませんが、健康にかかわる研究ができるところです。今、健康アプリ市場は拡大していますから、今後、ニーズはますます増えていきます。本学部でぜひ一緒に研究しましょう。
・次回は2月28日に配信予定です