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細胞プラスチックスの研究はいわば“種”。そこから多様な研究が芽生えて、色々な人と未来社会に貢献できたら面白い!

2020年7月10日掲出

応用生物学部 中西昭仁 助教

応用生物学部 中西昭仁 助教

  木や草の糖質分と酵母を使ってバイオエタノールをつくる研究や細胞内に油を蓄える性質を持つ緑藻を利用してバイオディーゼルをつくる研究などに取り組んできた中西先生。現在も微生物を応用したものづくりの研究を精力的に進めています。今回は、その中でも緑藻の細胞からつくる細胞プラスチックスの研究についてお話しいただきました。

■先生の研究室では、どのような研究に取り組んでいるのですか?

  私の所属している研究室は「生命機能応用研究室」という名前で、微生物やその細胞を使って何かをつくろうと取り組んでいます。微生物と聞くと、目に見えない生き物だからちょっと怖い、危ないという印象があるかもしれませんね。でもすべてがすべて悪い微生物ではありません。例えば、ヨーグルトや納豆なども乳酸菌や納豆菌という小さな生き物の成果でできています。そのくらい身近なものなのです。もちろん、中には腸管出血性大腸菌O157といった悪さをするものもいますが、そういう悪い微生物ではなく良い微生物をうまく利用して何かをつくるということは、ずいぶん昔から行われてきたことです。
  この研究室でも良い微生物を使って何かをつくろう、今までに誰も発想していない研究に挑戦しようということで取り組んでいます。その一例が「細胞プラスチックス」の研究開発です。具体的には、クラミドモナス属という光合成微生物の一種を使って、細胞プラスチックスをつくることに成功しました。クラミドモナスは、例えばプールサイドなどによくある緑色の部分にいることがあります。この緑藻の細胞同士をグリセリンなどのちょっと粘り気のあるものでつなげて、細胞レイヤーをつくります。ただ、細胞自体はもともと水の中にあるものなので、そのまま使うと水に混ざってしまいます。それではプラスチックスという固体の素材としては使いものになりません。そこで本学工学部の入谷康平先生が専門とする有機化学の力をお借りしました。入谷先生は、二次元ポリマーという平面上にきれいに整列する有機分子の研究をされていて、実際に二次元ポリマーシートを開発されています。そのシートを撥水性のあるものにしてもらい、緑藻の細胞レイヤーと交互に積み重ねることで、水に触れても溶けない緑藻の細胞プラスチックスができあがったのです。

■細胞プラスチックスの着想を得たきっかけは? また、それを使うことでどんなメリットがあるのでしょうか?

  クラミドモナスでものづくりをする場合、その発想はクラミドモナスに何かこちらが欲しい物質をつくらせることが基本で、必ずその欲しい物質をクラミドモナスから抽出する工程が含まれています。ところがその抽出作業は結構大変なのです。なぜなら細胞がとても固いから。そこでこの細胞の固さをなんとかできないか、簡単に壊せないかと、多くの研究者が頭を悩ませてきました。私も当初はそのように考えていたのですが、新しい発想で研究をということで、その細胞壁の固さを逆利用して何かをつくれないかと考えてみたのです。細胞が固いということは、細胞そのものをつなげたら何かできるのではないかと。発想の転換ですね。それが今回の細胞プラスチックスを考える原点になりました。
  また、クラミドモナス属のような光合成微生物の細胞でつくったプラスチックスの大きなメリットは、二酸化炭素を固定できる点にあります。光合成微生物は、二酸化炭素を吸着し、水と日光をエネルギー源に増えるという特徴があります。つまりクラミドモナスの細胞自体が二酸化炭素を炭素源にできていて、培養して増やすときも炭素源を二酸化炭素だけで増やすことができるのです。これでプラスチックスをつくるということは、炭素源が二酸化炭素からつくられている素材でプラスチックスをつくるということになります。ということは使用後に廃棄しても、細胞自体はもともと緑藻ですから環境で分解されるので、環境に残存することは考えにくい。また、二酸化炭素からできたものが廃棄後は自然に分解されて二酸化炭素に還るのですから、私たちの環境中にある二酸化炭素の量は実質、変わらないとも言えます。そこが従来からある石油由来のプラスチックスとの大きな違いです。この研究は、二酸化炭素の削減など未来社会を見据えた革新的な低炭素技術のシーズを探索・創出するというコンセプトで実施されている「2019年度NEDO先導研究プログラム/未踏チャレンジ2050」に採択されています。

■細胞プラスチックスの研究における課題と、今後の展望をお聞かせください。

  先ほど、緑藻の細胞同士をつなげた細胞レイヤーと撥水性のある二次元ポリマーシートを交互に重ねて細胞プラスチックスをつくることに成功したと言いましたが、これを生成するときの過程はかなり大変でした。ですからもっと簡単に細胞同士をつなげられないかと、今、挑戦しているところです。例えば、二次元ポリマー以外のものでコーティングする可能性も探っています。もちろん共同研究者である入谷先生がご専門の有機化学の力は不可欠ですから、今後も一緒に研究を進めていきます。また、クラミドモナス属以外の光合成微生物も使えるかもしれません。実はすでにいくつか候補として考えている微生物がいるので、今後はその辺りの研究も進めていけたらと思っています。
  現状、細胞プラスチックスをつくることはできましたが、これは決してゴールではありません。NEDOの「未踏チャレンジ2050」に採択されていると言いましたが、これは次のシーズ(種)、つまり色々な研究の卵を生み出すというコンセプトで研究が採用されています。ですからこの細胞プラスチックスの研究は、そういう素材ができて終わりではなく、むしろそこからがスタートだと思っています。これを発端に、これから産業化していくためにより効率良く細胞プラスチックスを生成する方法や仕様に合うシステムにする方法を考えたり、物性評価のシステムは何が最適で加工性や安全性はどうかを検証したりと、派生する研究がたくさんあります。そういう色々な研究へと広げていくためのシーズ(種)として、この研究が位置付けられているということが一番のポイントであり、だからこそ面白いし夢が広がるところでもあると思っています。この研究は、私たちの力だけでは完成できませんし、当然、私一人の力だけでも完成できません。さまざまな人と手を組みながら、これからどんどんプロジェクトを拡大していき、研究を進めていきたいと思っています。もし受験生・高校生の皆さんがこういうことに興味を持って、本学部に入ってくれるなら、ぜひ一緒に研究をしたいですね。
 

■受験生・高校生へのメッセージをお願いします。

  大学では、自分のことを大切にしてくれる人や自分のことを本気で考えてくれる人のために力を発揮できるように、“考える力”を養ってほしいと思っています。そのためのひとつのツールとしてあるのが研究です。研究は結果以外にも得るものがたくさんあります。そのプロセスで物事を論理的に考えるなど、学ぶことがたくさんあるのです。そういう力は、研究や仕事だけでなく、ひいては人間関係を潤滑にする一助にもなるはずです。ぜひ研究というみんなで一丸となって一生懸命に取り組む経験を通して、“考える力”を身に付けてください。