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アナログとデジタルを隔てることなく活用して、より面白いデザインを形にしたい!

2020年8月7日掲出

デザイン学部 工業デザイン専攻 堀川卓哉 助教

堀川卓哉 助教

  世界的な名作デザインと言われている椅子を廃材で再現したり、酒造メーカーの酒瓶や和ろうそくのデザインをしたりと、幅広いプロダクトのデザインに取り組む堀川先生。今回は先生が手掛けてきた作品や現在取り組んでいる研究についてお聞きしました。

■先生はこれまで、どのようなことに取り組んでこられたのですか?

  私は一貫して立体物、モノをつくることに興味を持っています。常に自分の手でつくってみるというスタンスで取り組んでいて、例えばこれまでには廃材を使った家具などを制作しました。それは、どちらかというと廃材やゴミという問題点を表出させるような問題提起型のプロダクトで、ややアート寄りの制作物と言えます。
  一方で、社会が抱える何かしらの問題を解決するためのプロダクトをつくることもしています。例えば、2018年に開催された「第11回シヤチハタ・ニュープロダクト・デザイン・コンペティション」に“イニシャル三文判”という作品を出品し、審査員賞を受賞しました。このコンペのテーマは「しるしの価値」ということで、自分であることの「しるし」(アイデンティティ)を表すためのプロダクトもしくは仕組みを提案するというものでした。そこで私が着目したのは、当時の日本で増え始めていた外国人の就労者や居住者のための印鑑です。日本で生活するうえでは、何をするにも捺印を求められる場面が多く、印鑑はとても大きな存在です。一方、日本人でも文房具店や100円ショップで自分の名前の印鑑を見つけるとうれしくなったり、自分が認められているような気持ちになったりしますよね。そういう気持ちは大事だと思っていて。もし外国人の方が自分のイニシャルの印鑑を見つけたら、同じような気持になるかも知れません。少なくとも自分のイニシャルのハンコがあったという発見にはなりますし、便利にもなるだろうと思い、提案しました。
  作品自体は、レーザーカッターで板材にイニシャルを切り出し、それをアクリル棒に接着したものです。アルファベットの組み合わせ26字×26字=676種類をつくるのは大変でしたが、結果として、コンセプトや社会的ニーズに対する提案と作品のクオリティの高さが評価され、受賞につながりました。

イニシャル三文判

イニシャル三文判


■現在は、東京工科大学が全学的に取り組んでいるAI研究にも関わっているそうですね。

  今、コンピュータサイエンス学部の先生と協力しながら、ビジュアルプログラミングソフト「Grasshopper」を活用して、AIによるスケッチ線の生成の研究に取り組んでいます。デザインをする際、はじめからどのようなデザインにするかが決まることは、まずありません。何度もスケッチをしながら手を動かして、あらゆる可能性を描いていくところから始まることがほとんどです。スケッチとは、まるでくじ引きみたいに、自分が求めるラインが出てくるまで、何度も何度も線を繰り返し描いていきます。同じところに線を何度も描いて重ねていくうちに、なんとなく像が定まってきて、それをまた別の紙に新しく描き直して……ということをしていきます。そしていくつもの描いた線の中から視覚的に良さそうなもの、自分のイメージと合致するものを選択していきます。そういう人間が手を動かしながら目で見て決めるという、身体的・感覚的にしていることをAIで実現してみようと取り組んでいるのです。
  現状、最初に基準となる線を1つ描くと、それをもとにAIが色々な線の可能性を出してきて、その中から人間がこれと思うものを選ぶと、その選択をもとにさらにAIが線の候補を出してくれるというものを考えています。
  目標としては、プロのデザイナーが使用しても使いやすく、絵が苦手な人や身体的に描くことができない人に対しても、描くことを躊躇せずにスケッチやデザインができるものになればと思って進めています。

■AI研究は、これまでに先生が取り組んでこられたことと異なる挑戦に感じますが、どういうつながりがあるのですか?

  これまで、手を動かしてモノをつくっていくなかで、設計ソフトのCADを使うようになり、その中にはコンポーネント(部品)同士をつなげることで3D形状のプログラミングができるビジュアルプログラミングという要素もあったので、そういうものも同時に勉強してきました。そこから今回のAI研究の話につながっています。ですから最初は手でモノをつくるところから始まって、CADや3Dを扱うようになり、ビジュアルプログラミングを使うようになりと、少しずつスキルを変化させながら続けてきた形ではあるのです。
  もちろん、これまでは手でモノをつくってきたタイプなので、画面上やプログラム上で描画するのは初めてですが、その分、面白さがあります。今はAIを活用してスケッチという平面的なものを実現しようとしていますが、いずれはそこから立体的なモノづくりにたどり着けたらと思っています。私の中ではアナログとデジタルは並走している技術なので、それらを隔たりなく、実際の空間でも仮想空間でも同じような扱いができたらと考えています。デジタルとアナログを分けたり、対立させたりするのではなく、両方をきちんと活用することで、より面白いデザインが生まれてくる可能性があるだろうと思って取り組んでいるのです。

■先生がデザインの道に進むことを決めたきっかけは? またこの分野の面白さとは?

   もともと家具をつくったり、絵を描いたりすることは好きだったのですが、高校3年生のときに、教育実習に来ていた東京藝術大学4年生の実習生の方が、たまたま私の絵を見て、「上手だから芸大に行けば?」と勧めてくれたのです。そこで初めて、美術大学という選択肢を知りました。それで夏休みから美術大学受験用の予備校に通い始めて美大に入り、幅広いことができるというデザイン科でデザインを学び始めたのです。
  プロダクトなどのデザインで面白いと感じるのは、自分で立てた仮説を自分で立証していくところですね。自分の考えたことを、誰かに答えを聞くのではなく、自分の知識と技術で形にしたいと思って取り組んできました。技術的な部分、制作方法で仮説を立てて、自分で実現してみるということです。結局、自分で試さないと気が済まないんですよね(笑)。
 

■教員として学生に身に付けてほしいこととは?

   観察力を身に付けてほしいです。スケッチやCADの操作といったアウトプットの方法は、大学で学べる技術ではあります。ですがそれ以前に普段からできることとして、やはりモノを見て、疑問に思う力、当たり前のことがなぜ当たり前なのか説明できたり、当たり前のことに疑問を呈したり、きちんと問題化する力を磨くことも大切です。解決方法を考えるばかりでなく、どういうことを問題とするかも大事なので、それを見つける力という意味で観察力が大事だと思っています。
  観察力があると物事が違って見えてくるはずですから、デザインに携わりたいという人はその力を持っている方がより面白いことができるのではないでしょうか。この形は珍しいとか、人の動作を見て「こういうことに困っているのかな」といったことが見えてきて、それがデザインの提案につながることもありますから。
 

■受験生・高校生へのメッセージをお願いします。

   昨今、デザインはモノなどのハードに限らず、ソフト面も領域として加わり、多様化しています。グラフィックや立体物での解決方法だけでなく、例えばスマートフォンのインターフェースを変えれば問題が解決するといったこともあります。ですからデザインと一口に言っても非常に幅広いのです。
  東京工科大学のデザイン学部は、事前に専門的なデザインや美術の勉強をしていなくても、入学後に基礎的なことから丁寧に学べ、しっかりデザインを形にする力が養えるところです。また、新しい領域の技術を扱うなど、先進的なことに取り組んでいる学部でもあります。ですから、どんな分野のデザインにおいても対応できる力を身に付けられる、良い環境が整っていると思いますよ。