スマートデバイスを利用した人間共存型ロボットの開発に挑戦しています!
工学部 機械工学科 禹 珍碩(ウ ジンソク) 助教
幼い頃からモノづくりが好きだったという禹先生。やがてロボットに興味を持つようになり、自分の手でロボットをつくりたいと研究の道に進んだそうです。今回は、先生が取り組んでいるご研究の詳細について、お話しいただきました。
■先生はどのような研究に取り組んでいるのですか?
人のパートナーになるような“人間共存型ロボット”の研究開発をしています。現在、メインで取り組んでいるのは、多くの人が所持しているスマートデバイス、いわゆるiPhoneやアンドロイド端末といったスマートフォン(以下、スマホ)などの端末をロボットに用いる研究です。
最近のスマートデバイスは高スペックで、AI的な要素や音声認識、音声合成など、さまざまな機能が搭載されています。そんな高性能で身近な端末を、ロボットのプラットフォームに利用しようと研究を進めているのです。ただ、スマホ自体は画面とスピーカーとマイクしかなく、ロボットの胴体に当たる部分がありませんよね。そこで充電台をロボットの胴体に使うことを考えました。台に差し込むと充電ができ、ロボットにもなるというものを開発しているのです。
また、人間共存型ロボットは、人にやさしく、誰もが使いやすいものでなければなりません。その点、スマートデバイスは、画面をタッチするだけで操作できるなど、ヒューマンインターフェースの観点からも優れていて、人とロボットをつなぐようなシステムを持っています。それをうまく用いて、例えばホテル内の案内や高齢者の見守りを支援するサービスロボットとしての運用を目指しています。
具体的な研究内容としては、ロボットのデザイン、機構、制御などの研究をしています。ハード面では、ロボットシステムのモジュール化を進めているところです。みなさんは、スマホの機種を決める時、好みで選びますよね。それと同じように、ロボットも好みで選べる、つまりオーダーメイドのようなロボットをつくれるようにしようと取り組んでいるのです。例えば、土台には車輪型で動くものと、固定型で安定して置けるものがあり、選択できるようにするなど、胴体部分に差し込むパーツを変えることでデザインを好きにカスタマイズできるようにしようと考えています。
また、デザインを選ぶ支援ツールとして、ロボットの各パーツがAR(オーグメンテッドリアリティ、拡張現実)で表示されるシステムを開発しているところです。いずれはインターネット上でロボットの上半身や下半身を選んで、さらに自分の使っているスマホを選ぶと、どういう見た目のロボットになるかがわかるアプリケーションをつくりたいと思っています。
さらに、このロボットは発話する際に腕を動かし、ジェスチャーを交えたり方向を指し示したりすることができます。人間のコミュニケーションには、言語的な要素と非言語的な要素があり、ジェスチャーや身振り手振りは後者に当たります。私を含め、多くの人が人間共存型ロボットには、最終的に人間のパートナーとして人間らしいことをしてほしいと期待していると思います。それには、ある程度、人とロボットがコミュニケーションできなければなりません。ですから私は、人間のコミュニケーションの根本的な仕組みを理解する研究にも取り組んでいます。コミュニケーションとは単なる発話ではなく、相手の状態を読み取り、それに応じて話すものです。いつもロボットが単調な声で人に話しかけるのではなく、相手の状態、機嫌の良し悪しなどを判断して、それに合わせた発話をしないと、人間らしさを表現できないのです。そういうことも意識して、ロボットの認知モデルや感情モデル、発話モデルを考慮したシステムを開発しています。例えば、人がジェスチャーとして手を振っている速度を見たり、顔の向きを捉えたり、AIの要素として表情を読み取ったりもできます。そういう情報からロボットが相手の状態を予測し、発話のパターンを選択するようにしようと取り組んでいます。
一方、ソフトウェア面では、センサ周りの研究をしています。例えば、ロボットで高齢者の見守りをするには、ロボット内部のセンサの履歴情報が必要です。スマホの場合は、GPSが搭載されているので、今、その人がどこにいるかというデータを取得できます。そのデータを見て、家に1日中閉じこもっている高齢者に対しては、「外に出かけては?」とロボットが促すことも可能です。また、ロボット単体だけでなく、サーバーやさまざまなIoT(Internet of Things)技術と連携することで、よりきめ細やかなサポートができるだろうと考えています。例えば、冷蔵庫の中身が少なくなっていたら、その情報を把握したロボットが「近所のスーパーで特売があるから行きませんか?」と外出を促すことも考えられます。何より重要なのは、その高齢者が住んでいる地域のスーパーや公民館などに出かけることで、さまざまな人と会い、コミュニケーションをとることです。このように人と人がコミュニケーションをとれるように、ロボットがサポートするという形を目指しています。
■研究の課題としては、どのようなことが挙げられますか?
一番の課題は人間の感情をロボットに認識させることです。人はそれぞれ嗜好が違いますし、話すパターンも違います。その人に合わせてロボットを反応させるには、いかにセンサで情報を読み取って、処理するかが大きな課題になります。最近、マスコミではAIが何でもできるかのように取り上げられがちですが、実際はそうではありません。人間の動作やコミュニケーションにおける返事などは予測できないものが多いのです。それをどう捉え、どう処理するかを考えないといけません。
また、スマホ内部の音声認識機能や言語処理機能を統合して、いかにうまく活用するかも課題だと思っています。既存のさまざまなシステムモデルを組み合わせて、新しいサービスを生み出すことも考えていく必要があるのです。
■今後の展望をお聞かせください。
人間共存型ロボットの社会実装を成し遂げたいですね。また、今は新型コロナウイルス感染症の流行で、ソーシャルディスタンスを保つよう言われています。しかし、人と人との関係は大事なもので、そこに距離ができてしまうと色々な問題が生じます。例えば、独居の高齢者は社会から隔離され、うつ病や病気になることもあり得ます。現状では、そういう高齢者をサポートする人でさえ、直接会いに行くことが難しいケースもありますから、今後、より深刻な状態になるのではないかと危惧しています。
私自身はロボット研究者ではありますが、人間のことは人間がサポートすべきだと考えています。しかし、どうしても人間が行けないときに、次の手としてロボットが対応すべきだとも思っています。今後は、ますます非対面サービスやロボット、AI、IoTを活用したサービスの導入が活発化することでしょう。ですからポストコロナに向けて、どのようなロボットのシステムで、どのようなサービスを行うかを考えることは、とても重要だと思っています。
■ロボットを研究する面白さとは?
研究で一番面白く思うのは、やはりロボットが動き出すときですね。新しいシステムを立ち上げたとき、たいてい、プログラミングのエラーやセンサ、マイクロコントローラーがうまく動かないといった問題が生じます。それらの問題をすべて乗り越えて、ロボットが動き出した瞬間は本当に感動的ですよ。また、自分のつくったロボットのデモンストレーションをするとき、興味を持って真剣に質問してくれたりする人がたくさんいると、つくった甲斐があったなと思います。
■受験生・高校生へのメッセージをお願いします。
人生にはうまくいかないこともあれば、立ち止まることもあって、気持ちが沈むこともあると思います。でも夢があれば、その夢を実現しようとやる気がわいてくるはずです。私もこれまでに色々な問題を乗り越えてきました。ロボットをもっと深く勉強するために日本の大学院へ進学しようと決めたときも、日本語を習得することや出願書類をつくるなど、その準備はかなり大変でした。ですが自分の手でロボットをつくるという夢をかなえるには、そういうことも乗り越えるしかないと思えたから、踏ん張ることができたのだと思います。
すでに夢を持っている人は、それをこれからも大切にして、自らの支えとしてください。まだ夢がないという人は、将来の夢はこれだというものを見つけて、それをベースに人生を歩んでほしいと思います。かなえたい夢があれば、どんな障壁があっても、きっと乗り越えられるはずです。努力したことは、決して裏切りません。ぜひ夢に向かって、がんばってください!