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ゲームの面白さとは何か、どうすればもっと面白くなるかというゲームデザインの基礎を大学で経験しよう!

2020年9月11日掲出

メディア学部 安原広和 特任准教授

メディア学部 安原広和 特任准教授

  『ソニック・ザ・ヘッジホッグ』シリーズを始め、『ジャック×ダクスター』シリーズや『アンチャーテッド エル・ドラドの秘宝』といったヒットゲームのゲームデザインを手がけてきた安原広和先生。その後、ユニティ・テクノロジーズ・ジャパンで教育関連事業に携わり、2018年からは本学メディア学部の教壇にも立っておられます。今回はゲームデザインとは何かということや具体的な授業内容などをお聞きしました。

■先生はゲームデザイナーとして活躍され、現在は本学でゲームデザインを教えておられますが、そもそもゲームデザインとはどういうものなのでしょうか?

  ゲームデザインとは、人が面白いと感じるものをゲームに仕掛けて興味を持たせ、さらにその興味を引き付け続けて、遊んでもらうことを設計・デザインすることです。それはゲームの中身だけにとどまらず、売り方や宣伝方法などもすべて対象になります。例えば、みなさんがあるシャンプーを買ったとして、なぜそれを選んだのか聞くと、多くの人はその商品を知っているからと答えると思います。どこで知ったのかと聞けば、前にテレビCMで見たからといった理由を答えるでしょう。つまりそれは、先に情報を知っているからそのシャンプーを選んだわけです。
  ゲームにも同じことが言えます。もしみなさんがあるゲームを買いたい、遊びたいと思ったら、そこにはすでに知っている情報があるのです。ドラゴンがかっこいいとか、好きなアニメのゲームだとか、どこかの配信で見たというように。それはメディアの仕事です。実はゲームデザインは、そこから始まっています。あるシャンプーを使い続ける理由は、香りが良いとか髪がつやつやになるといったことがあると思いますが、ゲームデザインもそういう中身の設計から始まって、いかに人の興味を引き離さないで、使い続けてもらうか、遊び続けてもらうかというところをデザインします。それにはメソッドやデザインするための教養が不可欠です。これまでのゲーム制作のイメージは、ある一人の著名なゲームデザイナーが個人で何か考えて面白いゲームができたと思われてきたかもしれませんが、それは間違いです。そこには必ず確固たるメソッドや教養を共有している集団があります。例えば、任天堂はわかりやすい例でしょう。彼らは彼らのメソッドでもって人が面白いと思うものを地道につくっています。
  では、人が面白いと感じ、遊び続けたいと思うゲームとは、どんなものだと思いますか?答えは、“学び”のあるゲームです。例えば、ジャンプで障害物を越えるゲームの場合、ボタンを押せばキャラクターが上に飛んで、障害物を越えます。するとそこにある何か良いもの、コインなどが取れて、キランと音がして点数が入ります。それは上手にジャンプできたご褒美です。その他、次のステージに行くときや何かすごい技を決めたときなどにも、ゲームは褒めてくれます。そうしてプレーヤーはゲーム内で何かを達成するために自然とスキルを学び、伸ばしていくのです。
  ところが算数のドリルみたいに同じ問題が100個くらい続くと、誰でも飽きますよね。ゲームも同じです。同じレベルのこと、同じスキルを延々とさせられるのでは飽きます。そこでゲームは、プレーヤーにさっきとは違うことを求めます。最初はうまくジャンプができたらご褒美があったけれど、それが普通にできるようになると、もうご褒美は出ません。次はボタンを2連打して2回ジャンプして、もっと高く飛べるようになったときに、「すごい!」と次のご褒美が出されます。そうすると結果としてプレーヤーは2段ジャンプができるようになります。つまり新しいスキルを学んだわけです。それがプレーヤーはうれしいのです。次のステージやレベルに行くと違う道具を使うなど、新しいことを学ばせて、うまく使えるようになるまで褒め続けることが、ゲームでは重要な要素なのです。
  また、ゲームでは当然、プレーヤーがボタンを押したことに対してフィードバックがありますよね。そのインタラクションも大切です。人は「おはよう」と声をかけたら「おはよう」と返してもらうだけでも、うれしい生き物です。逆に無視されたら傷つきます。ゲームはプレーヤーが「おはよう」と言ったら、必ず「おはよう」と返してくれるものです。つまり、プレーヤーの行為に対して必ずリアクションがある。そして学ぶことを常に与えてくれて、できるようになれば褒めてくれる。だから私たちはゲームに夢中になれるのです。そういう仕掛けを設計することがゲームデザインです。

タイの交換留学生と教授に向けた特別講義の様子

タイの交換留学生と教授に向けた特別講義の様子


■では、授業ではどんな取り組みをしているのですか?

  1年生後期から3年生までが参加する「プロジェクト演習(インタラクティブ・ゲーム制作<ゲームデザイン>)」では、Unityというゲーム開発ツールを使って、ゲームの面白さとは何か、どうすればもっと面白くできるかということを、シンプルなゲーム制作を通して経験してもらっています。私の進め方の特徴としては、いつもひとつだけを教えることにしています。例えば「ボールが壁にぶつかるとそのボールの色が変わります。色が変わることによって遊びをつくってください」という課題を出します。そうすると学生はみんな工夫して、壁全体にボールを配置して壁全体の色を変えようとしたり、触ってはいけないものを設定して、触って色が変わったら負けというゲームをつくったりします。このように色が変わるという1つのギミックで何通りもの遊びがつくれることを体験してもらうのです。その翌週にはボールの色が変わるのではなく、ボールが当たった柱や壁が消えるというもので遊びを考えてもらいます。すると、例えばボールが当たった壁や床が消えてそこが穴になり、プレーヤー自身が落ちてしまうと負けといったゲームが生み出されていきます。このように毎週違うお題を出して、遊びを考えてもらうことで、学生のできることも回を重ねるごとに増え、どんどん複雑な遊びができていくのです。

ゲームプログラミング演習の教材の一例

ゲームプログラミング演習の教材の一例


■先生が大学というこれまでとは異なる世界へ活動の幅を拡げた理由とは?

  私自身は長らくゲーム業界でゲームデザインの仕事をしてきました。その中でゲームデザインの裏側には、何かしらの法則があるだろうと考え続け、自分なりに学びながら仕事をしてきたのです。また、私の場合は、特にアメリカでゲームづくりに携わった経験が大きいですね。日本とアメリカにはもちろん文化的な違いがありますが、人間の深い部分、面白いと感じる部分は共通していると理解するようになりました。例えば、つい目を留めて見てしまうものは、人間の脳が起こすことですから、国に関係なく共通しています。それさえあれば、最初の引っ掛かりができて、色々なゲームへと繋げていけるだろうと。そういう考えをまとめてはいたのですが、それは学問的なところとは全然違う部分で考えていたことでした。
  しかし、ちょっとアカデミックな本を読み始めると、自分が知っていたことと同じことを考えている人が世の中にいるのだと知って。いつかはゲームをもっとより良く、もっと面白くするにはどうすれば良いのかということを、アカデミックな視点で学びたいという気持ちをずっと持ち続けていました。そんなとき、東京工科大学との縁があって、自分の考えをまとめるにも学問的に学ぶにも良い機会だと思い、大学というアカデミックな世界に来たわけです。
  ゲームデザインは、まだ研究分野として確立されたものではありませんし、最初に話したようにゲーム開発会社内で共有されているものがあったとしても、一般に認識されているものではありません。ですから私自身のこれまでの経験から得た考えをしっかり理論にしていく仕事ができたらとは思っています。

  また、今でもゲーム業界では、あるゲームが流行したら、それと似たようなものをつくる会社がたくさんあります。ですがそればかりに携わっていると、ゲームデザインやゲームの面白さとは何かを知ることはできません。なぜこのゲームは売れたのか、面白いとは何かということがわからないまま終わっていくのです。逆にゲームデザインの基礎的なものを知っている人は強いです。モノづくりの技術は、2~3年で陳腐化します。ゲームの技術やプログラムも同じです。でも基礎的な素養や理論、教養を持っていれば、深いところまで掘り下げて考えることができます。そして次のアイデアに繋げることができるのです。だからこそ、学生にはその経験を大学で積み、ゲームづくりの基礎となる部分を学んでもらいたいと思っています。それが世界から遅れをとった日本のゲームを再び輝かせることに繋がるのではないかと思いますし、日本の若い世代には世界で売れるものという広い視点に立って、世界で活躍してほしいと思っています。

■今後の展望をお聞かせください。

  ひとつは、ゲームデザインを体系化したいですね。あとは、これから出てくる新しい技術やデバイス、メディアに対して、学生と一緒に新しいモノをつくっていきたいと思っています。これからはVR(仮想現実)やAR(拡張現実)がますます伸びていくでしょうし、新しいデバイスが出てきて、インターフェースも変わっていくと思います。それに将来はもっと簡単にプログラミングができる、あるいは人がプログラミングしなくても良い時代が来るかもしれません。そうなると大事になるのが、自分の発想力や個性です。AI(人工知能)に「こういうものをつくりたい」と言えば、サンプルをいくつか出してもらえるでしょうが、その中から何を選ぶか、あるいはこの部分をもう少し違う形にしようといったことが言えるのは人間だけです。機械には美しさはわかりませんからね。そういう人の発想力や個性を磨くには、やはり教養が大事だと思います。

■最後に受験生・高校生へのメッセージをお願いします。

  新型コロナウイルス感染症の流行で、色々と不自由な日々になったかも知れませんが、絶望する必要はまったくありません。むしろこういう機会を活かしてできることが、将来、絶対必要なことになるはずです。例えば、人と会わずにリモートで話し合ったり、学んだりすることが増えましたが、IT業界ではこれまでもそれが普通に行われていました。海外のゲーム開発会社は時差を利用して、例えばヨーロッパで発注したら、翌朝、中国から出来上がったものが届くというようなことが普通に行われていたのです。ですから直接会って話すことはそうありませんでした。
  今後は、人と会う・会わないということが共存していく日常になるのでしょう。そうなると、ますます自分の個性を主張する必要が出てきます。ですから、若いみなさんには自分の好きなものを恥ずかしがらずに「好きだ」と言えるようになってほしいです。好きなことは、その人にしかないものです。メディアやモノをつくる仕事では、それが一番大切です。アニメでもゲームでも声優でも何でも構いません。大好きなものがあるという人は、ぜひメディア学部に来てください。楽しくて実りある4年間になるはずですよ。