作業療法士は、対象者の人生に関われる仕事。自分自身も人として大きくなれます!
医療保健学部リハビリテーション学科作業療法学専攻(2021年4月新設)澤田辰徳 准教授
高校時代は弁護士になりたかったという澤田先生。法学部に合格しながらも、父親からの強い勧めで作業療法士になる道を選んだそうです。とはいえ作業療法士になって後悔は一切ないと語る先生に、作業療法士の魅力やご研究の話、またコロナ禍における現在の作業療法学科※の授業についてお聞きしました。
■新型コロナウイルス感染症が流行している今期、医療保健学部作業療法学科※は、どのような形で授業を進めているのですか?
作業療法学科※では、オンラインと対面の併用で授業を進めています。前期や後期の始めは、リアルタイムのオンラインとオンデマンド(録画)のハイブリッド授業を中心に、一部の実技のみ対面で行っていました。後期に入ってからは対面授業を少しずつ増やしていましたが、その中でもオンライン授業の割合が多い3年生からもっと対面授業を増やしてほしいという要望があって。そこで作業療法学科※の教員が担当する専門科目に関しては、できるだけ対面授業を増やしている状況です。というのも授業の中にはグループワークを伴うものもあるため、どうしてもオンラインでは難しい部分が出てきます。特に医療専門職に関する授業など、専門的な部分で細かくフォローアップが必要な学域に関しては、オンラインでは目が届きにくいという問題があるのです。
また、私個人としては教育的な観点から、対面授業を行うことに意義があると思っています。ご存知のように、医療職は緊急事態宣言が出ても、現場に出勤しなければなりません。「Go Toトラベル」なども利用できません。医療従事者には、そういう倫理観が求められるのです。一方、大学の授業をすべてオンラインにすれば、キャンパスに通学して受講する点で感染リスクは低くなります。しかし将来、学生たちが医療職に就くことを考えると、正確な知識と感染症対策をしっかり身に付けたうえで、「withコロナ」の時代を生きていくことも必要になってきます。つまり、高度なリテラシーが必要とされる専門職でありながら、学生時代からそれを体験できないのはどうなのか? と思うわけです。大学に来て対面で授業を受けることで、感染する可能性はゼロにはなりませんが、リスクのある中でしっかりとした感染症対策を身に付けながら学ぶということも、教育上、大事ではないかと思うのです。
もちろん、状況に応じてオンラインになる可能性も多々ありますが、そういう教育上の考えもあり、同時に学生自身が希望していることもあって、対面授業を増やしています。また、完全に中止となっていた4年生の臨床実習も8月に1週間だけ行くことができました。実習に行った4年生は、病院や施設内での感染予防対策、換気や消毒などもすべてお手伝いして、現場がどれくらいシビアに取り組んでいるかということを体験できました。また、本来は16週間の実習の予定が1週間とかなり短くなりましたが、都内の養成校のほとんどが実習に行けていないことを思うと、本学部の教員たちが臨床現場との強固なネットワークを築いてきた賜物でもあると自負しています。
高校生のみなさんは、よく附属病院があるかどうかを受験校の選択ポイントにすると思いますが、実際、附属病院があったとしてもそこで全員が実習できるところはほぼありません。多くの大学では数週間の実習の場合、40名の学生のうち2~3名ほどしか附属病院で実習できず、他の学生は本学同様、色々な病院に実習受け入れをお願いする必要があるのです。逆に本学は附属病院を持ちませんが、各教員が現場と非常に仲良くさせていただいているので、学生が住む地域に合わせて実習先をお願いすることができています。
■では、先生のご研究についてお聞かせください。
私の研究テーマは3分野あって、そのひとつは作業療法の専門性についてです。作業療法は非常にわかりづらいリハビリテーション(以下、リハビリ)分野であるため、作業療法の独自性とは何かということは、国内外で関心の高いテーマになっています。そこで長年、現場で実践してきた経験から、どうしたら作業療法らしいことができ、それが良い成果につながるのかという研究をしています。2つ目は、その流れから障害者や高齢者の自動車運転に関する研究をしています。そして3つ目が、管理・マネジメントに関する研究です。
今回は、この3つ目の管理に関する研究で、昨年末に取り組んだ作業療法部門管理の問題に焦点した研究について話したいと思います。まず、この研究の背景からお話しすると、日本では作業療法に限らず、リハビリ分野における部門管理が非常に未熟な状態だと言えます。部門管理とは、スタッフのリクルートや部署移動などを含む人事、収益、教育・育成といったことを担う仕事で、一般企業の管理職と同じです。なぜリハビリ分野での部門管理が未熟なのかと言うと、国内におけるこの分野はまだ50~60年しか歴史がないからです。加えて、2000年頃を境に作業療法士や理学療法士、言語聴覚士の数が急増したことも原因として挙げられます。日本では1965年に「理学療法士及び作業療法士法」ができ、作業療法士と理学療法士の養成が始まりました。以降35年間で作業療法士の数は1万人ほどしかならなかったのに対して、ここ20年で10倍になり、現在は有資格者が約10万人います。それは国の政策により、作業療法士や理学療法士、言語聴覚士を育成する養成校が多数できたということが大きいです。そこに不況も加わり、医療職に就きたい人が多くなった分、急増したのです。
その結果、経歴の長い人が少なく、若手が多いという構図が出来上がりました。また各施設で働く作業療法士の数が増え、これまでより大人数を管理しなければならない状況にあるため、従来のビジネスモデルが成立しなくなっています。つまり急速に大きくなり過ぎたために、それに対して運営が追い付いていないという課題があるのです。そういう問題の解決策として、これまでは各施設の管理経験者が自身の施設や病院で実践してきたことを個別に報告するケースはありましたが、問題全体を調査するところまでは行われていませんでした。しかし解決策を練るには、まずは問題全体を明確にしなければなりません。そこで私の研究室では、昨年末、全国的な大規模調査を行う前のパイロットスタディ(試験調査)という形で、全国の作業療法士にWebアンケート調査を行ったのです。また、私の研究室に所属する学生たちには、アンケート依頼の郵送から結果の分析まで、この研究のすべてに関わってもらっています。
■具体的にはどのような調査を行ったのですか?
全国の作業療法部門管理者がいる施設に対して、作業療法部門の管理において頭を悩ませている問題について上位3つを記入してもらうアンケートをしました。その結果、回収率は40%とかなり高く、管理者たちのこのトピックスへの関心の強さがうかがえました。また、得られた回答結果をカテゴライズ分析したところ、「働きやすく働きがいのある職場」、「人員管理」、「経営管理」について悩んでいることが多いとわかりました。
このパイロットスタディを踏まえて、今年、1000以上の施設を対象にした大規模調査をすでに実施しました。詳しい結果については、現時点で未発表なので控えますが、パイロットスタディで挙がっていた問題傾向と似た結果を得ることができています。
その中で、例えば「働きやすい」と「働きがい」は、バランスをとることが難しいものであることがわかりました。「働きやすい」とは、いわゆるワークライフバランスであり、職場の仲が良い、残業が少ない、きつい仕事が少ないといったことや、子育て中の人が気軽に休める環境であるといったことが挙げられます。一方、「働きがいがある」というのは、がんばりがいがある、遅くまで残ってもとことん仕事ができることだったりします。ですから「働きやすい」と「働きがい」には矛盾する部分があり、そのバランスのかじ取りが難しいのです。
その流れで、教育面での問題も顕在化しています。作業療法士が急速に増えたことで、教育面が不十分だった時期があり、年代によって作業療法士としての質に差が生じているのです。そういう年代における質の差をどう均一化していくかも大きな課題であるとわかりました。
■今後の展望をお聞かせください。
現在、大規模調査を終えて問題が明確になったので、今後はどうしたらそれらの問題を解決できるかを具体的に考えていきたいですね。これまで私も経験や実践例と一般のビジネスモデルとを照らし合わせて、作業療法部門管理の抱える問題の解決策を提案することしかできていませんでした。ですから今回の大規模調査のように、今後も色々と学術的に明らかにしていく必要があると思っています。また、学術的基盤をしっかり固めることで、日本の作業療法の良い部分を海外に発信していけたらとも考えています。
■作業療法士という仕事の魅力は何だと思いますか?
作業療法士は、対象者の人生に関われる仕事であり、それによって自分自身も人として大きくなれるところが魅力だと思います。今の社会では、さまざまな障害や個性を等しく扱おうと言われていますが、そういうことすら超越して、その人を“人”として見るという価値観を私自身、身に付けることができました。また、作業療法はオーダーメイドですから、対象者一人ひとりのためにつくって提案し、できることを増やせるというのも魅力です。例えば、右手が麻痺して字が書けないのであれば、左手でできるようにしたり、何か補助する道具をつくって提案したりすることもできます。そのためには、対象者のことを作業療法の観点からよく知り、専門職として関わる人ではあるけれど、とても親しい関係を築いていかなければなりません。
■学生に養ってほしい力とは? また作業療法士に必要な素養とは何だと思いますか?
人に寄り添う気持ちがあり、人に興味を持てる人であれば、作業療法士になれると思います。もちろん、対象者に真摯に向き合うことは不可欠です。だからこそ生涯、学び続けなければなりません。そういう姿勢は身に付けてほしいですね。また入学前も入学後も、何かと壁にぶつかることはあるでしょうが、あきらめない心も大切だと思います。
■最後に受験生・高校生にメッセージをお願いします。
以前、オックスフォード大学のマイケル・オズボーン博士が発表した論文で、将来、コンピュータの自動化により、今ある仕事の47%がなくなると話題になりました。その提言のなかで、作業療法士はコンピュータに取って代わられない仕事800職中6位でした。それだけ自由度が高く、創造性豊かな仕事だからです。ですからぜひ作業療法士になって、そういう部分を楽しんでほしいですね。
また、本学にはそういう作業療法の特徴をしっかり学べるカリキュラムが用意されています。素晴らしい学びの内容と環境が整っていると自負していますので、ぜひ東京工科大学で一緒に学びましょう!
※2021年4月よりリハビリテーション学科作業療法学専攻へ改組
医療保健学部リハビリテーション学科作業療法学専攻WEB:
https://www.teu.ac.jp/gakubu/medical/ot/index.html