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協同作業が必須のデザイン教育の現場に即し、遠隔と対面を効果的に融合する新しいデザイン教育の研究が始動!

2021年6月25日掲出

デザイン学部 伊藤英高 准教授

デザイン学部 視覚デザイン専攻 視覚情報デザインコース 伊藤英高 准教授

東京工科大学では、革新的かつ実践的な教育活動の一環として、2017年より4ヵ年をかけて、各学部・学環における「戦略的教育プログラム」を実施してきました。2021年度からは、その第二期目がスタート。今回は、デザイン学部視覚デザイン専攻が中心となって進めるプログラムについて、伊藤先生にお聞きしました。

■先生が担当されている戦略的教育プログラムについてお聞かせください。

 デザイン学部では、今、2つの戦略的教育プログラムが動いています。ひとつは、工業デザイン専攻が進めているプロジェクションマッピングを応用した取り組み。もうひとつが、視覚デザイン専攻の進める「オンライン環境を有効活用した視覚デザイン教育プログラム」です。この視覚デザイン専攻のプログラムを、私は担当しています。
 「オンライン環境を有効活用した視覚デザイン教育プログラム」の具体的な内容から説明しましょう。新型コロナウイルス感染症の拡大により、本学部では以前から使用していたeラーニング(双方向学習)ツールであるMoodleを活用して、昨年の5月末から遠隔授業を導入しています。また、より高度な授業を展開するべくZoom、Google Classroom、オンラインホワイトボードのMiroなども活用しています。オンラインの授業では、繰り返しの聴講により深い理解を得られるなど、これまでの対面形式の授業とは異なる新たな教育効果を発見することができました。ただ、今の段階では対面授業や共同作業でなければ得られない部分をカバーするまでには至らず、今後の理想的な仕組みの構築が期待されています。そこで本プログラムでは、デザイン教育の現場に即したツールや実際の利用プロセスについて、効果的なプログラムの試行・検証を重ね、単なる「遠隔教育システム」ではなく、「新たなデザイン教育」につながる視覚デザイン教育プログラムの開発を目指しています。

■遠隔授業で得られた発見や課題には、どのようなものがあったのですか?

 視覚デザイン分野の話をすると、つくるモノは基本的にデジタルデータが多くなります。つまりモニター上で見られるものなので、オンライン化によってそれらが閲覧しやすくなったという利点が挙げられます。例えば、学生がZoomを使ってグループミーティングをするときも、データ上でホワイトボードを共有したり、テキストを共有したりしながらお互いに修正を加えるといったことが問題なくできました。また、昔では考えられないような、数GBのデータを閲覧することも簡単にできるようになっています。さらに、映像制作のときには、撮影担当の学生だけが外へ撮影に行き、同じ班の人は別の場所にいながらオンラインでつながって、相談しながら撮影を進めることができるなど、ひとつのバーチャル空間を使って、みんなで協同作業を進めている感覚がありました。また、講義系の授業でも特にオンデマンドの場合、自分の都合のつく時間にチェックができますし、動画内で先生の発言を聞き逃しても、あとから見直すことができます。そういう意味では、今のオンラインの環境やツールは非常に進化していて、授業の中でも有効活用ができるとわかりました。
 一方で、それらのオンラインツールは、デザインの協同作業を前提としてつくられたものではないため、ツールそのものについて考える余地があるのではないかと思います。グラフィック専用のソフトウェアにしても、グラフィック、アニメーション、動画、サウンド、ウェブデザインとあらゆるツールが開発されていて、そこからネットワークを通じてクラウドでデータを共有することもできますから、非常に便利です。逆にいうと、そういう出来上がったものの中でデザイン制作をする場合、そのツールに縛られている可能性はないだろうかという疑問もあります。
 また、現状のオンラインツールは非常に優れたものですが、遠隔授業ではモニターの向こう側にいる学生の様子が共有しにくいという課題もあります。本学部でも60人の授業をオンラインで行うときは、学生の画面をオフにすることもあるため、教員が一生懸命話しているときに学生が聞いているのか、理解しているのかといった様子をうかがい知ることができません。そういうときのフィードバックをどうすればうまくできるのかということも考えたいですね。つまり遠隔と対面の効果的な融合、リアルとバーチャルを効率良く行き来する授業の方法について考えてみると面白いのではないかと思っています。遠隔には遠隔の、対面には対面の良さがそれぞれありますからね。ですからこのプログラムでは、新しいアプリケーションやシステム、ソフトウェアなどを開発することだけでなく、その使い方や生活様式の中にも新しいアイデアがあると思うので、そういう切り口で提案することも考えています。

視覚デザイン専攻のオンラインによる演習の様子

■では、具体的な取り組みについてお聞かせください。

 まず、大枠から説明すると、今回のプログラムで特徴的なのは、既存のカリキュラムの中に組み込んでいるという点です。視覚デザイン専攻における3年生の「専門演習II」という授業の一部にこのプログラムを組み込み、演習内で外部講師を招いて特別講義を開催しようと計画しています。遠隔環境において、デザインの協同作業やクリエイティブな協同作業に適した環境や考え方について話してもらおうと考えています。遠隔環境といっても、必ずしもコンピュータなどに関わる仕事の方である必要はなく、例えば、地方の名産品を現地の人と協働でプロモーションするといった、遠隔上で人と協同作業をする実例を話してもらえる方を招いて、そういう場合のコミュニケーションの取り方などをお聞きするといったアナログなテーマでも良いと思っています。また、都市部と地方、日本と海外といった遠隔環境だけでなく、異分野の人や違う情報を持つ人とやりとりをするような実例なども当てはまると考えています。
 この「専門演習Ⅱ」の中に設けた特別講義を契機に、興味を持った学生を募ってプロジェクトを立ち上げ、さらに深いワークショップを行い、企画・アイデアを出して制作を進めていく予定です。「専門演習Ⅱ」は視覚デザイン専攻の学生全員が受講するので100人を超えますが、その後の有志を募ってのプロジェクトは、5~10人程度で取り組むことを想定しています。
 また、戦略的教育プログラムは、4年間をかけて取り組むものです。大きな流れとして初年度から3年度目までは、仕組みの検討やリサーチ、企画といった部分を行い、最終年度でプロトタイプの提案・制作、学外発表をしたいと考えています。最終的に「こういうモノができました」と完成品を見せることができると良いのですが、予算や人員のことを考えると難しい面もあるので、現時点では企画の提案やプロトタイプをつくるところまでを目指すつもりです。また、プロトタイプの制作では、外部企業へ協力を依頼することも検討しています。
 その他、開発に必要な検証や実験も行う予定です。具体的には、既存のツールを使って、どういう効果が上がっているのかを検証しようと考えています。まずは現状を把握しないと、何をするべきかが見えてきませんからね。

■このプログラムに学生が参加することで、どういう教育効果が期待できますか?

 デザイン学部の特に視覚デザイン専攻で学んだ学生は、卒業後、グラフィックデザイン関連の仕事に就く人が少なくありません。また、グラフィックデザインの制作に関わるシステムを考えたり、アプリケーションをつくったり企画したりする仕事に就く人もたくさんいます。今回、お話しした戦略的教育プログラムでは、オンラインツールの特性やシステムについての意識を高め、つくり手である自分がデザインの制作環境に対して、既存のものを使うだけでなく、そのものについて検証するという発想を持ってもらいたいとの思いで企画していますから、その経験は卒業後、実際の仕事現場で活かされるだろうと思います。

■最後に、受験生・高校生へのメッセージをお願いします。

 新型コロナウイルス感染症の流行により、これまで日常だったものが今では大きく変化しました。過酷な状況であることは確かですが、デザイン学部はそれをこれまでなかったモノを生み出す好機と捉えて、時代に応じて変化していきたいと考えています。また、ITの世界は著しく変化していますし、技術もどんどん変わっています。変化しない方が難しいくらいですし、変化することが大前提だとも言えます。そういう意味では、今回、私たちが取り組む戦略的教育プログラムも変化に対応して、新しいモノを生み出そうという取り組みですから、その中で生み出されたモノやその過程をみなさんと一緒に共有できたらうれしいですね。