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対面とオンラインの両方で行うハイブリッド授業を活用して、多様性に対応する教育の仕組みを実現したい!

2021年7月21日掲出

メディア学部 メディア社会コース 吉岡英樹 講師

コンピュータサイエンス学部 人工知能専攻 田胡和哉 教授

東京工科大学では、革新的かつ実践的な教育活動の一環として、今年4月より各学部・学環における「戦略的教育プログラム」(第二期目)が始まっています。今回は、メディア学部の取り組みについて、音楽産業に関する研究や聴覚障害者を支援する研究を手がける吉岡先生にお聞きしました。

■先生が中心となって進めているメディア学部の戦略的教育プログラムについてお聞かせください。

 メディア学部では、私を含め6名の先生方と共に「ハイブリッド授業システムを活用した学生参加型のインクルーシブ教育プログラム」に取り組んでいます。ハイブリッド授業とは、対面とオンラインの両方で同時に授業を行うことです。昨年は新型コロナウイルス感染症の影響で、私自身、実際にメディア学部でハイブリッド授業を行っていました。また、インクルーシブ教育とは、障害のある人と障害のない人が可能な限り共に学ぶことを言います。つまり、対面とオンラインの両方で行うハイブリッド授業をうまく使って、障害のある人もない人も学べる仕組みをつくることが、このプログラムの目指すところです。

 まずは、今回のプログラムに至るまでの背景から説明しましょう。今、世の中はグローバル化して、世界中で色々なことが共有されるようになりました。その中で、ダイバーシティ(多様性)ということが声高に言われるようになり、個人の権利を積極的に主張する時代になってきています。特に1980年代以降、世界各国でそういう動きが進んできました。その中には、私が専門とする障害者に関することや、ジェンダーの問題、人種問題、貧富の問題などがあり、色々な多様性が求められるようになってきています。最近では、「SDGs」という言葉もあちらこちらで耳にするようになっていますが、それだけ多様性の問題に対して、声が大きくなってきているのです。
 一方、教育に関しても多様性をどう受け入れるかということは、大きなテーマになっています。例えば、私の専門に関して言うと、日本では2016年に「障害者差別解消法」という法律が施行され、大学を含めた様々な学校で、障害を持つ子供たち、学生たちに対して、必要であれば配慮しなければならないと決められました。その一環として、インクルーシブ教育をどう実践していくかは、大きな課題になっています。
 そういう背景の中で、偶然ではありますが、新型コロナウイルス感染症の流行により、社会が今までとは大きく変わらざるを得なくなったのです。大学ではオンライン授業が始まり、本学部が得意とするオンラインやデジタルコンテンツを使った授業のノウハウが、この1年ほどでかなり蓄積されてきました。私は、そういったものが多様性に対応する大学の授業のあり方につながるのではないかと思い始め、実際にオンライン授業やハイブリッド授業を試すうちに、確信へと変わっていったのです。そこでこのプロジェクトに関わる先生方と話し合い、今回の戦略的教育プログラムを立ち上げることになりました。

■ハイブリッド授業と多様性に対応した教育とは、どのようにつながるのでしょうか?

 例えば、聴覚障害におけるインクルーシブ教育では、話している音声をリアルタイムにテキスト化する技術が進んでいて、それが障害のある学生に対する情報保証につながっています。大学がオンラインを介して、そういう多様性に配慮した授業を提供することができれば、例えば、文部科学省によるGIGAスクール構想(全国の児童・生徒1人に1台のコンピュータ端末と高速通信環境を整備する施策)でオンラインを積極的に取り入れようとしている小・中・高校の児童・生徒が、大学のオンライン授業に参加して、大学生と一緒に授業を受けられるかもしれません。また、生涯学習として社会人が大学等で学び直しやキャリアアップを図る例が一般的になってきていますが、大学に通う時間の都合がなかなかつけられない人の場合、大学のオンラインによるインクルーシブ教育を応用することで解決できるかもしれません。さらに、今は音声テキスト(字幕)を自動翻訳する技術も進んできていますから、海外との連携プロジェクトにも有効だと言えます。つまり、大学の授業を受講できる人が今以上に多様になるのです。
 このように、従来の対面授業だけでは思いつかなかったことや難しいと思われていたことも、オンラインと情報保証をつなげると、非常に広がりが出てきます。もちろん、今すぐにそれを完璧に実施するには、まだ技術的に難しいところもありますが、10年、20年先を考えると、そういったことが当たり前の社会になっていくかもしれません。ですからメディア学部では、それに先駆けて研究することが重要だと考えています。

■先生ご自身はハイブリッド授業を実施して、どのような手ごたえを感じたのですか?

 対面授業をオンラインでも配信しながら行うというハイブリッド授業は、テレビ局を一人でしているようなものなので、大変な面は多々ありました。特に私の場合、「音楽産業入門」という音楽を聞かせたり、色々なコンテンツを扱う講義で実施したので、手元にパソコンを5台置き、映像のスイッチャーや音量ミキサーを切り替えたり調整したりしながら実施するという、やや大がかりなものでした。私自身は研究室からそれらの機器を駆使して授業を行い、その研究室内には数名の学生が対面で受講しています。また、通常500名弱が入れる大教室に人数を減らして学生を入れ、研究室から同時配信される授業の様子を見ながら受講してもらいました。この大教室にはオペレーターとSA(スチューデント・アシスタント)が計2名いて、研究室にいる私と連携を取りながら、大教室の方の運営をしてもらいました。もちろん、自宅からオンラインで授業に参加する学生もいるという状態です。こういう形で、どうしたら遠隔授業で対面授業と同等、もしくはそれ以上のものが提供できるかを考え、授業内容や時間配分なども事細かに配慮した結果、この授業に対する学生からの評価は非常に高かったです。
 特に対面授業のときのように学生の様子を見ることができないので、こまめにチャットで意見をもらい、その意見に対してその場で返答したり、質問内容によっては次回の授業で解説をしたりと、学生とコミュニケーションを取ることで学生の理解度をきちんと把握しながら進められた点が高評価につながったのだろうと思います。また、毎回授業の最後に課題を提出してもらう際、授業内容に直接関係なくても、音楽や音楽産業に関する質問であれば何でも書いて良いという任意のアンケート項目を設けていたのですが、そこにも学生たちはたくさん記入してくれました。以前の対面授業では、そういうことがなかったので驚きましたね。チャットに加え、その欄でも学生の疑問や考えていることが“見える化”されるので、それに対して次の授業で答えたり、授業内容に入れたりということをしました。従来はある程度、事前に決めた授業内容に従って進めていた授業ですが、今回は本当に毎回、集められた学生の声に答える形で、非常に柔軟に内容を変えながら授業を進めたのです。それ自体、私はすごく楽しかったですし、学生も満足度が高かったようです。

 また、先ほど、聴覚障害のインクルーシブ教育の例として、音声のテキストを字幕として出すという話をしましたが、この授業でも毎回、使用する2つの動画に字幕をつけて流しました。今は聴覚障害のある学生は受講していませんが、いつでもその対応ができるようにということで実施したところ、これも学生に非常に評判が良かったです。というのも日本語はあいまいで、例えば「こうえん」と言ったときに、公園、講演、公演と同音異義語が多く、どの「こうえん」を思い浮かべるかという問題があるからです。そういうところで誤認識を積み重ねると、だんだん授業内容が理解できなくなっていきます。また、特に授業は新しいことを学ぶ場であるため、専門用語や初めて聞く言葉も出てきます。それが文字で字幕として出てくれば、理解度がかなり上がるのです。
 このことについては、実は昨年のハイブリッド授業より以前に、わかっていたことでした。一昨年の「音楽産業入門」で、音声をリアルタイムに文字化する「UDトーク」という非常に多くの聴覚障害の方が使っているアプリを試したことがあったのです。その際にとったアンケートで、8割の学生が字幕はあった方が良いという回答でした。ただ、一部の意見として、ないほうが良いという人もいたので、次の回からは教室内の大きな画面に表示するのではなく、字幕を見たい人は自分のスマートフォンでQRコードにアクセスして見るという形にしました。そのときに、聴覚障害がない学生にも情報保証は非常に重要だということを実感したのです。そこで昨年のハイブリッド授業でも、同じように実施してみました。ただ、授業で使う資料動画に字幕をつけることは「UDトーク」を使ったとしても労力がいりますから、すべての授業で行うには現状としては難しいです。とはいえ、海外にはそういう動画をつくるための専門部署を設けている大学もあるそうなので、そういう体制を整えれば、すべての授業で対応できるかもしれません。こうしたことを今回のプロジェクト期間中に、学生と一緒に取り組もうと進めています。

■具体的に学生はどのように関わるのですか?

 基本は、参加したい学生を募集する形になります。初年度は約20~30人から始める予定です。メディア学部には、ハイブリッド授業で必要となる映像や音響の機材を扱える学生がいますし、動画に字幕をつける作業を手伝ってくれる学生も必要です。あとはリアルタイムで音声に字幕テキストをつけるとき、「UDトーク」を使ったとしても多少は誤変換されることがあるので、リアルタイムで字幕を修正する人も必要だと思っています。
 また、ハイブリッド授業では、特に音声の問題が大きくあります。音がハウリングして、ぐわんぐわんと回るように聞こえたり、きちんと音がオンラインに届けられていなかったり、ノイズが多かったりといったことが起きます。ですから、ある程度、音響の知識を持っているスタッフが担当する必要があるのです。その辺も含めて、学生とマニュアルをつくっていきたいと考えていますし、それ以前に学生には受講生としての率直な意見を出してもらうという大きな役割もあります。また、来年度以降、ハイブリッド授業を導入する授業が増えれば、手伝ってくれる学生をさらに増やすことも考えています。

■4年間の計画や展望をお聞かせください。

 メディア学部の柱でもある“コンテンツ・社会・技術”の3つを軸に、参加する教員の専門分野を活かしながらプログラムを進めていきます。コンテンツに関しては、去年から続くコロナ禍で、各教員がそれぞれオンライン授業やハイブリッド授業の経験から得た知見があるので、今年はまずそれらを持ち寄って開発環境をつくる予定です。ここで言う環境とは、スタジオのようなもののことです。そして、授業を配信する仕組みが整ってきたら、今度はどういう内容の教材コンテンツを配信するか検討していきます。それもかなり多様になると思いますが、幅広い授業に対応できる仕組みにするため、どんな科目にも対応できるかどうかを試していきます。
 社会の軸では、言語聴覚士や私たち以外の専門家、インクルーシブ教育により近い専門家へのヒアリングを、私と海外とのプロジェクトを積極的に行っている飯沼先生が担当する予定です。私が聴覚障害の研究を主軸としているので、最初はやはりそこが出発点になりますが、最終的にはそれに限らず色々な目的に使える教育システムにしたいと考えています。技術の軸では、これまでのオンライン授業で蓄積された色々なデータがあるので、それらをどう活用していくか検討していきます。そうした基礎技術の調査・検証・研究開発を3年かけて行い、新しいシステムを開発しようと考えています。 また、今年、蒲田キャンパスの医療保健学部にリハビリテーション学科言語聴覚学専攻ができたので、近々、そこの先生方とメディア学部との連携について話し合う予定です。

■最後に受験生・高校生へのメッセージをお願いします。

 今、高校生のみなさんは、SDGsについて授業で触れることも多いと思いますが、そのキーワードのひとつに「誰ひとり、取り残さない」というものがあります。それは、多様性にもつながるものだと思います。そして、それを実現する一つの方法として、メディアのテクノロジーの活用があります。ただ、技術だけがあってもそれは実現できません。やはり、社会における現場調査や、メディアの場合はどう表現するのかというコンテンツの部分が、結果的に情報保証などの配慮にもつながっていき、多様性のある仕組みにつながると考えています。
 メディアの力でSDGsの目標を達成することは可能です。そういうことに興味のある方はぜひ東京工科大学のメディア学部で、一緒により良い社会をつくる活動に取り組んでいきましょう!

■メディア学部WEB:
https://www.teu.ac.jp/gakubu/media/index.html