現地の先生から1対1で教わるオンライン語学プログラムなど、海外とつながる新しい試みが始まっています!
教養学環 楠元洋子 准教授
東京工科大学では、革新的かつ実践的な教育活動の一環として、今年4月より各学部・学環における「戦略的教育プログラム」(第二期目)が始まりました。今回は教養学環での取り組みについて、楠元先生にお話しいただきました。
■教養学環で進めている戦略的教育プログラムについてお聞かせください。
教養学環では、今、2つのプログラムに取り組んでいます。今回はそのうちのひとつで、私が中心となって進めている「グローバル人材育成教育プログラム」についてお話ししましょう。前回の戦略的教育プログラム(第一期)では、国際的な教養と豊かな人間性の形成を目指して、段階的に国際感覚を身に付けられる海外研修プログラムを開発し、実施しました。その結果、海外に興味を持たない学生が多いと言われるなか、4年間での参加者数は延べ217人にのぼりました。この数はプログラムの成功を意味していると思います。
一方で、課題もありました。第一期では、段階的なプログラムとして、海外に興味を持たない学生がまずは一歩、海外へ踏み出すという目的で、1週間程度の異文化体験プログラムを体験してもらい、そこから英語でコミュニケーションを取る喜びや自分の言いたいことが伝わらなかった悔しい経験をもとに、もっと語学を勉強しようという気持ちにつなげ、次の段階として3週間の語学研修プログラムに参加してもらうという流れを考えていました。1週間から3週間へと期間が長くなり、目的も単に海外に出て異文化を体験するところから、英語の習得を目的とするプログラムへと、段階的にステップアップできるように計画していたのです。ところが実際には、学生は自分の興味のあるプログラムに自分の行けるタイミングで参加するケースがほとんどで、段階を踏んで参加する学生はいなかったようです。その理由はまだよくわかっていませんが、学生にプログラムの意図がうまく伝わっていなかったのかもしれません。
こうしたことを踏まえて、今回の戦略的教育プログラムでは、段階にこだわらず、学生のタイミングで参加したいプログラムに参加できるようにします。また、新型コロナウイルス感染症の影響で、昨年度から海外派遣プログラムは中止状態ですが、その状況を踏まえて、海外派遣型だけでなく、オンラインプログラムも拡充していく予定です。
■オンラインプログラムには、どのようなものがありますか?
実はコロナ禍で海外派遣プログラムが中止になるなか、第一期の終わり、今年の2月に初めて実施したオンラインプログラムがあります。フィリピンのデラサール大学付属の語学学校の先生に、オンライン会議ツールを使ってマンツーマンで、1日4時間の英語授業を5日間行ってもらうというもので、リーディング、ライティング、リスニング、スピーキングの4技能に加え文法や語彙を丸1日、英語漬け状態で学習するという内容です。単位も1単位取得できます。このプログラムは、どのくらいの参加者数があるかわからないまま、試してみようと始めたものでしたが、参加希望者が多く、時期をずらして第2グループを追加するほどでした。参加者数は合計32名で、1年生が圧倒的に多かったです。というのも、入学したら海外プログラムに参加しようと思っていたのに、それが中止になって残念に感じていた学生がこのオンラインプログラムを知り、参加したいとなったようです。また、去年1年間は大学での英語の授業がオンラインとなり、しかも授業中は、ネット環境に負荷をかけないため学生のカメラをオフにしてもらっていました。ですが、このプログラムではカメラをオンにして先生と1対1で、相手の表情を見ながら学べるので、コミュニケーションの難しさや楽しさが理解でき、とても満足してくれたようです。参加した学生のなかには、1日中、英語漬けになるために、自分自身、日本語を使わない努力をしたり、テレビを見ないで英語の音楽を流したりといった生活をしたという人もいました。ですから語学を磨きたいという思いと、大学での英語の授業がオンラインになって残念という思いのある学生に、うまく響くプログラムになったようです。
このプログラムは今年8月と来年2月にも実施します。また学生からの要望で、4技能にフォーカスした総合的な英語力を身に付けるプログラムに加え、TOEICのスコアアップ対策コースも用意しています。
■その他、今回からの新しい試みはありますか?
ひとつは、これまで英語に特化したプログラムのみだったところを、第二期からはそれ以外の言語のプログラムも設けます。例えば、来年2月に韓国語のオンライン語学プログラムを実施する予定です。本学でも韓国語は非常に人気で、第二外国語の授業が抽選漏れで受講できない学生も多々いるそうですので、このオンラインプログラムには多数の参加があるのではないかと期待しています。これも先ほどのフィリピンの先生から英語を学ぶプログラム同様、1単位を認定するため、どのようなカリキュラムにするか、どの程度の課題を出すかなどを韓国にいる韓国語の先生とこれから決めていきます。
また、コロナ以前の海外研修プログラムは、実際に現地へ行くことが当たり前でしたが、昨年から続くコロナ禍でオンラインによる授業が始まり、オンラインの海外プログラムの可能性が見えてきました。そこで異文化体験を目的に、英語圏に限らず、スペイン語やフランス語など、色々な語学に触れたり、その国の文化を体験したりして、国際的視野を広げられるようなオンラインプログラムを拡充しようと、世界各地に支店を持つ旅行会社HISと開発を進めています。これは異文化体験ですから、語学学習に限りません。オンラインで具体的にどう実施するかは検討中ですが、実は今年2月に一度、韓国・フランス・スペインの異文化体験プログラムを試しに設けてみたことがあります。実際は参加者が集まらず中止になりましたが、そのときに考えていたのは、現地の方がオンラインで観光地を案内してくれるバーチャルツアーや、現地の方との交流を経験したり、簡単な現地の料理の作り方を講師の方にオンラインで教えてもらって一緒に作ったりというものです。あるいは、東京の新大久保に行って韓国の雰囲気を体験するという話もありましたし、K-POPダンスを一緒に踊るといったことも考えていました。韓国は言語も人気ですし、K-POPやドラマなどで文化に興味を示す学生も多いと思ったのですが、残念ながら開催定員には達しませんでした。その理由は、単位を認定するプログラムではなかったことが影響したのかもしれません。ですから今後の課題としては、単位認定の可能性も考えながら、プログラムの内容と実施時間を検討していく必要があると思います。
■今後の展望をお聞かせください。
プログラムの数はかなり充実してきましたが、一方で単位認定ができるように、プログラムの中身と履修の関係を整理する必要があります。例えば、先ほどのフィリピンとのオンラインプログラムは、中身は語学研修ですが、語学研修としての単位が準備できていません。語学研修は3週間のイギリス語学留学を想定したプログラムと単位を想定していたため、5日間のフィリピンとのオンラインプログラムは、科目名自体が語学研修ではなく海外プログラムの扱いになります。つまり、シンガポールやアメリカでの1週間の異文化体験と同じ扱いなのです。そのため、学生のなかには履修した科目を見ると、自分は語学を勉強したのに、語学研修の単位になっていないと感じる人が出てくるかもしれません。私たちもそれを課題の一つと受け止めて、今後は研修の中身と科目名が一致するように、また、1週間の短期と3週間の少し長めのプログラムに対して2種類の単位を設けるなど、整理と準備をしなければなりません。そうすることで学生が参加したいと思う、魅力的な科目づくりをしていきたいですね。また、今は中止になっていますが、中国語を学びに現地へ行くプログラムや、マレーシアでの海外ボランティアとインターンシッププログラムといった海外派遣型の研修も企画しているので、状況に合わせて実施できるか判断していくつもりです。
それから、本学は例えば国際系学部などを擁する大学に比べると、海外や語学に興味のある学生が全体として少ないのかもしれません。そういう学生にどうこの「グローバル人材育成教育プログラム」を周知し、どう縦のつながりをつくるのかも課題です。先輩から後輩へ、あるいは学生同士で「海外研修に行って楽しかった」「こんなプログラムに参加して、すごくためになった」というような、プログラムの経験者とまだ参加していない学生とがつながり、交流できる形をつくりたいと思っています。そこで、まずはインスタグラムを立ち上げて、オンラインプログラムの様子や過去のイギリス・シンガポール・ロサンゼルスでの語学研修や海外研修の様子を掲載して、少しでもプログラムの存在自体を知ってもらおうと進めています。特に海外や海外研修に興味を持っていない学生にどう伝えるかを考えながら、学生に効果的に届く情報発信をしていきたいですね。
■最後に受験生・高校生へのメッセージをお願いします。
突然ですが、みなさんにクイズです。日本では4と9が不吉な数字と言われていますが、英語圏で不吉とされる数字は何でしょう? これは本学の英語の授業で学生に聞いたクイズ問題です。すると学生の中には、「4と9って不吉なの?」という反応を示す人がいました。みなさんは、どうですか? 今、日本の文化や風習を説明できない、知らない学生は珍しくありません。ですから私としては、日本の文化と海外の文化の両方に関心を持ってほしいと思っています。海外のテレビ番組や音楽、できれば海外のニュースに目を向けて、国外でどんなことが起きているのか、怖いこと、楽しいこと、さまざまなことを知り、国際視野を広げてほしい。それと同時に、海外の人に日本のことを説明できるよう、日本のことも知っていてほしい。そういうバランスが、国際人には大切です。東京工科大学で、専門分野に加えて、教養もしっかり身に付け、ぜひ世界で活躍できる人になってください。