大学の学びはこんなに面白い

大学の学びはこんなに面白い

研究・教育紹介

東京工科大学 HOME> 大学の学びはこんなに面白い> 髪が生え変わる仕組みや白髪ができる理由など、毛髪や頭皮に関する謎を解明して、その改善につなげたい!

髪が生え変わる仕組みや白髪ができる理由など、毛髪や頭皮に関する謎を解明して、その改善につなげたい!

2021年4月23日掲出

応用生物学部 食品・化粧品専攻 化粧品コース 岩渕徳郎 教授

応用生物学部 食品・化粧品専攻 化粧品コース 岩渕徳郎 教授

大学では生化学を学び、就職した大手化粧品メーカーおよび派遣された研究機関では、微生物や海洋生物の研究にも携わったという岩渕先生。毛髪研究の大家と出会い、人間の発毛の仕組みに興味を持ったことから、現在の研究テーマを手がけることに。今回は、研究室での取り組みについてお聞きしました。

■先生が率いる「毛髪科学研究室」では、どんな研究に取り組んでいるのですか?

 毛髪や頭皮に関する研究を行っています。大きく分けると、毛周期調節機構の解明と白髪形成機構の解明を柱に研究をしています。まずは、毛周期調節機構から説明しましょう。毛髪には毛周期といって毛が成長する時期、成長が止まって抜けていく時期、次の毛が生える時期というサイクルを繰り返す、毛の生え変わり周期があります。それがどういう仕組みで調節されているのかを知りたいということで研究を進めています。

 例えば、免疫抑制剤をターゲットに毛周期調節機構を解明しようと取り組んでいる研究があります。免疫抑制剤とは、臓器移植をした人が移植された臓器を拒絶しないように服用する、文字通り免疫を抑制する薬です。ところがこの薬には、多毛になるという副作用があります。なぜその副作用が起こるのかは、まだわかっていません。
 一方、育毛の観点からすれば、毛が生えるという意味で、とても効果の高い薬だとも言えます。かといってその薬を元気な人が服用すれば、毛は生えても免疫が下がって、年中、風邪をひくことにもなりかねないので、実用的ではありません。ただ、この薬剤が免疫を抑制するときの仕組みと毛を生やすときの仕組みがどこかで違っていれば、その違う部分を利用して、育毛薬剤を探索することもできるかも知れません。そういう考え方に立って、この免疫抑制剤がどういう仕組みで多毛という作用を生み出すのかを明らかにしようとしています。現時点では、少しずつその仕組みがわかりつつあるという段階です。
 それからもう一つ、毛周期調節機構の解明に関する研究があります。成長期の毛髪の毛根には、毛乳頭細胞という毛周期を調節する一番大事な役割を果たす細胞があります。これを培養して体毛のないヌードマウス(実験用マウス)に移植すると、毛が生えてきます。ですからこの毛乳頭細胞には発毛させる能力がある、つまり毛包誘導能があると言えるのです。ところが、この細胞を培養し続けると、徐々に毛包誘導能を失っていき、3回目くらいで全くなくなります。それはなぜなのかを知りたいと思って研究しています。

 また、一度失った毛包誘導能を再び活性化させることができれば、毛髪再生医療に応用できる可能性も出てきます。そこで毛乳頭細胞の毛包誘導能を再活性化させる研究を進めたところ、ひとつわかったことがありました。毛乳頭細胞を培養する際、平たい培地に培養する平板培養ではなく、生体内での毛乳頭細胞の状態と同じように細胞を球状にして培養する三次元培養をすると、少し再活性化したのです。ただ、それだけでは再活性化するにはまだまだ力不足です。私としては、毛包誘導能を失う理由のひとつに“エピジェネティクス”があるのではないかと予想していて、まずはそれを裏付けられたらと考えています。エピジェネティクスとは、簡単にいうと遺伝子の調節機構のことで、例えばDNAにメチル基という分子がつくと、その遺伝子のスイッチがオフになり、使えなくなるといったことがわかっています。もし、このエピジェネティクスが原因で毛包誘導能を失っていると明らかにできれば、それが起きないようにすることは可能です。

■では、白髪形成機構の解明に関する研究についてもお聞かせください。

 ラタノプロストという緑内障の治療薬があるのですが、それを使っていた人から顕著な副作用が2つ報告されています。1つは、妙にまつ毛が伸びること。約2ヵ月で2倍ほど伸びます。その結果、今やこの薬はまつ毛貧毛症治療薬としての使用の方がメジャーになってきているほどです。それからもう1つは色素沈着という副作用です。目の縁が少し黒っぽくなるのですが、女性は目の周りにアイシャドウを塗ったりしますよね。そういう感じになるので、それほど見た目に違和感はありません。ただ、なぜこうした色素沈着やまつ毛の伸長が起きるのかという理由は、わかっていませんでした。そこでその両方について調べてみたのです。というのも考え方によっては、色素沈着ということでの抗白髪と、育毛という2つの効果をひとつの薬剤で得られる可能性があるからです。
 調べた結果、色素沈着の仕組みについては、ほぼ解明できました。一方、毛を伸ばす仕組みもかなりわかってきています。鍵となるのは、cAMP(サイクリックAMP)という細胞内情報伝達物質で、これが色素細胞にあるとメラニンをたくさんつくり、毛乳頭細胞にあると毛成長が促進されるということがわかりました。仕組みはほぼ同じで、この薬を使うことで毛乳頭細胞でも色素細胞でも細胞内のcAMPが上がるのです。
 だからといって、このラタノプロストを頭につければ、育毛兼抗白髪剤になるかというと、そう単純な話ではありません。なぜなら、まつ毛を伸ばすのに必要なラタノプロストの濃度と、頭髪を伸ばすのに必要なラタノプロストの濃度が全く違うからです。ただ、鍵となるのがcAMPだとわかったことは大きな成果だと思います。
 これ以外にも、なぜくせ毛ができるのかを解明しようと取り組んでいる研究や頭皮状態と毛髪形成の関係性を調べる研究、ヘアダメージの研究、髪を伸ばす間に毛の太さは変化するのかしないのか、毛の太さの季節変動といったことも調べています。


■研究を通して、学生に身に付けてほしいこととは何でしょう?

 一番は物事の考え方、論理的思考をしっかり身に付けてほしいですね。そういう考え方は研究に限らず、すべての仕事で必要とされることです。例えば、何か企画を提案するにしても、なぜそれが良いと思うのか、提案する根拠や今後の見通しなどを、順を追って説明する必要がありますよね。そういう思考パターンを身に付けてほしいです。ですから学生には、必ず「なぜそう思うか」という自分なりの意見や理由を発表するように指導しています。
 また、他の人の仕事に関心を持つことの大切さも伝えています。研究室でミーティングをする際、誰かの発表に対して必ず他の学生に質問をさせています。というのも他の人のした仕事の話をよく見聞きすることで、自分自身が経験していなくても、自分の血や肉にすることができるからです。自分自身が生きている間に経験できることには限界があります。ですから人の経験も自分の経験にしてもらおうと、積極的に質問をするよう促しています。

■研究の面白さ、魅力とは何だと思いますか?

 これは実際に研究をしてみないことには伝わらないかもしれませんが、わからなかったことがわかったときの大きな喜び、快感があるのです。これは一度経験すると、すっかりはまってしまう、中毒性の高いものです(笑)。とはいえ大抵、研究は進まず、苦労ばかりで、8~9割は失敗です。それでも10回に1回くらいは、うまくいくことがあって、そのときの喜びたるや! だからこそ、ついつい次の研究をして、また失敗して…と苦労することになります。不思議なことに、その苦労すらだんだん楽しくなってくるのですが。ですから大学院に進む学生には、一度は研究から得る喜びを経験してほしいと思っています。

■最後に受験生・高校生へのメッセージをお願いします。
 皆さんは、これから自分の進路を決めていく時期だと思います。もう目標が決まっている人もいるかもしれませんが、まだ決めかねているという人も多いことでしょう。そういう方は、ぜひ自分の好きなことが何なのかを早く見つけてほしいと思います。それを見つけるための確実な方法はありませんが、ひとつ言えるのは、色々なことを経験してみることではないでしょうか。経験するということは、自分で色々と考えないといけません。例えば不安に思ったり失敗したりしたら、次にどうしようかと考えますよね。その考える経験が大切だと思います。色々な経験をすること、そしてできれば失敗もたくさんすることで、自分自身が見えてくるのではないでしょうか。