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臨床現場には研究の種がいっぱい!疑問を解明することで現場に還元できるところが看護研究の醍醐味です

2022年2月10日掲出

医療保健学部 看護学科 浅海 くるみ 助教

医療保健学部 看護学科 浅海 くるみ 助教

中学生の頃に見た、救命救急室がテーマの海外ドラマに憧れて看護師を志したという浅海先生。実際に看護師として急性期の患者を対象とする病棟で経験を積んでこられました。その臨床現場で外来治療を受けるがん患者への看護ケアに関する疑問がわき、研究の道へ。現在はさらに在宅看護学分野の研究も進めています。今回は先生のご研究内容を中心に、お話しいただきました。

■先生のご研究について教えてください。

 これまでに最も長く従事していた、がん看護学分野に加え、現在は訪問看護師を対象とした在宅看護学分野の研究も手掛けています。私が研究を始めた大きなきっかけは、臨床現場で生まれてくる疑問に対して、研究的に取り組んでみたいと思ったことです。大学卒業後に看護師として就職した病院では、肺がんの治療などを行う外科病棟でケアにあたりました。肺がん患者さんの場合、外科的な手術を受けた後に転移・再発をしてがんが進行していくケースも多く見られました。そのようなケースでは、化学療法や放射線療法を受け、その後に痛みや苦痛を緩和する緩和ケア主体の医療に転換していきます。そうした一連のケアを臨床現場で経験しました。
 その中で、がんが転移・再発した人は、心身共に脆弱になりながら化学療法や放射線療法を受けなければならず、治療の副作用とがんそのものの進行によって起こる症状の多重的な苦痛があるとわかってきました。そういう人たちが手術や治療に一区切りをつけて家に帰ったあと、自宅でどのように過ごしているのだろうか、という疑問がわいてきたのです。そこで、外来に通いながら治療を受けている、特にがんが再発した人や根治を目指せず、近い将来に“死”も見据えられる時期にある方たちのケアに着目しました。

 具体的には、外来で、化学療法を受けながら再発治療を受けているがん患者にインタビューや質問紙調査をしたり、そういう方のケアに当たっている外来看護師にインタビューを行ったりしました。両者の結果を照らし合わせていくと、私たち看護師が思っている以上に、患者さんは治療と自宅での生活に折り合いをつけようとする適応力があり、単に脆弱なだけではないとわかりました。例えば、化学療法を受ける患者さんにとって、苦痛のある症状のひとつである口内炎。これにより食べることや飲むことが難しくなるという問題がよく起きます。口内炎を緩和する薬はありますが、残念ながら根治はできません。そうなったときに、私たち看護師はケア方法として食事や飲み物の形態を提案することがあるのですが、その提案をするより前に患者さん自身が、やわらかい食べものに変えたり、スムージーを取り入れたりと症状に対処しているケースが見受けられました。患者さん自らが生活の中で工夫や症状をやわらげる方法を編み出していたのです。そういうところから、外来で治療を受けるがん患者は、脆弱なだけではないのだと感じました。
 一方で、治療ではなく症状や苦痛を緩和する緩和ケアの段階にある方たちは、いくら適応力があっても、次の外来受診までの間に急変して入院し、そのまま亡くなるというケースが少なくないとわかりました。こうした結果を受けて、外来通院中であったとしても、外来と外来の間はある程度の期間があくため、そういう時期でも自宅で安心・安全・安楽に過ごすには、訪問看護や在宅ケアの導入がひとつの解決策になるのではないかと思ったのです。そこから私自身、訪問看護師としての経験を積み、現在は訪問看護に焦点を当てた研究に取り組んでいるという流れになります。

 また、博士課程での研究は、外来化学療法を受けている再発がん患者に対する介入研究を行いました。先ほど、がん患者は脆弱なだけではないと言いましたが、一方で、やはり専門的な支援を必要とする人もいます。前者と後者の違いは何かと言うと、治療に前向きかどうか、治療やそれにより起こっている現象や症状をどう捉えているかという認知面により、以後の取り組み方や行動が異なるということがわかりました。専門的な支援を必要とする患者さんの場合、例えば、看護師が色々な情報を提供しても、苦痛の方が大きくて聞く耳を持てなかったり、現状が辛くて、自分ではどうにもできないということに苛まれ、抑うつ症状が見られたりしている状況です。そういう状況にある方は、いくら看護師が情報提供をしても、なかなか取り入れられません。その結果、行動も変容しないということがありました。
 「孫の運動会を見たいから治療をがんばる」など、何かしらの目標を持ったり、「ここまでは絶対に生きたい」と転換して考えたりする方もいれば、生きる目標や気力を持てずにいる方もいます。特に後者の方は、色々な辛い問題が散在して複雑に絡まり、どれが自分で対応できるもので、どれがコントロールしきれないものなのかの整理がついていないのではないかと、研究的な視点や私の臨床経験から推察されました。
 そこで認知行動療法という心理療法の方法論を取り入れた看護面談(看護師が行う面接)をプログラム化し、それを対象の患者さんに行って変化を見るという介入研究を実施したのです。認知行動療法の最初のステップである“問題を整理する”ことをプログラムに取り入れ、意図的に看護師が関わることで、例えば副作用の中でもこの問題であれば患者自身で対応できるというように話に持っていくことで、患者さん自身が問題に整理をつけられるように認知・行動面の変容が見られるケースもありました。
 また、このプログラムによる介入の前後や、介入した群と介入していない群との比較を行ったところ、介入した群の方がQOL(Quality of Life:生活の質)が上がり、がん治療に対するコントロール感も良いという結果が得られています。

 今回は外来看護師による介入として実施しましたが、本来、外来看護と訪問看護の基本的な違いは、対象が定期的に来院して治療を受ける患者か自宅で治療や療養する患者かということですから、自宅で療養されている方への介入という意味で共通点は多々あります。ですから今回の研究は、訪問看護師として介入する場合にも有効だろうという手ごたえを感じています
 認知行動療法についても、この研究では認定心理士かつ研究者の方に、常にプログラムのチェックや介入の質を担保するためのコンサルテーションを受けながら進めました。私自身は事前に認知行動療法に関する様々な教育を受けたり、ワークショップに参加したりして、スキルを身に付けました。ただ、もともと看護師は対人援助のベースができている職種なので、心理士に求められるコミュニケーションスキルについても、すでに身に付いていると言えます。ですから認知行動療法に関する短期間の研修や教育を受けるだけで十分、活用可能なのではないかと思います。

■今年度、「在宅看護学実習」は学内実習として行われたそうですが、そのプログラムについても教えてください。

 従来の「在宅看護学実習」は、4年生が訪問看護ステーションで、4日間、現地の訪問看護師に同行し、実際に療養されている方の自宅を訪れるという実習内容になります。ですが2021年度は、新型コロナウイルス感染症の影響で、実習時に東京都に緊急事態宣言が出ていたことや学生のワクチン接種が完了していなかったため、5日間の学内実習に切り替えての実施となりました。
 この学内実習のために看護学科の大木正隆先生と、さまざまな点で工夫をこらしたプログラムをつくり、実施しました。例えば、学習者の意欲を高める動機づけモデル“ARCS(アークス)モデル”を取り入れています。今回、学内実習を行うにあたって、最初に危惧した点が、学生が受け身になることです。また、実際に訪問看護ステーションに行く場合は、学外という程よい緊張感がありますが、学内となると知っている学生や教員の顔が並ぶため、緊張感が薄れることも心配でした。また、この実習は4年間の集大成となる実習に位置付けられているため、既存の知識や学びをより統合的に理解してもらうことも願っていました。そこで学生に主体的に取り組んでもらえるように、“ARCSモデル”の「注意(Attention)」「関連性(Relevance)」「自信(Confidence)」「満足感(Satisfaction)」の4つの視点で実習を組み立てました。
  学内実習の内容を簡単に説明すると、1日目は訪問看護師が利用者宅を訪れ、実際にケアするという一連の流れを撮影した学習用動画コンテンツを視聴し、それをもとに看護計画の立案を実施しました。学生には自分が訪問看護師としてその場に立っていると思い、これまでの経験や知識を総動員して動画から情報を収集し、分析して看護計画を立ててもらったのです。訪問看護師の場合、患者さんの自宅に一歩足を踏み入れた瞬間から、その家の中のすべてが情報源になります。何気なく飾ってある写真からご家族の背景や関係性を察したり、その方の趣味や価値観も見えてきたりします。そういう情報を得る視点を体験してもらう1日としました。学生は短時間に動画から情報収集し、看護計画の立案まで行わなければならず、非常に難しかったという感想もありました。ただ、最初になぜこれだけ短時間で行うのかという理由やこれまでの知識や経験を総動員させて取り組んでほしいと声掛けを行ったことで、学生のモチベーションは上がったようです。また、立案した看護計画に対して、教員から解答の一案や評価をフィードバックすることで達成感を持たせ、その日で完結する形にしたので、比較的、学生の満足度は高かったようです。

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 2日目は訪問看護場面のシナリオ作成とロールプレイを行いました。患者さんとご家族の最低限の設定情報を伝えて、訪問看護師として行くときに何をするかということを考えてもらいます。学生は前日に動画で訪問看護師が玄関を開けてから、どういう形でケアを実施するのかという様子を見ているので、それらを参考にしつつ訪問看護師・患者・家族の会話をシナリオに起こしていきます。次に実習室の一部に用意した畳敷で、グループごとにシナリオに基づいたロールプレイを行います。患者役の教員、家族役の学生がいて、看護師役の学生が訪問看護の場面を再現するという形です。また、患者役である教員は、シナリオにはない突発的な質問をして、その場の対応力を問うような仕掛けもしました。想定したシナリオ以外のことが起きるので、少しは緊張感を持ってもらえたと思います。最後にディスカッションの場を設け、各グループの実演に対して見ていた学生が気づきや意見を伝え、教員が講評しました。

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 3日目は初日と同様に動画を見て、看護計画を立案してもらいました。初日とは患者さんの設定が異なっています。
 4日目は、吸引の実技演習です。喀痰吸引シミュレーターを用いて、教員のデモンストレーションの後、気管切開からの吸引を一人2回は練習できる時間を設けました。

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最終日は、学生と教員との個人面接です。そこでは実習の目標に対して、自分がどこまで達成できたと思うか、その理由を丁寧に振り返りました。これまでの学びを自分のものに定着させるため、自分の言葉で言語化できるように面接を行ったのです。
 最終日は、学生と教員との個人面接です。そこでは実習の目標に対して、自分がどこまで達成できたと思うか、その理由を丁寧に振り返りました。これまでの学びを自分のものに定着させるため、自分の言葉で言語化できるように面接を行ったのです。

 また、これらの実習は午前中に行い、午後からは帰宅してオンラインで訪問看護師のインタビュー動画を視聴してもらいました。事前に教員が複数の訪問看護ステーションの訪問看護師に各施設の概要、実際のケア内容、学生へのメッセージを含めてインタビューさせていただいた動画です。それを初日から4日間、午後に自宅から見てもらい、翌朝、動画の感想を全員に発表してもらい、学びを共有する流れをつくりました。
 学内実習の後、学生に授業評価のアンケートを取ったところ、評判はかなり良かったですね。ですから2022年度は、新型コロナウイルスの感染状況や社会の動きを見ながら、臨地実習と組み合わせて、今回の学内実習プログラムも行う予定でいます。また、今後は演習科目や講義の中でも今回の実習のエッセンスを取り入れて、学内での学びを重層化できればと考えているところです。

■今後の展望をお聞かせください。

 現在は、訪問看護師へのインタビュー調査と質問紙調査を進めています。それを通してわかりつつあることは、外来看護を対象に行った研究では、看護面談によって患者さんの認知を動かし、行動の変容を促す介入に着目しましたが、訪問看護師の場合は、それが日々の関わりの中ですでに行われているということです。
 そこで、まずは訪問看護師がすでに行っていることを可視化する研究を進めていきつつ、介入のプログラムや方法を見つけていこうと考えています。特に外来看護の研究では、外来で化学療法を受けている人に焦点を当てていましたが、実際に在宅医療・ケアを利用されている方は、化学療法を受ける人だけでなく、緩和ケア主体、つまり積極的治療を終了して、症状緩和のための支援が中心になっている人もいるため、そうなるといずれ自身の“死”について考えるタイミングが来ます。終末期の患者さんに携わる訪問看護師は、日々のケアを通して築いた信頼関係をベースに、終末期の話し合いへと徐々にフォーカスしていきます。具体的には、最期はどこで看取ってほしいか、どういう最期の時間を過ごしたいかという終末期の話し合いに焦点を当てたケアです。訪問看護師はそういうケアを担うことが多く、それを得意としている面もあるので、終末期の話し合い(End of life discussions)に着目した介入研究に取り組みたいと考えています。
  また、訪問看護師のバックグラウンドは多様です。病棟経験が長い人もいれば、そうではない人もいますし、専門としてきたものや経験の違いによって、強みも異なります。ですから、どんな背景を持つ訪問看護師も質を担保した形で終末期の話し合いができるようなツールをつくりたいと思っているところです。

■先生にとって研究の面白さとは何でしょうか?

 臨床現場では、研究の種になるような疑問がたくさん転がっています。それについて仮説を立てて、データを取って研究していく中で、明らかになっていく過程が面白いですね。仮説と少し違うこともあれば、仮説通りということもあります。また、一つの研究にアプローチしていく中で、別の新しい研究の種が出てきて…と、どんどん広がっていくところも知的好奇心を刺激されて、楽しいです。
 さらに、看護の研究は現場と非常に密着しているので、研究で明らかになったことを現場に還元しやすい面があります。そんなふうに研究と実際の現場が繋がっていると実感できるところも醍醐味だと思います。

■学生にはどのような力を身に付けて、巣立ってほしいですか?

 医療は日進月歩で変化するため、看護師を含め、この分野に携わる人たちは、常に勉強すること、向学心、向上心、探究心を持って主体的に取り組む力が求められます。例えば、今、行っているケアが10年後には、最良のケアではないかもしれません。ですから主体的に勉強をして、アップデートしていく姿勢が必要です。その根底には、看護への熱意や「看護が好き」という思いがあるのではないかと思います。ぜひそういうマインドを本学で養ってもらえたら、現場に出て辛いことがあっても、乗り越えていけるのではないかと感じています。

■最後に受験生・高校生へのメッセージをお願いします。

 東京工科大学の医療保健学部には、さまざまな医療分野の学びがあります。当然、それぞれの職種によって、専門性は違います。ですから入学する前に、ぜひ、それぞれの専門性や仕事内容を、よく調べておくことをお勧めします。特に医療系は将来的なライセンスとダイレクトに繋がりますから、どの学科でどのライセンスが取得でき、それはどんな仕事なのかをしっかり調べてから、進路を選択してください。
 また、看護学科を目指す人にお伝えしたいのは、看護はサイエンスとアートだと言われる分野だということです。エビデンスに基づいた知識と技術等を繋ぎ合わせながらケアを実施することに加えて、人間を対象にした学問ですから、人間的な成長や豊かさ、倫理観、価値観が求められる職種でもあります。ですから単に教えられることを待つのではなく、自ら学んでいこうという姿勢が持てると、4年間の看護学科での学びはとても充実しますし、楽しい時間が過ごせるはずです。看護を志す皆さんと一緒に学べる日を楽しみにしています。
■医療保健学部 看護学科WEB:
https://www.teu.ac.jp/gakubu/medical/ns/index.html