大学の学びはこんなに面白い

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研究・教育紹介

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デザインは未来へのプレゼントづくり

2023年7月14日掲出

デザイン学部 小山 祐輔 助教

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建物の設計や空間デザインを専門とされている小山先生。幼い頃からものづくりが好きで、特に建築や空間に興味を持っていたそうです。今回は先生のご担当されている授業やご研究について、お聞きしました。

■先生がご担当されている授業について、教えてください。

 3Dモデリングや空間系CADを学ぶ「専門スキル演習」と、「人間工学」の講義、空間デザインの「専門演習Ⅱ・Ⅲ」を担当しています。あとは、4年生の卒業研究も見ています。
 例えば「人間工学」は、人の特性に合わせてデザインできるようになることを目的とした講義です。人間工学と聞くと、その言葉の響きからプロダクトや空間といった工業系のデザインをイメージするかもしれませんが、この授業は視覚伝達コースや視覚情報コースを含め、本学部のすべての専攻・コースの学生が受講します。というのも、視覚的表現の分野でも、人の特性に合わせることは必要になってくるからです。
 この講義は座学ですが、デザイン提案をするという課題を数回設けています。例えば、本棚の設計や新しいスポーツ競技の提案、ドアハンドルのデザインなどを課題として出しています。人間の身体特性や認知特性に配慮してデザインに取り組みますが、工業デザイン系の学生が有利かと思いきや、視覚デザイン系の学生もなかなか面白い提案をしてくれるので、専攻分野の特性による有利不利はないようです。

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「人間工学」受講生による成果例


 最終課題に関しては、視覚・情報・工業・空間の4つのデザイン分野×人間工学というテーマで、4種類を用意しています。これまでの具体例を挙げると、「街で見かけたダメなサインのリデザイン」、「わかりやすい映像表現の分析」、「インターネットとものが接続するIoT時代のプロダクトデザイン」、「居心地の良い空間の人間工学的分析」の4つです。ただし、どの専攻・コースの学生がどの課題テーマを選んでも良いことにしています。面白いのは、自分の専攻・コースとは違う分野の課題に取り組む学生が多いという点です。空間デザインの学生が視覚系の課題に取り組んだり、視覚デザインの学生が工業デザインの課題に取り組んだり。しかも、なかなかアグレッシブに取り組んだ提案が多くて、最終成果物は、毎年、私自身、楽しみになっています。

 「スキル演習」では、3DCADソフトのRhinoceros(ライノセラス)やTwinmotion(ツインモーション)というレンダラー(画像や動画を生成するソフトウェア)を使いながら技術を学び、磨いていきます。昨年は、名作住宅を再現して周辺環境をデザインしなさいという課題を出したのですが、ソフトを使い始めて3ヶ月程度の学生と思えないほど密度の高い成果物が出てきて、驚かされました。

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「空間系CAD」受講生による成果例


 また、昨年は空間演出デザインコースの「専門演習Ⅱ・Ⅲ」も担当していたので、「専門スキル演習」と連携するような課題を出しました。世界的に有名な住宅の資料を学生に渡して、それを元に巨大な完全再現模型をつくるという課題です。学生は、図面を一生懸命読み解いて、写真を穴が開くほど見て、材料の質感までどう模型に再現するかといったことも含めて、リアリティのある模型をつくることに取り組みました。空間を読み解く力だけでなく、建築写真家が撮影した写真を深く分析することで、空間を表現する力も養われたと思います。それと並行して「専門スキル演習」では、その名作住宅を3DCADでモデリングすることで、様々な手段で空間を扱うことを意識しました。
 さらにその課題の後は、その名作住宅を世界のどこか違う場所に移築し、その建築の持っている特性と移築先の環境特性を最大限活かし、新しい使われ方と周辺環境をデザインする課題を出しました。これにも学生たちは熱量を持って取り組んでくれて、成果物も面白いものができていましたね。

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空間演出デザインコース「専門演習Ⅱ」受講生の成果例

■では、先生のご研究について、お聞かせください。

 住宅などの建築設計や空間デザインを手がけています。その中で、3DCADによるシミュレーションを活用したデザイン研究という研究テーマがあります。例えば、ポスターや家具をつくろうという時、一度、試作してみて、最終的な成果物について検討することができますよね。しかし、建築はそうはいきません。そこで模型や図面、3Dシミュレーションによって検討を重ねていきます。実際のデザインの現場でも、色々なCGシミュレーションを用いて検討がなされています。実寸でシミュレーションするので、完成する空間とモデルは、ほぼ同じと言えるほど精度が高く、現場で起こり得るトラブルを事前に予測したり、クライアントや関わる人たちと事前に情報を共有できたりするというのは、大きなポイントです。また、敷地のロケーションや環境の情報を入力すると、その光環境などもデザインする段階での検討材料に含めることができます。建築や空間は動かないものがほとんどですが、光の採り込み方をデザインすることで、時間帯や季節によって驚くほどダイナミックに変化する空間になります。実務の場面だけでなく、新しい空間デザインを探求する上でも、様々な切り口からデザインし、検討できるCGシミュレーション技術を活用して研究を進めています。

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「玉城の家 2」の竣工写真とデザイン検討モデル


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「GREY HOUSE」デザイン検討モデル


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「GREY HOUSE」内観写真。様々な方位・時間帯の自然光を採り込む


 あとは、建築空間に呼応するような家具の在り方についても探求しています。ものが建築に及ぼす作用や空間デザインをどう変えていくかということに興味があって、その辺りの研究も進めているところです。
 今、私たちデザイナーが何かものをつくる時には、デザイナーがデザインして、それを大工さんや印刷業者が形にするというように、つくり手とデザイナーが分離された状態にあります。そうした仕組みができたのは、今から500年ほど前のことで、それ以前はつくり手とデザイナーは一体的な存在だったと言われています。しかし、現代ではデジタル技術の発展によって、デザイナーがものをつくり、もののつくり手がデザインをするという“デジタルターン”と呼ばれる時代が来ていると言う研究者がいます。
 実際にデザインの現場にいる私から見ても、そういう流れを強く感じます。例えば、海外では、デザイナーにプログラムされたロボットアームが建築空間をつくるような事例がたくさんあります。この場合、デザイナーとロボットだけでものづくりができます。国内の事例では、ShopBotというデジタルデータをもとに木材を加工する機械を、木材を製材する山中に持っていき、そこで必要なパーツをつくって、実際に組み立てることを行った面白いプロジェクトもあります。本来、伐採された木は、それを加工する工場に集められ、加工された木材が製作現場に届けられるという流れだったところから、材料のある山の中でパーツをつくり、製作できるような仕組みになっているのです。特にこのプロジェクトでは、直径15km圏内に、木の生産者と加工者と実際にそれを組み立てる場所があり、ものすごく近距離で成立していたところがユニークだと感じました。
 このようにデジタル技術が発展すると、人手不足が深刻化する産業の救い手となるだけでなく、場所にとらわれないものづくりができ、さらにはコミュニティの変容もどんどん起きてくるだろうと思います。

 とはいえ、私が普段関わる住宅を求めるクライアントのところまでは、そこまでダイナミックなデジタルターンの波は行き届いていません。しばらくは、今までの工法で、工務店が家をつくるという流れは変わらないでしょう。一方、私としては、家具などの建築未満のスケールでは、デジタルターンの波をうまく活用できるという実感があります。というのも特にコロナパンデミック以降、個人の求めるライフスタイルがより多様化したり具体化したりするケースが増えてきているからです。仕事のオンライン化に伴い、在宅時間が増えたことで、家の居住性や機能性、間取りや生活環境など、人それぞれの求めるものがクリアになってきている印象があります。そういう要望を叶えていく時に、建築側でできることもあれば、建築未満の家具の扱いなどで応えられることもあるはずです。
 実際、昨年末に完成した住宅では、家具を自分たちで設計して造作することに取り組みました。玄関に入ってすぐの場所に設置するパーテーションとダイニングソファーと本棚を兼ね備えているようなプロダクトで、玄関側には傘を掛けたり、掴まれる場所があったりし、クライアントのお気に入りのものを飾ることもできるなど、色々な生活の振る舞いを受け止める一つの家具としてつくったのです。そんなふうに、その場所で求められているものにデザインが合わせていくということは、とてもスムーズで手掛けやすい印象でした。ですから、そういう家具と建築の関わりについて、今後、もっと深めて研究していきたいと思っているところです。

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「GREY HOUSE」の家具

■デジタルターンなど、これからのデザインを見据えて、学生はどのようなことを学べば良いと思いますか?

 もののつくり手とデザイナーが一体的になって、分野を横断するような流れが、今後より強くなるだろうと思います。そこで重要になってくるのは、その人自身の興味です。私だけでなく、同業者たちはみんな持っている感覚だと思いますが、専門性を突き詰めることも重要ですし、専門家でしかわからないこともたくさんありますが、その専門性を妄信できない時代になってきていることも事実です。そんな中、空間デザイナーが家具をデザインすることや、世界的なファッションブランドをつくることもありますし、パティシエになったり映画監督になったりもしています。自分の専門性を活かして、色々な職能を広げていくということが、あちこちで起きているのです。
 つまり、空間デザインだからインテリアデザインや建築という思考では、今の横断的な時代の流れにそぐわない。それよりももっと可能性の探求を、という傾向があるように思います。本当に幅広いデザイン分野が、どんな領域にも関わることができるのです。それは自分の興味を深掘りできる土壌が世の中的にでき始めているとも言えると同時に、自分自身で選び取るという責任も問われているような気がしています。
 そういう背景を考えると、本学のデザイン学部には、幅広い専門分野の先生たちが揃っていますし、来年度からの新カリキュラムでは、今まで以上に色々な学びの分野を横断する方向へとシフトしていくと思います。映像デザインにも空間デザインにも興味があって、家具もつくってみたいといった、横断的な思考を持つ人たちが、自分の興味を深めやすい環境をつくることができるのです。そういう本学部の在り方が、これから一層、強みになってくるだろうと思います。

■先生が建築やデザインに興味を持ったきっかけとは?

 私は、子どもの頃からものづくりが好きで、プラモデルもたくさんつくりましたし、レゴブロックにも夢中になりました。また、厚紙や工作用紙で多面体をつくったりもしていて、今、振り返ると、建築模型みたいなものを色々とつくっていたなと思います。また、建設中の工事現場を眺めるのも好きで、小学校1年生の頃、実家を建て替えた時は、その現場にずっと貼り付いて見ていました。建築の何が面白かったかというと、つくったものの中に自分が入れることに感動したんですよね。おそらくそれが、今の仕事のルーツになっているのではないかと思います。
 大学では建築を学ぼうと、高校3年生の夏ぐらいまでは、理工系の建築を志望していました。ただ、オープンキャンパスに行っても、自分が知りたいことと違うような印象を受けて。その時に美術大学にも建築学科があることを知り、見に行ってみたんです。そこには油絵や彫刻や工芸など、色々なものづくりをしている人たちがいて、とてもクリエイティブな中で建築を学べるのが良いなと感じ、すぐに美術大学へと進路を変更しました。私の建築観はものづくりの延長線上にあると感じていたので、実際にものをつくりながら学べる環境を求めて、そういう進路を選んだのだと思います。
 その後、大学院に進学して、イギリス人の教授の研究室に所属しました。そこで国際建築コンぺに参加するなど、日々、先生とディスカッションする中で、もっと知見を広げたいという思いが湧き上がり、ポルトガルで行われた建築のサマースクールに参加したのです。
 そこでは多くの刺激と重要な出会いがありました。私はどちらかというと感覚的にものをつくるとか、美しい形を生み出していくことをベースにした、手仕事の延長線上に建築があるスタンスでしたが、そのサマースクールで、あるスイス人の建築家を先生とするスタジオに入り、彼の出した課題に世界各国からきている学生たちと取り組み、議論することを経験しました。様々な文化圏から集まった人たちと、建築的アイデアについてロジカルに議論を重ねた経験は、すごく斬新で、鮮やかに感じたのです。
 そうした経験もあって、そのスイス人の建築家に師事し、彼の事務所で2年間、勤務しました。スイスは日本と異なり、景観そのものが国の重要な観光資源であるため、好き勝手に建物を建てることができません。その建物は何百年も残るものだという、ある種の責任感から、時間をかけて丁寧につくっていきます。市民たちに、本当にこの建物を建てるべきか否かを問う住民投票の制度もあり、デザイナーはもちろん国を挙げてものをつくることに対して、かなり重い責任を課す土壌があるように感じました。つくっては壊すという日本の、戦後の価値観の中で生まれ育った私にとって、それは大きなカルチャーショックでしたね。そんなふうにスイスと建築を介して縁ができたことから、現在もJSAA日瑞建築文化協会の理事メンバーとして、日本とスイスの建築文化の活性化をはかる活動をしています。

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ポスターデザイン:Studio Sebastlan Fehr

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E2A ピート・エッカート&ヴィム・エッカート展覧会
「Methodologies – スイス建築の方法論」


 その後、そのスイス人建築家とのつながりから、三重県伊勢市の設計事務所で勤務しました。本学の教員となったのは、私が恩師に恵まれたからだと思います。大学院生の頃は、本学部の授業に教育活動のサポートとして参加させてもらっていましたし、スイスにいた時は、ボスであるスイス人建築家がノルウェーの大学で教えていたので、アシスタントとして付いて行き、学生の指導をサポートしました。学生と一緒に空間について議論したり考えたりするのが楽しくて、自分のデザインにも活かされたことから、そういうフィールドにも軸足を置いておくことが大切だと感じています。

■最後に受験生・高校生へのメッセージをお願いします。

 デザインという仕事は、未来に対してプレゼントをつくるような作業だと思っています。どんなデザイン分野でもそうですが、未来について考え、未来に対して提案し、形にしていく。そういうことをデザイナーはしています。
 私が好きな言葉に「Learning by Doing」というものがあります。何をつくるかということには、正解がありません。正解がなく、わからないから、取り組みながら、学び、考えていく。たくさん検討する必要がありますし、好奇心を持って学び続ける必要があります。そういう意味では、今、変化の激しい社会に対する自身のマインドとして、デザインに携わってきて良かったなと思います。社会がどうなるかわからない時、慌てふためくよりも、これからどういう社会との関わり方ができるだろうかといった思考をすることができるからです。そんなふうに、目の前のことに向き合い、楽しめるような姿勢が、デザインやクリエイティブを学ぶと自然と身に付くので、これからの時代を生きていくための大きな力になるのではないかと思います。

 今、話していて、ふと思い出した景色があります。昨年、海の近くにある住宅を手がけていた時、現場に向かう途中、いつも海の風景を見ていました。ある台風が近づいていた日、海にサーフボードを浮かべているサーファーたちの姿が見えて。「こんな悪天候の日にもサーフィンに行くんだ!」と驚いたことがありました。なんだかそれがデザインの関わり方に似ているかもしれないと、今、思ったんです。
 もちろん凪の時に、海に浮いているだけでも気持ち良いとは思いますが、荒波が来た時、それを楽しむようなマインドがサーファーにはあります。そういう目の前で起きていることを楽しんでエネルギーに変えていくような姿勢を、きっとデザイナーたちも持っているのだと思います。そういうものを学生たちにも、ぜひ持ってもらいたいですね。ですから、積極的に取り組む、意欲ある人たちが入学してきてくれると嬉しいです。