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学生たちの若い感性を活かして、次世代を担うグリーンデバイスの研究に取り組んでいます!

2020年2月28日掲出

工学部 電気電子工学科 前田就彦 教授

千種康民 准教授

 大学時代から企業時代、現在に至るまで、長年、半導体の研究に取り組んできた前田先生。環境にやさしく、高性能・高機能なグリーンデバイスを開発しようと研究を進めています。今回は先生の研究室での取り組みや学生への思いを語っていただきました。

■先生の研究室ではどのようなことに取り組んでいるのですか?

 サステイナブル(持続可能)で豊かな社会の実現を目指して、省エネで地球環境にやさしい光・電子デバイス、いわゆる“グリーンデバイス”を開発しようと研究しています。具体的には、窒化物半導体を中心とするワイドギャップ半導体という新しい半導体を用いて、高性能・高機能でサステイナブルなグリーンデバイスを開発しようと進めているのです。
 半導体という言葉を耳にしたことがあると思いますが、これはみなさんの生活や身近なところで活用されているもので、現代の科学技術社会には不可欠なものです。例えばデジタルカメラ、スマートフォン、パソコン、冷蔵庫などの家電の電子デバイスとして用いられているほか、インターネットの光通信やLEDといった光デバイスにも欠かせません。また半導体の大半は、シリコンやガリウム砒素(ひそ)という材料からつくられています。しかし、これらはもう研究され尽くし、性能が限界に達しています。さらにガリウム砒素には、砒素という有害なものが使われています。そこでこれらに代わる新しい半導体が必要だということで、ワイドギャップ半導体が注目されているのです。
 私が研究しているワイドギャップ半導体のひとつが窒化物半導体ですが、これは高温や放射線に強く、高効率動作が可能なため、電源アダプターに用いれば小型化ができますし、PC内に入れることも可能です。また耐高温性により自動車のエンジンルームにも向いていますし、携帯電話の基地局や車載レーダー、人工衛星にも使うことができます。実際、携帯電話の基地局にはかなり使われるようになっていて、応用研究が盛んに進められています。
 私の研究室でも卒業研究として、窒化物半導体LEDの設計から作製まで取り組んだ学生もいれば、窒化物半導体トランジスタを作製し、特性の測定をした学生もいます。もちろん材料そのものを研究する学生もいます。この研究室では材料からデバイス、その応用まで幅広い研究に取り組んでいるのです。

■窒化物半導体は素晴らしい性能を持っているようですが、応用にはどのような課題があるのですか?

 課題は大きく2つあって、ひとつは信頼性の問題。もうひとつは価格の問題です。信頼性という点では、今、主流のシリコンにかないません。例えば、電気自動車の制御は電気デバイスで行いますが、もしそれが途中で壊れたら危険ですよね。そういうことは絶対に許されません。ですからまずは信頼性を確立する必要があります。
 それから価格の問題ですが、シリコンは圧倒的に安価なのです。これは非常に重要なことで、例えば窒化物半導体を使ってスマホの性能が良くなったとしても、今より価格が20万円値上がるとなったら、どうですか? よほどの人でないと買わないですよね。もちろん、窒化物半導体にしかできないこともあります。シリコンで高周波の車載レーダーはつくれませんが、窒化物半導体であれば可能です。高周波・高出力の電子デバイスとなれば、窒化物半導体が圧倒的に強いのです。とはいえ、価格の問題をクリアしなければ産業は広がりません。同時に価格を下げるには産業が広がり、需要が増えなければならない。それには信頼性が不可欠だというわけです。


■先生が窒化物半導体の研究を始めたきっかけは? また、その面白さとは?

 この研究は、青色LEDや青色レーザーから始まっています。LEDは1962年に赤色LEDが発明されて以降、1970年代には赤、黄、橙、緑の各色LEDが揃ったのですが、青色LEDは実現されておりませんでした。そこで青色をつくろうと、多くの研究者が研究をしていたのです。もし青色をつくれたら、赤、青、緑の光の3原色が揃うからです。そこで注目されたのが、窒化物半導体でした。やがてこれにより青色発光ダイオード(青色LED)がつくられ、開発した日本の研究者は2014年にノーベル物理学賞を受賞しています。
 この研究が最も熱を帯びていたのは1990年代です。その頃の私はNTTの社員でしたが、その研究のセッションに参加して、ものすごい熱気に包まれている様子に接しました。また、当時は青色レーザーや青色LEDをつくろうとしている人がたくさんいましたが、私はこれをトランジスタに使ったら面白いのではないかと思い、日本ではかなり早い段階から研究を始めました。その後、窒化物半導体は非常に大きな発展を遂げるわけですが、今も世界でこれに関する研究は続いています。
 研究の面白さのひとつは、半導体そのものの魅力にあります。半導体自体は非常に有用ですが、求められなければなくてもよいものです。それがここまで活用されるようになった理由は、コンピュータが飛躍的に発達したからです。トランジスタラジオだけで人々が満足していたら、ここまで大きな市場にはなりません。コンピュータで大量に使われ、デスクトップPCが発売され、さらに必要とされるようになり、今度は携帯電話やPHS、今はスマホなどの通信機器まで拡大しました。ですから何に使うか、どう使うかという点で面白いアイデアを出せば、市場はぐんと広がるという面白いものなのです。
 また、誰も知らないことを最初に知ることができるというのも研究の醍醐味です。私が大学院生の頃、半導体結晶の原子構造の乱れについてある計算をしていたところ、世の中で信じられていることを否定するような計算結果を得たことがありました。何度確認してもやはり私の計算結果が正しい。つまり世の中で信じられていることが間違っているとわかったのです。その時、その事実を知っているのは、世界で私ただ一人です。この感動は忘れられません。もちろん、研究とはそんな感動ばかりではなく、実際は実験がうまくいかず、試行錯誤して方法を思いつき、試してみて再び谷底に突き落とされるということの繰り返しです。そうして研究は進んでいきます。だからこそ、ほんの少しでもうまくいけば、ものすごくうれしいのです。

■学生には、どんなことを期待しますか?

 先ほど、窒化物半導体の価格の話に触れましたが、多くの人が使いたい、それを使ったモノが欲しいと言ってくれなければモノの価格は安くできません。そのために新しい使い道を考えるという応用研究があるのです。学生には半導体の物理的なことやデバイス、LEDやレーザー、トランジスタなどの原理、構造などの知識を教えていますから、その知識を用いて、どう使うかという斬新なアイデアを出してくれることを最も期待しています。半導体は今後ますます重要になってきますから、若い学生だからこそ持ち得る感性で、その新しい使い方を見つけてほしいです。
  また、本学部は大学院が開学しました。理工系の人材が活躍する日本企業の多くは、今、専門知識と総合力を有する即戦力の人材を求めています。同時に海外では日本以上に大学院卒であることが評価され、ビジネスにおける大きな信頼につながっています。つまり、グローバル化が進む今、大学院で学んで修士号・博士号を取ることは、将来性のある選択のひとつだと言えるのです。大学院では自分の研究でまだ世界の誰も知らないことを明らかにできるうえ、そのプロセスから社会に通用する総合力も身に付けられます。ですから多くの学生が大学院に進学してくれたらと願っています。

■最後に受験生・高校生へのメッセージをお願いします。

 本学の工学部では、世界で注目されているサステイナブル工学を学ぶことができます。特に電気電子工学分野は、今の科学技術のいたるところに関わっていますから、これを学ぶことは人生の幅を広げることにつながると言えます。ですから、ぜひ学んでほしいですね。また、将来の選択肢に大学院も加えて、検討してみてください。実際に本学部には大学院で力を伸ばし、国際的に評価され、自信を深めている学生が多数います。もちろん大学院で先端研究をしたいという方も大歓迎です。そのための教育環境はしっかり整えていますよ。

■工学部電気電子工学科WEB:
https://www.teu.ac.jp/gakubu/eng/el.html

・次回は3月13日に配信予定です