Society5.0とこれからの広告

メディア社会コース 特集ページ

Society5.0とこれからの広告

■「5番目の社会」に求められる広告を研究

 「広告」と聞いて、皆さんは何を思い浮かべますか。スマホを見ているときに現れる目障りなメッセージでしょうか。あるいは、動画サイトで勝手に割り込んでくる宣伝映像でしょうか。このような消費者に歓迎されない広告、すなわち企業にとって宣伝効果の薄い“無駄な広告”は、インターネットだけでなくあらゆるメディアで見られます。しかし、こうした状況は、「Society5.0」時代の到来で一変するかも知れません。
 Society5.0とは、人類が辿ってきた狩猟社会、農業社会、工業社会、情報社会に続く、「5番目の社会」を指します。インターネット上の「サイバー空間」と、現実世界である「フィジカル空間」を高度に融合することで、経済発展と社会的課題の解決を両立させる社会として、日本政府により提唱されました。
 Society5.0においてビジネスは、先端的なICTを活用することにより、地域、年齢、性別などの格差なく、幅広いニーズに応じたモノやサービスを提供していくことをめざします。私たち東京工科大学のメディア学部は、このような新しい時代に求められる広告について研究を進めています。

■デジタル技術の進歩が革新的ビジネスを実現

 Society5.0時代の広告を考えるには、まず、広告を取り巻く環境やビジネスの動きを知る必要があります。今、時代の先端では、さまざまな革新的なビジネスが誕生しています。その代表例のひとつが、amazon社が米国で運営する「amazon go」という無人コンビニです。この店舗では、買い物客はスマホを持って入店ゲートを通過。欲しい商品を手に取ったら、レジで会計することなく持ち帰ることができます。この画期的な販売スタイルは、客の動きや商品の種類などを認識するカメラやセンサーと、それらIoT機器が収集した情報を処理するAI(人工知能)が可能にしています。
 そのほか、スウェーデンでは、鉄道利用者の手の皮膚にマイクロチップを埋め込み、それをスキャンすることで乗車料金の徴収を行うという、まるでSFのようなシステムの実証実験が進行中です。
 このようなデジタル技術の活用によるビジネスの革新は、今後さらに社会に広がっていくでしょう。ビジネスが変われば、企業と消費者のコミュニケーションのスタイルも変わります。広告業界は今、大きな変革の潮流の中にあるのです。

■これから広告は、「個告」になっていく

大学院生が研究中の個人対応の広告システムのコンセプト画像

 広告が抱える問題のひとつに、受け取り手である個々の消費者のニーズと、企業が宣伝しようとするモノやサービスの間に生じるミスマッチがあります。興味も必要もない商品の広告にうんざりさせられた経験は、誰にでもあるはずです。
 しかし、Society5.0では、進歩したデジタル技術により、個々の消費者が欲しい情報を、欲しいときに提供することが可能になります。例えば、街を歩いていて雨が降りそうなとき、その地域のリアルタイムの天気をIoTで把握したうえで、近くで傘を売っている店の場所などの情報を、スマホを通じて知らせることもできるようになるでしょう。
 広告でありながら、一方的な情報発信ではなく、消費者の個別のニーズに寄り添って問題解決の手助けをする。そんな“個人秘書”のような役割を果たす広告を、メディア研究の分野では「個告」と表現したりします。
 この個告を支えるSociety5.0時代のIoTネットワークが扱うデータは、その量だけでなく質の面でもこれまでと大きく違います。誰がどこで何をしているといった基本的な情報から、その人が楽しそうにしている、退屈そうにしているといった、人の感情や場の雰囲気まで認識します。こうして集めた多様なビッグデータを活用することで、個告の可能性は無限に広がっていくのです。

大学院生が研究中の個人対応の広告システムのコンセプト画像

大学院生が研究中の個人対応の広告システムのコンセプト画像

■クリエイティブのスタイルも大きく変わる

 広告の核となるコピーやデザインの制作には、人間の細やかな感覚や心理などが深く関わるものとされ、これまではコンピュータに任せることが難しいと考えられてきました。しかし、AIの進化により、この常識も変わりつつあります。
 コピーライティングに関しては、実験により250文字程度の文章なら破綻なく作成できることがわかっています。また、デザインについても、写真の選択程度の作業であれば、AIは十分力になります。ちなみに、ある大手IT企業が、AIにレンブラントが描いた大量の作品を学習させてオリジナルの絵を描かせる実験を行ったところ、見事にレンブラント風の肖像画を描き上げました。
 このような技術が進歩すれば、やがて、インターネット上に無数に存在するテキストや画像、IoTからの情報を利用して、AIが個々の消費者に向けた広告をリアルタイムに生成することが可能になるに違いありません。
 そして、それが実現したとき、広告制作に携わる人間は、より創造的な作業に力を注ぐことができるようになるでしょう。発想を飛躍させて新しいコンセプトを生み出すような仕事は人間が行い、それ以外をAIなどのデジタル技術がサポートする。こうした適切な分業がこれからの広告制作スタイルの主流になっていくはずです。

■斬新な発想で未来の広告を創造する人材を育てたい

 東京工科大学のメディア学部は、創設以来、幅広いICTをバックボーンとして、未来志向の活動を展開してきました。今日の広告業界の急速なICT化の流れを先取りする取り組みは、これまでに教育・研究の両面で多くの成果を上げています。
 また、指導する教員陣の専門分野は、メディア、コンピュータ、ビジネス、教育など多岐にわたっており、幅広い視点と分野横断的なアプローチで研究に打ち込める環境も整っています。
 このようなメディア学部の特徴は、サイバーとフィジカルのさまざまな形での融合をめざすSociety5.0時代の広告を学ぶうえで、大きなアドバンテージになっています。
 メディアやコンピュータに関する先進的な知識と技術を武器に、これまでの広告のイメージを覆す新しい発想とスタンスで、未来の広告をプロデュースしていく。そんな人材を社会に送り出していくことが、本学部の目標のひとつです。

このWebページでは、メディア社会コースの広告分野の取り組みについて進藤教授にお話をうかがいました。